婚約者の彼から彼女の替わりに嫁いでくれと言われた

婚約破棄への困難

「……誰だ？お前の体にこんな事が出来る女は誰だ！」
「……」
真っ青な顔で何も言えないフランシスは震えていた。
フォスティヌの安否よりも、今は目の前にいる父親にフランシスは自分の事で頭の中が真っ白になっていた。
コンコン！
「旦那様、ジャコブが帰って来ました！」
「「！！」」
使用人はジャコブを連れて部屋の中を見た時、フランシスが床に座り頬が赤くなっているのを見て二人の使用人は驚いていた。
「……フォスティヌは…？」
「は、はい、屋敷へお帰りになりました。遅くなりまして申し訳ございません…お嬢様が、お帰りになりたくないと申されていましたのでこのお時間になりました」
「……」
フランシスはジャコブの話を聞き下を向いていた。
「……そうか…ご苦労だった…二人とも下がってくれ…」
「は、はい」
「失礼いたします…」
パタン！と、扉が閉まり部屋の中では重い空気でいる父親とフランシスだけになった。
「聞いたか？フランシス、フォスティヌはまだ帰りたくないと言って残っていた…」
「お前はフォスティヌを先に帰らせ何をしていた？」
「……」
「何をしていたのかと聞いている！！」
ビクッ！
怒鳴り声を上げる父親にフランシスは震え、重い口が開きシャロンと一緒にいた事を話した。
「……か、彼女と一緒……に…」
「……いつからだ…お前は、いつからフォスティヌを裏切っているんだ」
「……僕が中学の時から……」
「……」
父親はグラッと体が傾き両手を顔に被せ暫く下を向き動かなかった。
時々聞こえる微かな声にフランシスは聞く事しか出来ず、グスッと鼻を啜り涙を流していた。
「……お前は……どうしたい……」
父親の顔が両手で見えないフランシスは、ギュッと拳を握りしめ震える声で父親に話をした。
「……彼女との婚約を……決めています……」
グスッと鼻を啜るフランシスは父親にシャロンとの婚約を決めている事を話し、父親は両手を顔から離れ目を赤くしていた。
「……フォスティヌは……どうするんだ……」
「……婚約を……取り消したいと…思っています……」
「ハ…簡単に言うな…何故あの日に言わなかった？フォスティヌと婚約を結んだあの日に何故、私に『好きな人がいるから』と一言でも言えば……」
「……言えなかった…父さんと母さん、おじさん達の喜ぶ姿を見て言えなかった……僕は…僕を慕ってくれるフォスティヌにも…僕は……」
ボロボロと涙を流すフランシスは、頭を地面に付き何度もフォスティヌの名前を呼び謝っていた。
「……それは、フォスティヌに言うべきだ……」
「……」
「はぁ……」
父親のため息にフランシスは涙でグシャグシャになった顔を腕で拭っていた。
「……誰だ？相手方は……」
「…伯爵家の一人娘…シャロン・ルーベンス……」
「ルーベンス！？だと…あの旅行好きな家族で有名な…はあ…」
「有名…？」
「旅行の話になると話が止まらないと有名な貴族だ。その家族に捕まれば旅行先の自慢話を聞かされ続けると貴族の中では有名だ！……なんて事だ……」
「……」
父親は首を横に振りため息が暫く続いていた。