信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
上 下
88 / 140
2章 オダ郡を一つにまとめる

88話 ナルミキャッスルの降伏

しおりを挟む
 タンゲ砦に入ったハイネル・フロレンスは、敵方の城、ナルミキャッスル攻略のため連日、真実を織り交ぜた偽報を流し続けた。

「き、聞いたかあの噂」

「あの噂?」

「オダ郡の領主様が公爵家のモンテロ・ハルトを討ち取った話だ」

「あぁ。貴族が殺されるなんて前代未聞のことだ。オダ郡の領主様の怒りは、相当なものと思う。ここは大丈夫かねぇ」

「噂では、オダ郡の領主様は、才あるものは、奴隷だろうが農民だろうが女だろうが身分を問わず士卒として、雇ってくれるそうだぜ」

「本当かよ。じゃあ、俺も一山当てれば、ぐふふ」

「おーい、聞いたか?」

「オダ郡の領主様の件なら、さっき」

「いや、今度はオダ郡の領主様の片腕となられたグロスター卿が馬鹿息子共々デビ侯爵家を滅亡させたらしい」

「本当かよ。あの坊ちゃんには、前領主様の時、娘が無理やり乱暴されても相手が貴族ってことで、何のお咎めもくだされなかった。死んで、せいせいするぜ」

 この話を聞いていた傭兵風の男たちが小声で話す。

「どうやら、今度のオダ郡の領主様は、常識のわかる御方のようだ。我らももう一度、信じてみるのはどうだ?」

「先先代様は、戦で亡くなったものたちまで気にかけて、ケアされる良き君主であり聖人であられた。どうしてあのような聖人君主からあのようなクズが産まれたのかと思ったがこの郡を神はまだ見放されていなかったということか。バルガス、烈苛団れっかだんを集めろ。この城を手土産にサブロー・ハインリッヒに謁見する」

「まぁ、そうなるわな。アイツらもエドの呼びかけを今か今かと待ってるだろうさ。さて、一丁戦も知らぬ貴族どもに戦の恐ろしさを刻みつけてやるとしますか」

 烈苛団とは、先先代君主であるラルフ・ハインリッヒが選抜した選りすぐりの傭兵集団であり、古今東西あらゆる武器を使いこなし、暴れ回った戦闘特化の特殊傭兵団である。
 元々は、皆奴隷だったためロルフ・ハインリッヒのやり方に嫌気がさし、こうして隠れた。
 それが、このナルミキャッスルだった。
 日がな一日、田畑を耕し、農民として暮らしていた彼らの目は、まだ光を失っていなかったのだ。
 もう一度、武器を持ち戦う覚悟を決めた戦闘のプロ集団の本気を踏ん反り返っていた貴族に止められるわけもなく。
 このアイランド公国における城の定義は、城下町と城が合わさった形となっていて、あっという間に城を取り囲まれてしまった。
 このナルミキャッスルの元々の城主は、先の戦いで、奇襲を仕掛けて返り討ちとなったモンテロ・ハルトであり、モンテロ・ハルト亡き後は、色欲貴族のエッツィ・ハッスルが遊興に耽っていた。

「ホレホレ、何処に行く。ここかのぉ。柔らかいのぉ」

「いや~ん。エッツィ様のエッチ~」

「たわわに実ったこのお山さんが堪らんわい」

「もう、目隠ししてるのに、エッチなところばかり触るんですから~。帯はここですよ。エッツィ様」

「目が見えんことを良いことに好き勝手できるから、この遊びはやめられんのじゃよ~それそれ~」

「あ~れ~。いや~ん、服がはだけちゃった」

「うほほ~。それでは、アワビを」

「エッツィ様!大変です!城下町で農民たちによる一揆が!」

「うるさいのぉ。ワシは、今忙しいんじゃ。適当にあしらっておけ。さてさて、可愛い猫ちゃんは何処かのぉ」

「エッツィ様、ここですよ~」

「おっとと~」

「きゃっ。もう、的確に倒れてきて押し倒すなんて、本当は見えてるんじゃないですかぁ?」

「この2つのお山に顔が包まれる感触が堪らんわい」

「もう、エッチなんですからぁ。パフっパフっ」

「ほほ~。天にも昇る心地じゃ~」

 このエッツィ・ムラムラ、歳は70を超えるが生涯現役を掲げ、割と女性にモテるのだから不思議だ。
 そして、遊びはあくまで遊び。
 素人に手を出したことはない。
 色欲を極める男である。
 それ以外には、全く興味を示さない。

「エッツィ様!一揆勢が間も無くここに」

「ムラムラ卿、覚悟!」

「いやーーーーーー!エッツィ様ー」

 2本の指で剣を挟むエッツィ・ハッスル。

「やれやれ、ワシの遊びを邪魔して、攻めてきたのは誰かと思えば、お主であったかエド」

「エッツィ、下の剣だけ磨いてきたと思えば、その腕、錆びついていないようだ。それでこそ、我が相手にふさわしい」

「面白いことを言うものじゃ。誰が今まで匿ってきてやったと思っておるんじゃ。恩を仇で返しよって、サブローとやらに未来でも感じたのか?」

「そのことには感謝している。顔見知りであるにも関わらずお前は、報告をしなかったからな」

「ホッホッホ。ワシは、女と戯れたいだけじゃ。それ以外に興味はないのぉ。だが、殺すというのであれば、容赦せんぞい」

「この城を貰い受けたい」

「何じゃ。そんなことか。この城は、今や誰のものでも無かろうて、勝手にせよ。ワシは、もう剣を振るのは、こっちだけと決めておるのでな」

「残念だ。戦場で、何度剣を折られても相手の剣を真剣白刃取りで、奪い取って、切り殺し続けた剣聖ともあろう男が」

「過去の話じゃ。ワシが忠を尽くすのは、今は亡きラルフ様だけぞ。例え、その孫の覇気がいくらラルフ様に似ておっても全くの別物ゆえな。さーて、可愛い子猫ちゃんたち、続きを楽しもうかのぉ」

「いや~ん。エッツィ様の絶倫~」

 後ろ目で、エッツィ・ハッスルを見ながらエドは小さく呟いた後、声を大にして言う。

「余生をそうやって楽しむことにしたのだなエッツィ。白旗を掲げよ。我らは、サブロー・ハインリッヒに降伏する」

 エッツィ・ハッスル、かつて剣聖と呼ばれた男の今の武器もまた、形を変えた剣なのである。
 タンゲ砦で、謀略を張り巡らせていたハイネル・フロレンスの目に信じられないものが。
 それは白旗。
 紛れもなく降伏の旗が掲げられていたのである。

「アハハ。これは、全くの予想外。罠では無いと思いたいね」

 ハイネル・フロレンスは、恐る恐るナルミキヤッスルへと入り、エドと会談。
 降伏が紛れもないこと。
 貴族ではないことからこの戦いが終わるまで、一市民として扱うことで、決着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...