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6 出会い⑥
しおりを挟む翌朝、かるく朝食をとり、オリビアと子供たちと共に必要なものを買いに行ったわけだが……。
昨日の予想通り、村中にこの子たちのことが知れ渡っていた。
可愛い可愛いと褒められ、何故だかオリビアがまんざらでもない様子で上機嫌にハルトの手を引いていた。
ユウマは知らない人間に囲まれ少し疲れたらしく、いまはオレの腕に抱かれて眠っている。
「オリビア、一度家に戻ってからカーティスの所に様子を見に行ってくる。二人のことを頼めるか?」
「えぇ、心配しないで。お兄さん、意識が戻ってるといいんだけど……」
二人も一緒に連れて行こうかと思ったが、意識が戻っていない場合もある。
それに目覚めたとしても、いきなり知らない場所に連れてこられて、あの少年は混乱するかもしれない。
少し様子を見なければならないと思う。
「おじぃちゃん、おにぃちゃんのとこ、いきますか?」
不安気に見上げるハルトに、膝を折り目線を合わせ頭を撫でる。
ぼくもいきたいというハルトに、今日は様子を見に行くだけだが、もし目が覚めてもいきなりは動けない。体調が良くなったら皆で行こうと優しく伝えてみる。
いやいやと首を横に振っていたが、お兄さんの目が覚めて話せるようになったらすぐに教えると言うと、最後には頷いてくれた。
*****
「やぁ、トーマス! 昨日ぶりだね! ちょっと手が離せないから、勝手に入っていいよ!」
患者の診察をしながら、医師のカーティスが声を掛けてくる。
助手のコナーはカルテを手に忙しそうに動き回り、他の見習いたちにテキパキと指示を出していた。
そういえば昨日も走り回っていた気がする……。オレたちがカーティスを占領しているようなものだったからな……。
そんな忙しそうなコナーを横目に見つつ、少年が寝ている病室へと向かった。
ベッドに横たわる少年の顔色は、昨日よりはだいぶ血色が戻っているように見える。
窓を少し開けると、心地の良い風が頬を撫で、窓の外では木の葉がそよそよと揺れていた。
すうすうと寝息を立てている少年の額に汗で張り付いた前髪を指で優しく払ってやる。
少し握っただけでも折れそうな細い腕を見て、こんなにも小さな身体で弟たちを守っていたのかと、彼の哀れな境遇を愛しく思う。
「……んぅ……」
頭をそっと撫でると、少し顔をしかめるように小さく声を上げる少年に一瞬身じろいでしまった。
目を覚ますかと息を呑むが、そのまま寝入ってしまったようだ。
昨日は泥だらけだったが、拭いてもらったのだろう。
その髪は、美しい青みを帯びた、烏の濡羽色をしていた。
「その子の髪、珍しいよねぇ?」
どれくらい時間が経ったのだろうか? 少し気を抜いていたようだ。カーティスに声を掛けられるまで気付かないなんて。
「そうだな……。この子の弟たちもそうだが、こんなに美しい髪は初めて見たな」
ハルトとユウマも黒髪だが、すこしふんわりとした柔らかい印象を受ける。
それに比べ、この少年の髪はしっとりと光沢をもった艶やかなものだった。
「昨夜遅くに目を覚ましてね……。弟くんたちがいないって取り乱してたから、一応説明はしておいたよ。あと、少しだけど蕪のすりおろしたスープを口にできた。トーマスに早くお礼を言いたいってさ」
そうか、スープを口にできたのか。
そう思うと安堵の息が漏れた。
そう思うと人間とは現金なもので、今度は声が聴きたいと、はやる気持ちを抑えながら彼が目覚めるのを待つことにした。
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