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一日目リノ、夫役
3、夜のはじまり
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貴族社会では、未婚の女性は結婚するまで処女であることを求められている。
それは、互いの血脈の純潔を守るための決まりであり、もちろん、未婚の男性にもむやみやたらに女性と交わるような不純な異性交遊は認められていない。
つまり、新婚初夜というのは、童貞と処女が初めて性行為に挑戦するものなのである。
だが、童貞と処女を同じ部屋に放り込んだからといって、性行為が自然にうまくいくわけもない。
もちろん、知識としては互いに勉強しているものだが、実践となるとうまくいくとは限らないのだ。
そのため、年頃の令息を集めているこの学園では、十六歳の誕生日を迎え、その体が男としての機能を十二分に発揮するようになった生徒を対象に、春と秋に特別授業として閨の実技授業を行っているのである。
しかし、だからといって異性に手解きをしてもらうわけにはいかない。
代わりに未熟なもの同士、処女のように手間のかかる穴を提供しあって、少しずつ学んでいくのである。
「はじめるね」
「……はい」
リノは、男性役の衣装として用意されていたロングガウンを着て、ベッドの脇に立っている。
ベッドには、薄絹でできたカーテンがかけられていて、まだ中の様子を伺うことはできない。
「ルーナ、開けるよ」
「どうぞ、ソル様」
リノは見知らぬ誰かと、互いに夫婦神の名前で呼びあう。
ルーナというのは月の女神で、ソルという太陽の神の伴侶の名前だ。
閨の実技授業は、互いが誰であるかはもちろん、誰と誰が交わったのかすら、誰にも明かされることはない。
姿を変え、声も変え、名前すらも変えるのは、男性が擬似的にであれ性行為を行ったという事実を隠すためであり、この授業を終えたとしても生徒たちは変わらず童貞であると主張するためのものである。
リノが彼についてわかっていることは、琥珀色の美しい瞳をしていることと、四月から九月の間に生まれた生徒であるということだけだ。
春と秋に行われる特別授業は、四月からはじまる学園に合わせ、春は四月から九月生まれ、秋は十月から三月生まれの生徒を対象にしている。
だから、六月の生まれのリノは春の特別授業に参加しているし、同じく春の特別授業に参加している彼もまた四月から九月までに生まれているということなのだ。
リノが薄絹のカーテンを開くと、そこには先程の彼が透けた女性ものの衣装を身にまとっている姿があった。
あまりたくましくはない体に、女性ものの衣装は不思議とぴったりで、とても似合っている。
許されるならリノはいますぐ彼の着ている衣装をめくりあげ、彼の体と透けた衣装の組み合わせをじっくりと観察したいくらいだった。
だが、これはあくまでも閨の実技授業である。
彼の姿に、未来の彼女の姿を重ね、大切に大切に、その初めてを摘み取らなければならない。
リノは、そうすることが正しい性行為に繋がると閨の授業説明で聞かされていたが、今夜くらいは彼を本物の人生の伴侶として扱ってもいいのではないか、と思いはじめていた。
いつかは、本物の女性と性行為を行うのだとしても、今夜本当に体を繋げるのはあくまでも、ここにいる彼とリノなのだ。
心の中でどう思っていようとも、行為さえうまくできれば問題ないだろう。
リノは、そんな風に考えながらベッドの上にいる彼を見つめた。
恥ずかしそうに透けたガウンの裾を引いているが、その下に穿いている下着ももちろん透けている。
ほとんど体を隠せないような有り様の衣装に、リノは着ていたガウンを脱いで、そっと肩にかけてやった。
ずっと見ていたいと思う気持ちと、優しくしてあげたいという気持ちがせめぎあった結果だ。
「ソル様……」
「恥ずかしいのに、無理をさせてごめんね」
「い、いえ」
「でも、とても綺麗だよ」
リノは頬を赤らめてうつむく彼の体を抱きしめ、透けたガウンを握りしめたままの手を優しく撫でた。
彼の手から強ばりがほどけ、開いたところでその手をそっと掬い上げる。
「君の初めてを、僕にください」
手の甲に唇をそっと押し当てれば、いまにも消えてしまいそうな声で「……はい」と言ってくれるのが聞こえた。
それは、互いの血脈の純潔を守るための決まりであり、もちろん、未婚の男性にもむやみやたらに女性と交わるような不純な異性交遊は認められていない。
つまり、新婚初夜というのは、童貞と処女が初めて性行為に挑戦するものなのである。
だが、童貞と処女を同じ部屋に放り込んだからといって、性行為が自然にうまくいくわけもない。
もちろん、知識としては互いに勉強しているものだが、実践となるとうまくいくとは限らないのだ。
そのため、年頃の令息を集めているこの学園では、十六歳の誕生日を迎え、その体が男としての機能を十二分に発揮するようになった生徒を対象に、春と秋に特別授業として閨の実技授業を行っているのである。
しかし、だからといって異性に手解きをしてもらうわけにはいかない。
代わりに未熟なもの同士、処女のように手間のかかる穴を提供しあって、少しずつ学んでいくのである。
「はじめるね」
「……はい」
リノは、男性役の衣装として用意されていたロングガウンを着て、ベッドの脇に立っている。
ベッドには、薄絹でできたカーテンがかけられていて、まだ中の様子を伺うことはできない。
「ルーナ、開けるよ」
「どうぞ、ソル様」
リノは見知らぬ誰かと、互いに夫婦神の名前で呼びあう。
ルーナというのは月の女神で、ソルという太陽の神の伴侶の名前だ。
閨の実技授業は、互いが誰であるかはもちろん、誰と誰が交わったのかすら、誰にも明かされることはない。
姿を変え、声も変え、名前すらも変えるのは、男性が擬似的にであれ性行為を行ったという事実を隠すためであり、この授業を終えたとしても生徒たちは変わらず童貞であると主張するためのものである。
リノが彼についてわかっていることは、琥珀色の美しい瞳をしていることと、四月から九月の間に生まれた生徒であるということだけだ。
春と秋に行われる特別授業は、四月からはじまる学園に合わせ、春は四月から九月生まれ、秋は十月から三月生まれの生徒を対象にしている。
だから、六月の生まれのリノは春の特別授業に参加しているし、同じく春の特別授業に参加している彼もまた四月から九月までに生まれているということなのだ。
リノが薄絹のカーテンを開くと、そこには先程の彼が透けた女性ものの衣装を身にまとっている姿があった。
あまりたくましくはない体に、女性ものの衣装は不思議とぴったりで、とても似合っている。
許されるならリノはいますぐ彼の着ている衣装をめくりあげ、彼の体と透けた衣装の組み合わせをじっくりと観察したいくらいだった。
だが、これはあくまでも閨の実技授業である。
彼の姿に、未来の彼女の姿を重ね、大切に大切に、その初めてを摘み取らなければならない。
リノは、そうすることが正しい性行為に繋がると閨の授業説明で聞かされていたが、今夜くらいは彼を本物の人生の伴侶として扱ってもいいのではないか、と思いはじめていた。
いつかは、本物の女性と性行為を行うのだとしても、今夜本当に体を繋げるのはあくまでも、ここにいる彼とリノなのだ。
心の中でどう思っていようとも、行為さえうまくできれば問題ないだろう。
リノは、そんな風に考えながらベッドの上にいる彼を見つめた。
恥ずかしそうに透けたガウンの裾を引いているが、その下に穿いている下着ももちろん透けている。
ほとんど体を隠せないような有り様の衣装に、リノは着ていたガウンを脱いで、そっと肩にかけてやった。
ずっと見ていたいと思う気持ちと、優しくしてあげたいという気持ちがせめぎあった結果だ。
「ソル様……」
「恥ずかしいのに、無理をさせてごめんね」
「い、いえ」
「でも、とても綺麗だよ」
リノは頬を赤らめてうつむく彼の体を抱きしめ、透けたガウンを握りしめたままの手を優しく撫でた。
彼の手から強ばりがほどけ、開いたところでその手をそっと掬い上げる。
「君の初めてを、僕にください」
手の甲に唇をそっと押し当てれば、いまにも消えてしまいそうな声で「……はい」と言ってくれるのが聞こえた。
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