ヴェスパラスト大陸記

揚惇命

文字の大きさ
上 下
17 / 71
二章 いざ魔王国へ

絶望が絶望を呼んで

しおりを挟む
 カイルは、先ほどの放送を見て、考えていた。10年で魔物壁が完成した。それも全く人のいなくなったツリー王国以外?ここは半分も完成していないのに?どういうカラクリなのだろう。いや待て、さっきあのヒステリックになっていた女性が言っていた。隣のデザート地区は、永久帝国市民権が付与された?そうか。オズモンド皇帝陛下の子を産んだことで、親族になったってことだ。それが効率の良い取り込み。しかも、ここ以上に兵たちへの当たりが強くなかったとしたら?いやそんなわけないか?少なくとも5年前の放送以前は酷い扱いだったはずだ。変わったのは、5年前の放送の時か?成程、国民たちも率先して魔物壁の建設に携わるようになったんだ。人が増えれば仕事効率が上がる。完成していても不思議ではない。それに引き換え、ここは、、、ダメだ悲観的になるな。僕は、絶対に死ぬわけにはいかない。ツリー王国の魔物壁の完成にどれだけの猶予が残されているかは、わからない。だが、決して死ぬわけには行かない。自分の過去とこの国に何が起こったのか真実を知るために。死に物狂いで、働くカイル。そして5年が経過した。魔物壁はようやく後少しで完成する。そんな時、希望を打ち砕くかのように映像放送が流れる。そこには、オズモンド皇帝陛下の周りを滅ぼされた王国の王妃たちが取り囲み、オズモンド皇帝陛下が椅子に座り両足を乗せているのは、イーリス元王妃だ。
「レインクラウズクリア地区の国民たちよ。残念な知らせだ。ツリー王国の魔物壁は先程完成を迎えた。15年も経って、完成していない。ふざけるな。この牝豚の国は、国民たちの民意も低かったようだな。良いだろう。兵士たちには約束通り皆死を持って償ってもらうとして、補充の人員だが勿論居ない。あっ居たなぁ。レインクラウズクリア地区の国民たちから帝国市民権を剥奪し、奴隷手形を発行する」
「そんな、どうかそれだけは、やめてください。私なら何でもしますから」
「子どもを産めん、お前に期待などもうしていない。お前もお前の国の国民たちも俺の奴隷だ。自分の立場を理解しろ。お前は、俺に意見できる立場ではない。わかったか、この牝豚が。わかったら人間の言葉を喋るな」
「ブヒィ。ブヒブヒ」
「傑作だな。貴様らの愛した王妃は、滅ぼした男に媚びるためにとうとう人間をやめたぞ。もう全て遅いがな」
「ブヒィブヒィブヒブヒブヒィーーーー」
「煩いわ。この牝豚が、少し黙っていろ」
「ブヒッブヒッ」
「咥えながらでも抗議しおって」
「オズモンド皇帝陛下様~、後で私たちも可愛がってくださいね」
「あぁ、わかっている。お前たちは、ワシの男児を産みし、可愛い妻たちじゃ。この牝豚のしつけをした後にたっぷりと次の種を植えてやろう」
「あぁん、オズモンド皇帝陛下様ーーーーーーーー。この牝豚、わかったらとっとと諦めるのよ」
「ブヒッブヒッブヒッ」
「フンフン。そうだなぁ。一方的な虐殺は俺も好まん。この牝豚に免じて、武器は支給してやろう。それで自分自身であなたを断つもよし。無理だというのなら近くの我が精鋭たちが介錯してくれよう。ハーッハッハッハッ」
 ブツンと映像が切れると元レインクラウズクリア王国の兵士たちに武器が投げ入れられる。国民たちは、手のひらを返したように元兵士たちを応援する。それもそうだ。彼らが負ければ今度こそ国民たちが奴隷となるのだ。元兵士たちは、武器を取るとオズマリア兵に襲いかかる。カイルは、この時までそう考えていた。しかし、彼らが武器を向けたのは、元国民たちだった。
「ヒィ~。何を血迷っておるのじゃ」
「こりゃオモシレェ。俺たちに武器を向けるならすぐに殺してやろうと思ったがオズモンド皇帝陛下様からは、斬りかかられない限り手を出すなと厳命されているのでな」
「そんな、私たちが死ねば今度こそ魔物壁を作る人が居なくなるわよ。それで良いの?」
「あん、何言ってんだ。馬鹿女、じゃあ、どうしてツリー王国の魔物壁が経った5年で完成したんだろうなぁ」
「それは、他の国の奴隷が」
「奴隷だ?奴隷がいるのはここだけさ。他の国は、元兵士も元国民も永久帝国市民権が与えられてんだぜ。そりゃそうだよなぁ。我らが皇帝陛下様の男児を産んだんだからなぁ。そう、悪いのは、お前らのとこの王妃。そうとも知らずコイツら兵士に怒りをぶつけてたのは誰だっけ?自業自得ってことさ」
「そんな。私たちは何のために」
「お前さん、よくもワシに鞭を振るってくれたなあ。死を持って償え」
「キャアーーーーーー」
 そこら中から元国民たちの悲鳴が上がる。彼らが受けた仕打ちに対して、当然の報いと言えばそうなのかもしれない。だが、これはあまりにも悲惨な光景だ。自分たちの国をそこに住む国民たちを自分たちで殺し回る。こんな光景を映像放送越しでオズモンド皇帝陛下は、楽しんでいるのだろう。僕1人では、止めることすら叶わない。ルーカス爺ちゃん、この国は、自分たちの手で完全に滅んでしまったよ。この後、一通り国民たちを殺し終えた元兵士たちは、オズマリア兵に斬りかかるのでは無く仲間同士で介錯をし合って、僕以外死んでしまった。僕は魔物壁の隙間を抜け、魔物領へと逃げるのが精一杯だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...