信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
49 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

49話 祭りの開始

しおりを挟む
 サブロー・ハインリッヒが集まった満面の前で、祭りの開式の挨拶を行う。

「まず初めに此度、これだけの者が父の名を借りた祭りに集まってくれたこと感謝する。天国などというところがどんなところか知らぬが亡き父にワシの治世で、楽しんでいる事を証明してもらいたいと思う。では、催し物の1つ目の紹介に移ろう。土の上で、直径4メートルの円を俵で作り、その円の中で上半身裸の男たちに取っ組み合ってもらう。この催し物の名前を相撲という。土俵から出るか地面に足の裏以外が付いた場合、その者は負けとなる。参加者も多いゆえ、トーナメント方式を取らせてもらう事とする。この催し物について、皆は詳しくなかろう。それゆえ、ワシ自らが審判となろう。では、始め!」

 全く、メートルだのトーナメントだの慣れない言葉を使うのは、疲れるな。

 メートルは、所謂尺のことだ。慣れ親しんでいた尺という言葉を使ったら怪訝な顔をされて、書いて見せたら、マリーがメートルだと教えてくれたのだが。

 トーナメントは、勝ち抜き戦のことであり、これはまぁ勝ち抜き戦だと伝わったのだがマリーにトーナメントの方が万人にわかりやすいですねなどと言われ、こういう使い方をしたのだが、慣れない言葉を使うのは、疲れるものだ。

 ワシが円の外で審判を行っている間、催し物が見えやすい位置に作った椅子では、マリーが敵であるルルーニ・カイロに目を光らせ、ロー爺がワシが会ったことのない爺様の頃からの臣下であったハンネスを始めとする旧御三家の面々と何やら再会を喜びあっているようだ。

 その頃のマリーとルルーニ・カイロの様子はというと。

「マリー殿でしたか?そのように睨まれていると気になるのですが?」

「これは失礼しました。敵が1人で乗り混んで来たことは、評価しますが若様への暗殺の可能性がある以上、目を離すわけには参りませんので悪しからず」

「はぁ。まぁ、それもサブロー様のことを思ってのことでしょうから仕方ないとは思いますが、あからさまな敵意を剥き出しにされると、こちらとしても。いえ、まぁ警戒するのは当然ですね。はぁ」

 職務に忠実なマリーは、ルルーニ・カイロが変な動きをしないようにずっと目を光らせているのである。

 その頃のロー・レイヴァンドと旧御三家のフロレンス家・グロスター家・ヴェルトハイム家と仲良く談笑していた。

「こうして、また一堂に会することがあるとは、感慨深いですな」

「フォッフォッフォッ。倅には、感謝せねばなるまいて」

「ガハハハハ。サブローの祭りの開式の挨拶は大変良かったぞ。ローよ。良き育て方をしたな」

「先代を貶すことなく。それでいて、先代をよく思っていない人間は対して、今の方が良い事を知らしめましたね。とても頭の良い少年だと感じましたよ。タルカのデイルやナバルのドレッドが絡め取られたのも納得しました。全く知らない催し物ですが楽しませてもらうとしましょう」

 上から順にハンネス・フロレンス、ゴルド・グロスター、ルイス・ヴェルトハイムが言い、それに答えるロー・レイヴァンド。

「若に関しては、特に育てたという認識はありませんな。自らが積極的にこの世界のことを学び、身分制度がおかしいと奴隷や民と積極的に交流を重ねておりました。ロルフ様もそのことに関しては何も言いませんでしたからな。子守係などに任命された時は、怒りもありましたが若を見ていると不思議とそういうものも無くなり、若がどう成長するのか期待のが大きくなりましてな。今や、次はどんなことを考えるのか楽しみにしている自分がいるぐらいですな」

「フォッフォッフォッ。ローの気持ちは良く分かろうて、ワシも楽市・楽座令とやらを聞いた時は目から鱗じゃった。そんな風に真面目に民のために商品を流通させる商人たちの権利を守る方法があったのかとな。若殿は紛れもなくラルフ様を超える仁君じゃて」

「ガハハハハ。成程、ローは贔屓目に見てるのだろうと思っておったがハンネスが協力を求めて訪ねに来るほどだ。そして、この目で見て確信した。サブロー様に残りの人生を賭けても良いとな。誇れローよ。お前は、間違いなく良い方向にサブロー様を導いてくれた。もう一度夢を見させてくれて感謝する。祖父でありながら牙を向けるガロリングなど捻り潰してくれる」

「それにこの催し物、サブロー様の戦術眼の高さを感じさせられました。タルカとナバルの連合軍を相手に急造の砦で撃退したと聞いた時から、その方面に明るいとは思っていましたがこれほどとは。特にこの相撲とやらは、明確に表れています。サブロー様は集まった民の中から歩兵の適正を持つものを見繕うつもりなのでしょう。しかし、祭りと聞き集まった貴族がつまらなさそうなのが残念です。恐らく早くから味方を表明した自分たちをサブロー様が立ててくれるとでも考えていたのでしょう。それに媚びない姿勢も評価できます。しかし、あのハインリッヒ家を嫌っていたマルケス商会が警備から舞台の設営だけでなく、屋台の設営まで行い商人を誘致して、限定商品という聞きなれない言葉を使い、集まった民に安価で飲み物と食事のセット商品を売り込むとは、サブロー様への期待の現れでしょう。ついつい買ってしまいましたが」

 ルイス・ヴェルトハイムの言葉に、自分たちも同じ物を買ったぞと顔を見合わせて笑う3人。そして、眼下では、間も無く相撲の一回戦が始まろうとしているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...