信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
34 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

34話 反サブロー派の旗頭に誰を立てるか

しおりを挟む
 サブロー・ハインリッヒがハイネル・フロレンスと会談していた頃、サブローを新当主と認めない貴族たちは、誰を旗頭にするか話し合っていた。

「我らを蔑ろにして、奴隷を重用するサブロー様を当主と認められるだろうか?」

「聞いた話によるとタルカ郡との国境沿いにても奴隷と士族を率いて、奴らだけで敵を追い返したどころかタルカ郡を攻める大義名分まで得よった」

「勝てるなら我らも乗っていた。きちんと我らにそれを示さなかったのは、我らを遠ざける腹積もりなのは明らかである」

「我ら御三家は、今までハインリッヒ家に忠義を尽くしてきた。このような侮辱、看過できん。我らは、サブロー様に対抗できうる旗頭を立てねばならん」

 ハインリッヒ家の御三家とは、貴族の爵位の最高位である公爵に付く、ガロリング家・ハルト家・カイロ家の3つであり、これに複数の兄弟筋の貴族が集まり、その勢力はただでさえ小さいオダ郡を2分する勢いとなっていた。

 そしてこの公爵家の1つガロリング家は、ロルフ・ハインリッヒの妻マーガレット・ハインリッヒの実家である。

 そうあろうことかサブローにとって祖父に当たる現ガロリング家当主のレーニン・ガロリングが率先して、孫の足を引っ張ろうとしていたのである。

「ガロリング卿、良いのですか?サブロー様は、貴方にとって孫に当たるが」

 レーニンと呼ばれた男は、長い髭を上から下へと触りながら渋めの声で話し始める。

「あのクソガキが可愛い孫であったのは、3歳までのことだ。それからは、事あるごとに奴隷の扱いが酷いだの。女の扱いが酷いだのと青臭いことを言いよった。あれはこの世界の異端児よ。此度の鮮やかな手並みを見る限り、タルカ郡を相手にしている間に排除せねばなるまい」

 この意見に頷きながら冷静でゆったりとした声で話すのは、モンテロ・ハルト、ハルト家の現当主である。

「確かにガロリング卿のおっしゃる通り、内と外で挟まれれば、サブロー様と言えども我らに泣きつくしかないですなぁ。ハッハッハ」

「あのクソガキは、一度心を折らねばわかるまい。奴隷や士族よりも頼りになるのは我ら貴族だということがな。事実、土地を治めているのは、我ら貴族である。あの馬鹿には、身を持って体験してもらうとしよう」

 これらの話を目を閉じて聞き、落ち着いた冷静な口調で話す男は、カイロ家の現当主であるルルーニ・カイロ。

「楽観視するのは如何なものでしょう。正直、私はサブロー様がニ正面作戦をするとは考えられません。この時も虎視眈々と我らの動きを警戒しているのではないかと考えます。生半可な旗頭では、潰されるでしょう」

「カイロ卿は、あのクソガキのことを買い被っているようだな。所詮、世の中の理を知らぬ青臭いガキよ」

「孫をそこまでこき下ろすものではありませんよガロリング卿。事実、貴方の言う青臭いガキにタルカ郡もナバル郡も手玉に取られたのですから。我らもそうならないとは言えないでしょう。私はやるからには負ける確率は限りなく減らしたい。そのためには、亡きロルフ様の妻であるマーガレット殿の旗頭就任を求める」

「フン。マル卿もベア卿も欲を出し過ぎただけのこと。どうせロー辺りの知恵であろう。あのクソガキの功績ではあるまい」

 レーニンの言葉にルルーニは、深く考え首を横に振る。

「ガロリング卿、8歳の子供にそんな考えは思い付かないと決め付けては、足を掬われましょう。我ら御三家が排除されるということは、他の貴族も容赦なく排除されるということ。長く続いた貴族制を我らの代で終わらせるわけには断じて、なりません」

「フン。カイロ卿は、心配性だな。心配せずともマーガレットにはもう既に打診してある。あのクソガキが亡き我が婿殿に砂を投げつけたその日にな。あんなクソガキでも娘にとっては、可愛い息子だ。その場で首を縦に振ることはなかったが、父の顔を立てて、旗頭となってくれるだろう」

「ガロリング卿は、先程から仮定の話ばかりです。サブロー・ハインリッヒは、子供であって、子供にあらず。タルカ郡を完膚なきまでに罠に嵌めて、大義名分を得ておきながら直ぐに攻め込もうとはしない。これは、内に不穏分子を抱えていることを理解している動き。我らは警戒されていると見るべきです。動くなら確実にサブロー・ハインリッヒの首を取らねばなりません!孫の首を取れるのですか?」

「カイロ卿、舐めないでもらおう。この計画を立てた時から、あのクソガキを殺す覚悟よ」

「貴方にあってもマーガレット殿にあると?」

「それは、ええぃ。そんなもの丸め込めば良いのだ!」

「だから行き当たりばったりで勝てるほど単純な相手では無いのです。あの男からは計り知れぬ策謀の匂いがする。こうして我らがここに集まって話している間にも何か恐ろしい策を仕込んでいる可能性だってあるのです!」

「ワシのことを仮定ばかりというが、なら貴様は憶測ばかりではないか!安心せい、娘のことはワシがよくわかっておるわ」

「まぁまぁ。ガロリング卿もカイロ卿も、それぐらいで。この場で決まりそうにないですなぁ。ここはそうですなぁ。マーガレット殿が我らの旗頭になってくれるというのならカイロ卿は問題ないんですなぁ?」

「あぁ、その場合は手を貸す事を約束する」

「なら、暫くはガロリング卿がマーガレット殿を説得するということで如何ですかなぁ?」

「うむ。問題ない」

「では、このあたりに、お腹が空きましたのでなぁ」

 マイペースで、のほほんとしているがハルト卿も修羅場を潜り抜けてきた貴族の1人。

 2人のヒートアップを収めると、一足先に席を立ち、それに続いて、彼らに続く貴族たち。

 この場はこれにて終わることとなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...