信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

49話 祭りの開始

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 サブロー・ハインリッヒが集まった満面の前で、祭りの開式の挨拶を行う。

「まず初めに此度、これだけの者が父の名を借りた祭りに集まってくれたこと感謝する。天国などというところがどんなところか知らぬが亡き父にワシの治世で、楽しんでいる事を証明してもらいたいと思う。では、催し物の1つ目の紹介に移ろう。土の上で、直径4メートルの円を俵で作り、その円の中で上半身裸の男たちに取っ組み合ってもらう。この催し物の名前を相撲という。土俵から出るか地面に足の裏以外が付いた場合、その者は負けとなる。参加者も多いゆえ、トーナメント方式を取らせてもらう事とする。この催し物について、皆は詳しくなかろう。それゆえ、ワシ自らが審判となろう。では、始め!」

 全く、メートルだのトーナメントだの慣れない言葉を使うのは、疲れるな。

 メートルは、所謂尺のことだ。慣れ親しんでいた尺という言葉を使ったら怪訝な顔をされて、書いて見せたら、マリーがメートルだと教えてくれたのだが。

 トーナメントは、勝ち抜き戦のことであり、これはまぁ勝ち抜き戦だと伝わったのだがマリーにトーナメントの方が万人にわかりやすいですねなどと言われ、こういう使い方をしたのだが、慣れない言葉を使うのは、疲れるものだ。

 ワシが円の外で審判を行っている間、催し物が見えやすい位置に作った椅子では、マリーが敵であるルルーニ・カイロに目を光らせ、ロー爺がワシが会ったことのない爺様の頃からの臣下であったハンネスを始めとする旧御三家の面々と何やら再会を喜びあっているようだ。

 その頃のマリーとルルーニ・カイロの様子はというと。

「マリー殿でしたか?そのように睨まれていると気になるのですが?」

「これは失礼しました。敵が1人で乗り混んで来たことは、評価しますが若様への暗殺の可能性がある以上、目を離すわけには参りませんので悪しからず」

「はぁ。まぁ、それもサブロー様のことを思ってのことでしょうから仕方ないとは思いますが、あからさまな敵意を剥き出しにされると、こちらとしても。いえ、まぁ警戒するのは当然ですね。はぁ」

 職務に忠実なマリーは、ルルーニ・カイロが変な動きをしないようにずっと目を光らせているのである。

 その頃のロー・レイヴァンドと旧御三家のフロレンス家・グロスター家・ヴェルトハイム家と仲良く談笑していた。

「こうして、また一堂に会することがあるとは、感慨深いですな」

「フォッフォッフォッ。倅には、感謝せねばなるまいて」

「ガハハハハ。サブローの祭りの開式の挨拶は大変良かったぞ。ローよ。良き育て方をしたな」

「先代を貶すことなく。それでいて、先代をよく思っていない人間は対して、今の方が良い事を知らしめましたね。とても頭の良い少年だと感じましたよ。タルカのデイルやナバルのドレッドが絡め取られたのも納得しました。全く知らない催し物ですが楽しませてもらうとしましょう」

 上から順にハンネス・フロレンス、ゴルド・グロスター、ルイス・ヴェルトハイムが言い、それに答えるロー・レイヴァンド。

「若に関しては、特に育てたという認識はありませんな。自らが積極的にこの世界のことを学び、身分制度がおかしいと奴隷や民と積極的に交流を重ねておりました。ロルフ様もそのことに関しては何も言いませんでしたからな。子守係などに任命された時は、怒りもありましたが若を見ていると不思議とそういうものも無くなり、若がどう成長するのか期待のが大きくなりましてな。今や、次はどんなことを考えるのか楽しみにしている自分がいるぐらいですな」

「フォッフォッフォッ。ローの気持ちは良く分かろうて、ワシも楽市・楽座令とやらを聞いた時は目から鱗じゃった。そんな風に真面目に民のために商品を流通させる商人たちの権利を守る方法があったのかとな。若殿は紛れもなくラルフ様を超える仁君じゃて」

「ガハハハハ。成程、ローは贔屓目に見てるのだろうと思っておったがハンネスが協力を求めて訪ねに来るほどだ。そして、この目で見て確信した。サブロー様に残りの人生を賭けても良いとな。誇れローよ。お前は、間違いなく良い方向にサブロー様を導いてくれた。もう一度夢を見させてくれて感謝する。祖父でありながら牙を向けるガロリングなど捻り潰してくれる」

「それにこの催し物、サブロー様の戦術眼の高さを感じさせられました。タルカとナバルの連合軍を相手に急造の砦で撃退したと聞いた時から、その方面に明るいとは思っていましたがこれほどとは。特にこの相撲とやらは、明確に表れています。サブロー様は集まった民の中から歩兵の適正を持つものを見繕うつもりなのでしょう。しかし、祭りと聞き集まった貴族がつまらなさそうなのが残念です。恐らく早くから味方を表明した自分たちをサブロー様が立ててくれるとでも考えていたのでしょう。それに媚びない姿勢も評価できます。しかし、あのハインリッヒ家を嫌っていたマルケス商会が警備から舞台の設営だけでなく、屋台の設営まで行い商人を誘致して、限定商品という聞きなれない言葉を使い、集まった民に安価で飲み物と食事のセット商品を売り込むとは、サブロー様への期待の現れでしょう。ついつい買ってしまいましたが」

 ルイス・ヴェルトハイムの言葉に、自分たちも同じ物を買ったぞと顔を見合わせて笑う3人。そして、眼下では、間も無く相撲の一回戦が始まろうとしているのだった。
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