マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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「店員さん、この花ってまだありますか?」

お昼の少しお客さんが空いてきた頃に外の花の売り場の配置換えをしていると凄く綺麗な男のお客さんから話しかけられた。

サラサラの長い黒髪を後ろに流した背の高いその人は切れ長の不思議な色合いの瞳を今朝あみちゃんが整えてくれた寄せ植えへと向けている。

「アリッサムならあちらの籠の方にも在庫がありますのでご案内しますね」

「アリッサムって言うんですね」

寄せ植えの隅っこで白い小さな花を咲かせているアリッサムを興味深そうに眺めるお客さんがなんだか微笑ましくて自然と笑顔になる。

籠から今朝入荷したばかりのアリッサムを取ってお客さんに手渡すとその人は嬉しそうにそれを受け取って買い物かごの中へそっと入れた。

「…ありがとうございます」

「お花好きなんですか?」

「……いえ、初めて興味を持ちました。とても可愛らしくてつい」

柔らかくて優しい声音で恥ずかしそうにそういったお客さんは俺にもう一度お礼を言ってからレジの方へと歩いていってしまった。

その背中を見つめながら綺麗な人だったなーっと思う。

「星野さーん仕事してよー!」

「っ!、す、すみませんっ」

外売り場に植木鉢を置きに来たおばちゃんに怒られて我に返る。慌てて作業に戻るとおばちゃんに横を通り過ぎる時にため息をつかれた。
それに少しだけ悲しくなりながら作業を進めていく。

「星野さん、休憩取らないと」

「え、あっ。もうこんな時間か」

あみちゃんに言われて腕時計を確認するとすでに作業開始から2時間は経っていて、とりあえず形にはなったから事務所に一旦戻ることにした。

あのお客さんはいつの間にかいなくなっていて、そりゃそうかと思いながらも少しだけ残念な気持ちになる。

店の入口に備え付けられた自販機で炭酸を買って喉を潤してふはーと息を吐き出した。春先とはいえずっと外にいると汗をかくから炭酸が身体にしみてとても爽快だ。

「星野さん休憩中申し訳ないんですけどアルミ棚の積み込みお願いしてもいいですか?」

「りょうかーい」

アルミラックは重いし人がいないから仕方ないって思いつつ棚のコーナーに行くとあみちゃんが必死に持とうとしていて慌てて代わってあげた。

少し不服そうな顔のあみちゃんに大丈夫だよと伝えてからお客さんの車までラックを運ぶ。

この仕事を始めてからホームセンターの仕事はめちゃくちゃ力を使うことを知った。そのおかげで自動的に毎日ジムに行っているみたいな感じになるから腕に筋肉が付いて最近私服の袖の部分がパンパンになるのが密かな悩みだったりする。
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