信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

89話 暗殺者

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 ナルミ砦に入ったハンネス・フロレンスは、攻め寄せる反乱軍を相手に、まともに戦わなかった。
 それは何故か?
 率いる貴族を的確に狙い撃ちにしたからである。
 簡単に言うと暗殺である。

「ハンネス様、お戻りになられましたか?」

「うむ。この3つの首を新たにオオタカキャッスルに籠るクアッドリオン・ナンバーに送りつけてやるが良いぞ」

「相変わらずですね。先に討ち取った首と合わせて、4人の貴族の首を送り付けるとは。兄弟の首でも見れば、怒りで飛び出して来ようて」

 オオタカキャッスルを縄張りとするナンバー家は、侯爵という高い地位であり、先の祭りにおける相撲で、声高々に自分たちが参加していれば、誰1人農民風情が勝ち上がることはなかったと言った貴族である。
 このナンバー家、兄弟がめちゃくちゃ多く8人兄弟である。
 そのうち、5男から末っ子までの4人がナルミ砦を襲撃していたのだが、全員がハンネス・フロレンスによって、物言わぬ首となり、送り付けられてきた。

「ワンに続き、テンにハンドレッドにサウザンドまで、箱に入れてご丁寧に送りつけてくるなど。腑が煮えくり返りそうだ」

「堪えよ兄者。これは、この難攻不落のオオタカキャッスルから我らを誘き出す敵の小賢しい策。弟たちを亡くしたことは辛い」

「わかっているトリリオン。マルネキャッスルだけでなくナルミキャッスルまで落ちた今、このオオタカキャッスルまで、サブローに渡すわけにはいかん」

「しかしだ。トリリオン兄、攻め手を無くしたのも事実。次はどうするつもりだ」

「ビリオンの言う通り。ここは、ビリオンとミリオンに出てもらうしか無いか」

「えー。俺ヤダよ。物言わぬ首になるの。ビリオン兄さんだけ行ってきてよ」

「俺とてごめん被る。こうも立て続けに弟たちが首だけとなったのだ。近寄りたいと思わぬ」

「ならどうせよと?」

「それを考えるのがトリリオン兄の仕事であろう」

「やれやれ、ならば首に鉄を仕込むのは」

「えー。俺は、重くて却下で」

「俺とて、そのようなダサい格好で、部下の前になど立てん」

「あれも嫌だ。これも嫌だでどうせよと。ならいっそのこと。攻めるのはやめて、全員で籠りますか?」

「トリリオンよ。相手は何で的確にこっちの指揮官を狙えている?」

「兄者。それは俺にもわからん。ワンは、無策にも1人で突撃したからまだわからなくも無いがテンにハンドレッドにサウザンドは、連れていた部下には目もくれずに狙い撃ちされている」

「もしや、内通者がおるのではあるまいな?」

「兄者、それは我らを疑っているのかと言いたいところだが。考えられん。サブローは先の戦いで、ハルト卿をそして、ゴルドはデビ卿を殺している。こちら側についた貴族に対して容赦しないというのを断固として見せた。裏切りは考えられん。それを考えて、この城にいるのは、貴族だけにしたのだからな」

「そうであったなトリリオン。では、相手は何故、的確に弟たちを狙えたのだ。そこがわからぬ限り、手の打ちようは無いだろう」

「確かに。では、今は前線はそのままにして、放置ということで」

「うむ」

 ハンネス・フロレンスが指揮官を狙い撃ちできたのには、勿論理由がある。

「セクシーよ。やはりお前さんを我が家に迎えられて、良かったわい」

「ハンネス様、まさかこのような方法で指揮官を狙い撃つなんて、思いもしませんでしたわ」

「名付けて、スケベ心、釣り釣り作戦じゃ」

「まぁ、そういう仕事をしていましたから触られ慣れてますし、自分のやってきたことが無駄じゃ無いとわかったのは、嬉しいのですけど。何というか。貴族の方って、あんなに飢えてらっしゃるんですの?」

「まぁ、戦の場に女が居たら大抵の男は、あぁなるわい」

「その。それは、ハンネス様も?」

「ワシか?ワシは、もう枯れ枯れの干からびた干物じゃ。というのは、冗談じゃ。妻にしか反応せん」

 反応しないという言葉を聞いて、服をはだけさせて反応を見るセクシー。

「確かに、その反応してませんね?」

「こら、何ちゅうカッコしとるんだ」

 そう、指揮官だけ狙い撃てたのは、セクシーのお色気にハマって、ゴキブリホイホイよろしくのように、吸い込まれたからである。

「最初のやつは、それにしても何がしたかったんじゃろうな。いきなり、名乗りを上げるなど、殺してくださいと言ってるようなものじゃ」

「あれは、簡単でしたわね」

「うむ。いま、思い出しても1番簡単な仕事であったわい」

「次が」

「まぁ、連れてる部下が10人しか居なかったのでな。皆殺しでも構わなかったのじゃが」

「私が転んだだけで、目を輝かせて、『怪我はねぇか。このテン様に1発やらせろ』だなんて、野蛮でしたわ」

「直球すぎて笑ったものじゃ。次のやつなんて、傑作じゃ」

「私がいけない戦場に迷い込んでしまいましたわ。何処かに助けてくださる紳士な方がいれば、身体で御礼しますのにとありきたりなセリフを言ったら『お嬢さん。俺の名前はハンドレッド・ナンバー。これでも名の知れた貴族なんだぜ。出口まで案内しましょう』ですもの。下心、見え見えで笑っちゃいました」

「名前まで名乗って、警戒心すら無くて、楽ちんポイじゃった」

「そんな『ち◯ぽ』だなんて、ハンネス様ったらぁ」

「そんなことワシは言っとらんぞい。そして、最後が」

「あら~そこの逞しいお兄さん、私と遊ばな~いと色っぽく言ったら『へへっ。こんなところに上玉が、お前らは警戒してろ。後で回してやるからよ。お兄さんじゃなくて俺様の名前は、サウザンド・ナンバー。こんなところで貴族に捕まる子猫ちゃん』ですもの笑い転げるのを必死で我慢しましたわ」

「うむ。まぁ、お前さんのおかげで、労せず4人もの指揮官を討てたのじゃ。今頃、疑心暗鬼かますます城から出てこられんじゃろうて」

「そして、今からトドメを刺しに行きますのね」

「うむ。こうして、城に潜入して、4人の名前と顔を知ってしまったからのぉ。フォッフォッフォッ」

「では、私は安全なところで、他の部隊に合図を」

「頼んだぞい」

 そう、ハンネス・フロレンスは、ヨボヨボの爺の姿で、セクシーはそんなお爺さんを献身的に介護する使用人として、既にオオタカキャッスル内に潜入していたのである。
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