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174 新メニューは秘密がいっぱい?

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「じゃあトーマスさん、ハルトたちのこと、よろしくお願いします!」
「あぁ、任せてくれ」

 臨時休業日が終わり、二日振りの営業日。
 この二日間は色々濃くて、お店がすっごく久し振りに感じられる。
 朝食を済ませた後は、トーマスさんに皆のお守りをしてもらう事になった。
 メフィストも増えたから大変だと思うんだけど、トーマスさんは嬉しそうだ。

「おじぃちゃん! けんを、おしえてください!」
「じぃじ! ゆぅくんおべんきょ!」
「あぅあぅ~!」
「ハハハ! おじいちゃん一気には見れないから順番だな!」

 ハルトとユウマ、メフィストを前にして、早くもトーマスさんの目尻が下がっている。
 依頼で家にほとんどいなかったから、約二週間振りくらいかな?
 しばらくは家でのんびり過ごすと言っていた。

「皆、嬉しいのは分かるけど、あんまりトーマスさんを困らせない様にね? 疲れてるだろうし、今日は皆でのんびり遊んだら?」
「そうね。しばらくは家にいるし、メフィストちゃんも一緒に遊べるといいわね」
「みんなで、あそぶ……」

 僕とオリビアさんがそう言うと、ハルトはう~んと悩み始めた。

「はるくん、なにしゅるの~?」
「あぅ~?」

 ユウマとメフィストは、顎に手を添えてう~んと悩んでいるハルトを見て一緒に首を傾げ悩むポーズ。
 その姿にトーマスさんはメロメロの様子だ。

「そうだ! きょうは、おじぃちゃんを、まっさーじします!」
「まっしゃ~じ?」
「あぃ~?」

 マッサージという言葉に、トーマスさんとオリビアさんもビックリしている。

「おじぃちゃん、おつかれです! みんなで、つかれ、とってあげます!」
「ゆぅくんも! おちゅかれしゅる!」
「あぃあ~ぃ!」

 三人は意気揚々と腕を上げ、今日はトーマスさんの疲れを癒す事にしたそうだ。
 早速トーマスさんの手を引いて、寝室に連れて行ってしまった。

「トーマスさん、すっごく嬉しそうでしたね……」
「そうねぇ~。依頼も大変だったし、トーマスにとったらご褒美なんじゃない?」

 確かに……。トーマスさん、ハルトたちの事になるとデレデレしっぱなしだからなぁ……。

「それもそうですね!」
「でしょ? 私たちも仕込み頑張りましょ!」
「はい!」

 今日は週替わりメニューで新しい料理が加わる日。
 注文してもらえるかは分からないけど、少し多めに仕込んでおこうっと。



「ここでいいかなぁ~?」
「そうね、邪魔にもならないし。ここでいいと思うわ!」

 蓄音機を店の奥の棚に置き、いつでも曲を変えられるようにレコードの入った木箱もまとめて持ってきた。
 明るめの曲を選曲し、蓄音機にセットしておく。
 あとは開店を待つばかりだ。

「皆の反応が楽しみねぇ~!」
「はい!」





*****

 そして六時課の鐘が鳴り、二日振りの営業が始まった。
 僕は早速、蓄音機の音楽を流し始める。
 振り返ると、オリビアさんも音楽に乗ってご機嫌で肩を揺らしていた。
 確かボサノヴァっていうジャンルだった気がするけど、今ではもう確認するのも難しい。

「「いらっしゃいませ~!」」

 お店が開店後、すぐにお客様がご来店。
 それもすっごく久し振りに冒険者の人たちが!
 しかも、前にも来てくれたミランダさんたちだ!

「あぁ~! やっと来れた……!」
「私もここの料理が食べたくて食べたくて……!」
「途中から夢に出てきたもんな……」
「「ホントに……」」

 ミランダさんたちもたぶん、あの魔法陣の見張りに加わってくれていたのかもしれない。
 森の中も、魔法陣から魔物が溢れて大変だったって聞いた。

「ありがとうございます! 今日はお腹いっぱい食べて行ってくださいね!」
「あぁ! 報酬金も貰ったし、今日はたくさん食べる気で来たから!」
「私も~! ベルトも予め緩めておいたから!」
「ふふ、じゃあ大丈夫ですね! 注文が決まりましたらお声かけください」
「「「はーい!」」」

 三人は席に座ると、いつもと様子が違うのに気付いたのかピタリと動きが止まる。

「どうぞ、お冷です」
「あ、ありがとう……」
「ユイトくん……、この音……」
「一体、どこから……?」

 ミランダさんたちは僕を見ると、不思議そうに訊ねてくる。
 しかも窓の外の方までキョロキョロと眺め出した。

「ふふっ! 三人とも面白いわねぇ~!」
「皆さん、驚いてくれました?」
「え? この音、やっぱりこの店からですよね……?」
「えぇ、実は……」
「これは昔、私がダンジョンで手に入れたドロップ品なのよ~!」

 僕がオリビアさんを見て、オリビアさんが奥にある蓄音機を示すと、三人とも驚いた表情を浮かべ固まってしまった。

「す、スゴイ……! オレこんなの初めて聴いた……!」
「私も……! ステキ……!」
「スゴイけど、何か高級店みたいで落ち着かねぇ……」

 フロイドさんとミランダさんにはかなり好評みたいだけど、ゲルガーさんだけはソワソワと緊張しているみたい。
 音楽をかけただけで、他はいつも通りのお店なのに……。面白いな……。

「さぁ、皆! どれも美味しいからゆっくり食べて行ってね!」
「「「はい!」」」

 皆さんはメニューを眺めながらアレとコレと~、と指でメニューを辿っている。
 いっぱい注文が通りそうだなと思っていると、またしてもお客様のご来店。
 今度は四人組の冒険者の人たち。
 そのうちのお二人は、腕や頭に包帯を巻いている。

「いらっしゃいませ! こちらのお席へどうぞ!」

 僕が席へ案内しようとすると、四人はキョロキョロと辺りを見渡している。
 どうやらこの音楽が気になっているみたい。

「お! お前らも来たのか!」
「ホントだ! 珍しい~!」

 男性二人、女性二人の四人組パーティで、僕は初めて見るお客様だけど、どうやら先に来てたミランダさんたちの知り合いみたいだ。

「お前らがここの飯が食いたいって煩かったからな」
「ちょっと気になっちゃいまして!」
「そうかそうか! すんげぇ美味いから早く注文しろって!」
「そうなの! 私もここのオムレツが食べたくってぇ~!」

 どうやら見張りをしながら、図らずもお店の宣伝をしてくれていたらしい。
 口コミって有り難いなぁ~。

「あ! ミートパスタがミートボール入りってなってる……!」
「あ、ホントだ。選べるようになってる!」

 キャイキャイと楽しそうにメニューを決めている三人組の冒険者さんたち。
 それが気になったのか、隣の席に座った四人組の冒険者さんたちが覗き込むように話しかけた。

「みーとぼーる、ってなんだ?」
「肉団子の事じゃないの?」
「オレらも知らないんだよ~! オレのお気に入りのミートパスタ……」 
「私たちはミートボール入り注文しよ! 気になるなら私たちの見てから注文したら?」
「そうだな、時間はあるし。ミランダたちの見てから決めるわ」
「了解! ユイトく~ん! 注文お願いしまーす!」
「はい! お伺いします!」

 後から来た冒険者さんたちは、どうやらミランダさんたちの注文した品を見て決めるみたいだ。
 ちょっと緊張してしまう。
 そして注文を取りながらも気になってることが一つ……。

「ゲルガーさん、ビフカツ無くてすみません……」
「えっ!? 俺!?」

 さっきから見ていると、以前注文してくれたビフカツを探しているみたいだったから……。
 しょんぼりと肩を落としている様で、思わず声を掛けてしまった……。

「メニュー変わっちゃったので、今日は無いんですよ……」
「そうか……。でも、そんなに分かりやすかったか?」
「以前来られた時、美味しいって食べてくれてたので……」
「ユイトくん、そんな事覚えてるの!?」
「いえ、営業再開してから僕が初めてお店に立った日なので、印象深いと言うか……」
「あ! そっか! そう言えばそうだったね!」
「はい。ミランダさんはオムレツで、フロイドさんはミートパスタでしたよね?」
「わぁ! スゴイね! オレたちのも覚えてるなんて!」
「はい。すごく美味しそうに食べてくれて、嬉しかったので!」

 二回目に来てくれた時も、同じメニューを頼んでくれてたし!

「じゃあさ、ビフカツの代わりにオススメは?」
「オススメですか? 新しい調味料が入ったので、この鶏の唐揚げフライドチキンと……、鶏もつ煮込み……、がオススメですね……」

 僕は何食わぬ顔で鶏もつ煮込みを薦めてみる……。
 オリビアさんがキッチンで笑っているけど、美味しいからオススメなの嘘じゃないし……。

「へぇ~、新しい調味料……。じゃあ二つとも注文する!」
「え!? 本当ですか!?」

 ゲルガーさんの思わぬ返事に、僕は大きめの声を上げてしまった。
 いきなり大声を上げたせいで、ゲルガーさんの肩がビクッと跳ねていたけど……。

「ユイトくんオススメなんだろ? じゃあ食ってみないとな!」
「ありがとうございます! 早速作ってきますね!」
「「「お願いしまーす!」」」

 オリビアさんが小声でやったわね、とウィンクしてくる。
 これで美味しいって認めてもらえれば、フローラさんの養鶏場でも少し売り上げが変わるかもしれないな……。


「お待たせしました! ミートパスタのミートボール入り、マルゲリータに、オムレツのチーズ入り、フライドチキンと鶏もつ煮込みです!」
「「「おぉ~~~っ!」」」
「「「「美味しそう……」」」」

 フロイドさん、ミランダさん、ゲルガーさんのテーブル席には、出来立てほやほやのパスタにピザ、オムレツに唐揚げ、煮込み料理がド~ンと勢揃い。
 匂いを嗅いだだけで、美味しそうなのが分かる……!
 それを見た隣の四人組の冒険者さんたちも、ゴクリと唾を飲み込んでいるのが見えた。

「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりください」
「「「いただきまーす!」」」

 皆で小皿に取り分けたパスタをパクリと頬張ると、三人とも美味しいと言ってペロリと一瞬で食べ終えてしまった。
 そしてピザに唐揚げを次々と頬張り、残るは鶏もつ煮込みだけ……。
 僕が息を呑んで見守っていると、三人はこれ何の肉だろう? と言いながらパクリと口に入れた。
 もぐもぐと咀嚼し、ゴクンと飲み込むと……。

「「「うっま……!」」」

 三人とも顔を見合わせ、我先にと自分の皿に取り分けていく。
 そして味わう様に噛み締めながら味わっている。

「初めて食べるけど、すっごく美味しい!」
「味も染み込んでるし、食感も面白いね~!」
「これ、酒が飲みたくなるな……」
「「わかる~!!」」

 そうでしょうそうでしょう、噛めば噛むほど味が染み出てくるのです……!
 ぬふふ、と笑っていると、オリビアさんに顔が怖いと注意されてしまった……。

「な、なぁ……!」

 僕が顔を元に戻そうと手で揉んでいると、隣の席の冒険者さんたちが声を掛けてきた。
 慌てて手を下ろし、テーブルへ。

「お待たせいたしました!」
「あの、こっちもミランダたちと同じヤツ、注文したいんだけど……!」
「うん! とってもいい匂い……」
「早くあれ食べたい……」
「かしこまりました! では注文は一品ずつでよろしいでしょうか?」
「う~ん……、あの煮込み? は二つにしてくれ!」
「ありがとうございます! ではお作りしますので少々お待ちくださいませ!」

 ペコリと一礼し早速キッチンへ向かう。
 オリビアさんは既に聞こえていた様で、パスタを茹でながら、フライドチキンを揚げていた。

 ふふふ……! これで美味しさを広めて、肉屋のエリザさんを驚かせるぞ~……!

 そんな事を考えているのがバレたのか、オリビアさんに顔に出てるわよ、とまた注意されてしまった……。

 気を取り直していざ調理! 
 どうか皆さんにも、気に入ってもらえます様に!
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