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幼少期編

森で傷ついた魔物を保護したので、連れ帰りたいと思います!①

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あれから毎日一時間ほど魔法の練習をすることが日課になっている。すごく丁寧に教えて貰えるから、一週間もしないうちにコントロールもそこそこ出来るようになっていた。

手のひらに炎を発生させながら、同じ大きさの炎をもう一個生み出す。最初に作った炎は赤色で今作った炎は青色。今は、複数の魔法を同時に発生させる練習をしている。

「上手くなったじゃねーか」
「ザインのおかげだよ!」
「流石俺様だな。しかしまー、闇以外全属性の魔法を使えるって聞いたときは驚いたぞ。まあ、お前ならそんくらいできるか」

ふよふよと火の玉を出して、お手玉をしながらザインがなにかボヤいている。目の前の魔法に集中しすぎて、半分も聞こえなかったけれど褒めてくれたのはわかった。魔王城に来て一ヶ月程が経とうとしているけれど、相変わらず部屋の外に出たことはない。

ノクスの許可がないと外には出られないし、この部屋にはなんでも揃っているから不満もない。
魔法の練習だって出来るし、週に二回はケーキが食べられるように、料理長が献立を組んでくれたんだって。本当は毎日がいいけれど、身体に悪いってノクスに怒られちゃったから、我慢してるんだ。

「部屋にこもりきりで飽きないのか?」
「平気だよ。人間の街で暮らしていたときはもっと狭くて寒い所にいたから」
「……そうかよ」

悲しそうな顔を向けてくるザインに、どうしたの?って尋ねようとしたとき、扉が開いてノクスが入ってきた。手には大きくて細長い箱が乗っかっている。駆け寄ると、箱を手渡された。開けるように言われたから、テーブルに箱を置いて開封していく。

開けた瞬間、微量の魔力を感じて首を傾げる。僕の瞳と同じブルーサファイアのような石がはめ込まれた、銀色の鞘が姿を現す。細やかな装飾と繊細さに息を飲む。手に取れば、見た目ほど重くなく、手触りもいい。

「これってもしかして!」
「その剣は危険だ。鞘に納めていれば、力を半減できる」
「ふんっ!我の力を封じるなど不可能。ソルよ、その者の言うことなど……のわっ!?」

オレオールがなにか言っていたけれど、はやく鞘を使いたくて、話も聞かずに鞘へと納めてみた。カシャッという子気味のいい音が鳴り、すっぽりと刀身が覆われる。まるで、ようやく剣が完成したかのように、輝きが一段増した気がした。

「オレオールかっこいいよ!」
「むむ……たしかに力が出ぬ。しかし、まあ、なかなかよいではないか」

オレオールも気に入ってくれたみたいで一安心だ。ノクスに抱きつくと、ありがとうってお礼を伝えた。僕を受け止めてくれたノクスは、戸惑いながらも抱き締め返してくれる。抱きしめられるのは大好き。温かくて居心地がいいから。

「こやつから離れよ!」
「もう、オレオールはどうしてそんなにノクスのことが嫌いなの?」
「好き嫌いではない。こやつはソルの敵だぞ」

オレオールの言葉にぶんぶんと首を横に振る。たしかに最初は怖かったけれど今はそんなことちっとも思わない。ノクスから離れると、オレオールを優しく撫でてあげる。

「ノクスは敵なんかじゃないよ」
「ソルはなにもわかっておらぬ」
「なにもわからなくていいもん。だって、僕はまだ子供だから、これから沢山オレオールやノクスと過ごして知っていくんだ」

にへって笑みを浮かべる。そんな僕のことをノクスが撫でてくれて、オレオールもため息をつきながらも否定はしなかった。

「ソル、外に出たいか?」

ノクスに問われる。赤い瞳を見返せば、彼も真っ直ぐに僕のことを見てくれる。

「僕の気持ち言ってもいい?」
「聞かせてみろ」
「あのね、魔族の皆がどんな生活をしているのか見てみたい。部屋からじゃ見れない新しい景色に出会いたい。色んなことを学んで、僕も皆みたいに強くなりたいんだ」

ずっと後悔している。僕がもっと強かったなら、もっと凄い魔法を使えたなら、兄様は死なずに済んだのかもしれないと。両親に嫌われることも悲しかった。けれど、僕を大切にしてくれた兄様を失ったことが、なによりも辛かったから。

だから、もう後悔はしたくない。ノクスが僕にこうやって生きていく機会を与えてくれている。僕の手はまだ皆みたいに大きくはないけれど、この手で支えられるものや届くものを見つけて、救い出していきたいんだ。それが、僕の産まれた意味のような気がするから。

「そうか。ザイン、私とソルは二人で出かけてくる。他の者にも邪魔をするなと伝えておけ」
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