上 下
33 / 97
2章 オダ郡を一つにまとめる

33話 フロレンス家

しおりを挟む
 呼び鈴が鳴り、マリーと共に出迎えに向かう。

「御挨拶が遅れましたことを平に御容赦願いたい、ハイネル・フロレンスと申します」

「同じくハンネス・フロレンスと申す」

 ハイネルと名乗った爽やかな声の青年は、腰に2本の細剣を帯刀し、金色で綺麗に整えられた長髪に、赤いマントを羽織っていて、見た目から剣士であることが窺い知れた。

 ハンネスと名乗った何処か影のある声をした壮年の男性は、杖を付き、この暑い中ローブで全身を覆い隠して、その表情すらわからない不気味さを醸し出していた。

「マリー、離れよ!」

「フォッフォッフォッ。どうしたのですかな?」

 この男、今何をした?

 このワシが殺気に充てられるとは、相対して死ぬと畏怖したのは、信玄しんげん謙信けんしんの時以来ぞ。

 説明しよう。

 信玄とは、かの有名な甲斐の虎と称される、現在の山梨県を治めていた戦国大名で、戦国最強の騎馬隊を率いたとされる武田信玄たけだしんげんのことであり、信長が生涯一度も勝つことができなかった戦の名手の1人である。

 そして、その甲斐の虎と幾度となく争い、好敵手と互いを認め合うほどの仲だったと言われているのが越後の龍こと上杉謙信うえすぎけんしんであり、現在の新潟県を治めていた戦国大名で、信長は手取川てとりがわの戦いにおいて、大敗を喫するなど上杉謙信にも戦において一度も勝つことができなかったのである。

「いやはや、反応速度が少し遅かったですな。戦場なら死んでおりましたぞ若殿」

「父さん、気は済んだかい?すみません。父さんは悪戯好きなもので、サブロー様に失礼を致しました」

「やれやれ、ちょいと悪戯しただけではないか。にしても反応できただけ及第点といったところかの。フォッフォッフォッ。じゃがその娘さんの反応は異常よ。言うよりも早く若殿を守るために位置を変えるとは、ただの使用人ではあるまいて」

 この男、あの一瞬で、正体まで辿り着かずともマリーが只者ではないことを見極めるか。

 爺様は、父と違い家臣に恵まれていたのは、本当のようだな。

 この男が父と戦に出ていれば、どれ程の戦果をあげたのか気になるところよな。

「こちらも失礼しました。とてつもない殺気を放っておられましたので、若様を守るべく咄嗟に行動を取りました」

 マリーの前では、風の膜で真っ二つに斬られた杖があった。

「フォッフォッフォッ。構わんて。刀の鞘が軽く飛んだだけじゃて、、、、、、さっ鞘が飛んだじゃと!?これでは、ワシの仕込み刀が台無しでは無いか」

「父さん、その前に反省してくれるかな。それに鞘だけで済んでよかったでしょ。最悪、斬られてても文句無しなんだからさ」

 あの男にして、この息子ありか。

 堂々としているどころか、あの状況で微動だにしていないとはな。

 相当な修羅場を潜り抜けていると見える。

「ふむ。この切り口、風魔法かのぉ。魔法を見るのは、マジカル王国との戦い以来じゃて、、、、、、って魔法!?お前さん、魔法使いなのかのぉ?」

「あっ」

 いや、マリーよ。

 やってしまいましたって顔でこっちを見ないでくれ、ワシもどうして良いかわからん。

 味方してくれるとわざわざここに来た相手に嘘をつくのは良くないだろう。

 かといって、玄関先では、誰に聞かれるかわからん。

「立ち話もなんですから、先ずは中に、マリー、応接室に案内を」

「はい」

 ワシは、他所様用の言葉遣いにして、マリーに案内を頼む。

 暫くして、ハイネルとハンネスが応接室に入るとマリーはワシの次の言葉を察したのか、外に声が聞こえないように防音の魔法を使ったのを見て、ワシは話し始める。

「これはここだけの話にしていただきたいのですが、このマリーは、エルフと呼ばれる亜人なのです。ハンネス老は、亜人という言葉に聞き覚えはありますか?」

「ちょっと若様。それは」

「亜人ですかの。かつて別の大陸から移り住んだということしか知りませんな」

「うーん、僕は全く聞き覚えがないかな。で、その亜人だと魔法が使えるのかな?」

「はい。何処かの国のように精霊石が無くとも魔法を使用することができます」

 マリーのこの言い方は、相当マジカル王国のことを嫌っているみたいだな。

「成程成程、ですがこの秘密は簡単に漏らして良い話ではありませんわい。もしワシが陛下に垂れ込めば、若殿はタダでは、すみませんからのぉ」

「その通りだ。しかし、四面楚歌の状況を助けるために協力すると申してくれたフロレンス家に対して、嘘をつくのはその信頼に傷を付ける行為だと思った。陛下に話すなら話すが良い。フロレンス家も少なからず我が家を恨んでいるだろう?」

「恨むも恨まないもありませんのぉ。当主が変われば、変わることもありますわい。それに従えなかっただけのことじゃて。じゃがワシは今の言葉で、お前さんに付くと決めた息子の判断に間違いは無かったと確信しましたわい。秘密は墓場まで持って行きますかのぉ」

「父さんは、勝手に話を進めるよね。まぁ、そのハザマオカでの小競り合いを小耳に挟んでね。その後の陛下からタルカ郡に対して、大義名分を得るまでのスムーズな流れに驚嘆してね。今回の戦を君の側で戦いたくなったのさ。単純な男だろ。要は君に魅せられたのさ。協力したいってね」

「いや、その言葉だけで十分だ。ワシは、歓迎するぞ。ハイネルにハンネス。俺は内政があまり得意ではない。助言してくれると助かる」

「精一杯、若殿をお支えしましょうぞ」

「君の剣となろう。いや、もう仕えるんだから殿だね」

「どちらでもかまわぬ」

 此奴、少し蘭に似ておる。

 蘭、ワシのためにその命、捨てさせたこと悔やんでも悔やみきれん。

 うぬら親子は、いつだってワシのために命を投げ出す。

 可成よしなり、お前の子を3人も共に死なせた哀れなワシを怒ってくれ。

 うぬらが生きていれば、信忠の良き後ろ楯となってくれたであろうに。

 説明しよう。

 可成とは、信長に仕えた森可成もりよしなりのことであり、本能寺の変にて、信長と共に亡くなった蘭丸・坊丸・力丸の父であり、可成もまた信長包囲網の際に、浅井・朝倉連合軍の要請に応えた延暦寺の僧兵も加わり多勢に無勢の中、坂本にて街道を封鎖して、信長が体勢を整えるための時間稼ぎを行い、戦死した。

 森可成が作った時間がこの後の信長包囲網を崩し、信長をさらに有名にしたのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...