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2章 オダ郡を一つにまとめる
33話 フロレンス家
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呼び鈴が鳴り、マリーと共に出迎えに向かう。
「御挨拶が遅れましたことを平に御容赦願いたい、ハイネル・フロレンスと申します」
「同じくハンネス・フロレンスと申す」
ハイネルと名乗った爽やかな声の青年は、腰に2本の細剣を帯刀し、金色で綺麗に整えられた長髪に、赤いマントを羽織っていて、見た目から剣士であることが窺い知れた。
ハンネスと名乗った何処か影のある声をした壮年の男性は、杖を付き、この暑い中ローブで全身を覆い隠して、その表情すらわからない不気味さを醸し出していた。
「マリー、離れよ!」
「フォッフォッフォッ。どうしたのですかな?」
この男、今何をした?
このワシが殺気に充てられるとは、相対して死ぬと畏怖したのは、信玄や謙信の時以来ぞ。
説明しよう。
信玄とは、かの有名な甲斐の虎と称される、現在の山梨県を治めていた戦国大名で、戦国最強の騎馬隊を率いたとされる武田信玄のことであり、信長が生涯一度も勝つことができなかった戦の名手の1人である。
そして、その甲斐の虎と幾度となく争い、好敵手と互いを認め合うほどの仲だったと言われているのが越後の龍こと上杉謙信であり、現在の新潟県を治めていた戦国大名で、信長は手取川の戦いにおいて、大敗を喫するなど上杉謙信にも戦において一度も勝つことができなかったのである。
「いやはや、反応速度が少し遅かったですな。戦場なら死んでおりましたぞ若殿」
「父さん、気は済んだかい?すみません。父さんは悪戯好きなもので、サブロー様に失礼を致しました」
「やれやれ、ちょいと悪戯しただけではないか。にしても反応できただけ及第点といったところかの。フォッフォッフォッ。じゃがその娘さんの反応は異常よ。言うよりも早く若殿を守るために位置を変えるとは、ただの使用人ではあるまいて」
この男、あの一瞬で、正体まで辿り着かずともマリーが只者ではないことを見極めるか。
爺様は、父と違い家臣に恵まれていたのは、本当のようだな。
この男が父と戦に出ていれば、どれ程の戦果をあげたのか気になるところよな。
「こちらも失礼しました。とてつもない殺気を放っておられましたので、若様を守るべく咄嗟に行動を取りました」
マリーの前では、風の膜で真っ二つに斬られた杖があった。
「フォッフォッフォッ。構わんて。刀の鞘が軽く飛んだだけじゃて、、、、、、さっ鞘が飛んだじゃと!?これでは、ワシの仕込み刀が台無しでは無いか」
「父さん、その前に反省してくれるかな。それに鞘だけで済んでよかったでしょ。最悪、斬られてても文句無しなんだからさ」
あの男にして、この息子ありか。
堂々としているどころか、あの状況で微動だにしていないとはな。
相当な修羅場を潜り抜けていると見える。
「ふむ。この切り口、風魔法かのぉ。魔法を見るのは、マジカル王国との戦い以来じゃて、、、、、、って魔法!?お前さん、魔法使いなのかのぉ?」
「あっ」
いや、マリーよ。
やってしまいましたって顔でこっちを見ないでくれ、ワシもどうして良いかわからん。
味方してくれるとわざわざここに来た相手に嘘をつくのは良くないだろう。
かといって、玄関先では、誰に聞かれるかわからん。
「立ち話もなんですから、先ずは中に、マリー、応接室に案内を」
「はい」
ワシは、他所様用の言葉遣いにして、マリーに案内を頼む。
暫くして、ハイネルとハンネスが応接室に入るとマリーはワシの次の言葉を察したのか、外に声が聞こえないように防音の魔法を使ったのを見て、ワシは話し始める。
「これはここだけの話にしていただきたいのですが、このマリーは、エルフと呼ばれる亜人なのです。ハンネス老は、亜人という言葉に聞き覚えはありますか?」
「ちょっと若様。それは」
「亜人ですかの。かつて別の大陸から移り住んだということしか知りませんな」
「うーん、僕は全く聞き覚えがないかな。で、その亜人だと魔法が使えるのかな?」
「はい。何処かの国のように精霊石が無くとも魔法を使用することができます」
マリーのこの言い方は、相当マジカル王国のことを嫌っているみたいだな。
「成程成程、ですがこの秘密は簡単に漏らして良い話ではありませんわい。もしワシが陛下に垂れ込めば、若殿はタダでは、すみませんからのぉ」
「その通りだ。しかし、四面楚歌の状況を助けるために協力すると申してくれたフロレンス家に対して、嘘をつくのはその信頼に傷を付ける行為だと思った。陛下に話すなら話すが良い。フロレンス家も少なからず我が家を恨んでいるだろう?」
「恨むも恨まないもありませんのぉ。当主が変われば、変わることもありますわい。それに従えなかっただけのことじゃて。じゃがワシは今の言葉で、お前さんに付くと決めた息子の判断に間違いは無かったと確信しましたわい。秘密は墓場まで持って行きますかのぉ」
「父さんは、勝手に話を進めるよね。まぁ、そのハザマオカでの小競り合いを小耳に挟んでね。その後の陛下からタルカ郡に対して、大義名分を得るまでのスムーズな流れに驚嘆してね。今回の戦を君の側で戦いたくなったのさ。単純な男だろ。要は君に魅せられたのさ。協力したいってね」
「いや、その言葉だけで十分だ。ワシは、歓迎するぞ。ハイネルにハンネス。俺は内政があまり得意ではない。助言してくれると助かる」
「精一杯、若殿をお支えしましょうぞ」
「君の剣となろう。いや、もう仕えるんだから殿だね」
「どちらでもかまわぬ」
此奴、少し蘭に似ておる。
蘭、ワシのためにその命、捨てさせたこと悔やんでも悔やみきれん。
うぬら親子は、いつだってワシのために命を投げ出す。
可成、お前の子を3人も共に死なせた哀れなワシを怒ってくれ。
うぬらが生きていれば、信忠の良き後ろ楯となってくれたであろうに。
説明しよう。
可成とは、信長に仕えた森可成のことであり、本能寺の変にて、信長と共に亡くなった蘭丸・坊丸・力丸の父であり、可成もまた信長包囲網の際に、浅井・朝倉連合軍の要請に応えた延暦寺の僧兵も加わり多勢に無勢の中、坂本にて街道を封鎖して、信長が体勢を整えるための時間稼ぎを行い、戦死した。
森可成が作った時間がこの後の信長包囲網を崩し、信長をさらに有名にしたのは言うまでもない。
「御挨拶が遅れましたことを平に御容赦願いたい、ハイネル・フロレンスと申します」
「同じくハンネス・フロレンスと申す」
ハイネルと名乗った爽やかな声の青年は、腰に2本の細剣を帯刀し、金色で綺麗に整えられた長髪に、赤いマントを羽織っていて、見た目から剣士であることが窺い知れた。
ハンネスと名乗った何処か影のある声をした壮年の男性は、杖を付き、この暑い中ローブで全身を覆い隠して、その表情すらわからない不気味さを醸し出していた。
「マリー、離れよ!」
「フォッフォッフォッ。どうしたのですかな?」
この男、今何をした?
このワシが殺気に充てられるとは、相対して死ぬと畏怖したのは、信玄や謙信の時以来ぞ。
説明しよう。
信玄とは、かの有名な甲斐の虎と称される、現在の山梨県を治めていた戦国大名で、戦国最強の騎馬隊を率いたとされる武田信玄のことであり、信長が生涯一度も勝つことができなかった戦の名手の1人である。
そして、その甲斐の虎と幾度となく争い、好敵手と互いを認め合うほどの仲だったと言われているのが越後の龍こと上杉謙信であり、現在の新潟県を治めていた戦国大名で、信長は手取川の戦いにおいて、大敗を喫するなど上杉謙信にも戦において一度も勝つことができなかったのである。
「いやはや、反応速度が少し遅かったですな。戦場なら死んでおりましたぞ若殿」
「父さん、気は済んだかい?すみません。父さんは悪戯好きなもので、サブロー様に失礼を致しました」
「やれやれ、ちょいと悪戯しただけではないか。にしても反応できただけ及第点といったところかの。フォッフォッフォッ。じゃがその娘さんの反応は異常よ。言うよりも早く若殿を守るために位置を変えるとは、ただの使用人ではあるまいて」
この男、あの一瞬で、正体まで辿り着かずともマリーが只者ではないことを見極めるか。
爺様は、父と違い家臣に恵まれていたのは、本当のようだな。
この男が父と戦に出ていれば、どれ程の戦果をあげたのか気になるところよな。
「こちらも失礼しました。とてつもない殺気を放っておられましたので、若様を守るべく咄嗟に行動を取りました」
マリーの前では、風の膜で真っ二つに斬られた杖があった。
「フォッフォッフォッ。構わんて。刀の鞘が軽く飛んだだけじゃて、、、、、、さっ鞘が飛んだじゃと!?これでは、ワシの仕込み刀が台無しでは無いか」
「父さん、その前に反省してくれるかな。それに鞘だけで済んでよかったでしょ。最悪、斬られてても文句無しなんだからさ」
あの男にして、この息子ありか。
堂々としているどころか、あの状況で微動だにしていないとはな。
相当な修羅場を潜り抜けていると見える。
「ふむ。この切り口、風魔法かのぉ。魔法を見るのは、マジカル王国との戦い以来じゃて、、、、、、って魔法!?お前さん、魔法使いなのかのぉ?」
「あっ」
いや、マリーよ。
やってしまいましたって顔でこっちを見ないでくれ、ワシもどうして良いかわからん。
味方してくれるとわざわざここに来た相手に嘘をつくのは良くないだろう。
かといって、玄関先では、誰に聞かれるかわからん。
「立ち話もなんですから、先ずは中に、マリー、応接室に案内を」
「はい」
ワシは、他所様用の言葉遣いにして、マリーに案内を頼む。
暫くして、ハイネルとハンネスが応接室に入るとマリーはワシの次の言葉を察したのか、外に声が聞こえないように防音の魔法を使ったのを見て、ワシは話し始める。
「これはここだけの話にしていただきたいのですが、このマリーは、エルフと呼ばれる亜人なのです。ハンネス老は、亜人という言葉に聞き覚えはありますか?」
「ちょっと若様。それは」
「亜人ですかの。かつて別の大陸から移り住んだということしか知りませんな」
「うーん、僕は全く聞き覚えがないかな。で、その亜人だと魔法が使えるのかな?」
「はい。何処かの国のように精霊石が無くとも魔法を使用することができます」
マリーのこの言い方は、相当マジカル王国のことを嫌っているみたいだな。
「成程成程、ですがこの秘密は簡単に漏らして良い話ではありませんわい。もしワシが陛下に垂れ込めば、若殿はタダでは、すみませんからのぉ」
「その通りだ。しかし、四面楚歌の状況を助けるために協力すると申してくれたフロレンス家に対して、嘘をつくのはその信頼に傷を付ける行為だと思った。陛下に話すなら話すが良い。フロレンス家も少なからず我が家を恨んでいるだろう?」
「恨むも恨まないもありませんのぉ。当主が変われば、変わることもありますわい。それに従えなかっただけのことじゃて。じゃがワシは今の言葉で、お前さんに付くと決めた息子の判断に間違いは無かったと確信しましたわい。秘密は墓場まで持って行きますかのぉ」
「父さんは、勝手に話を進めるよね。まぁ、そのハザマオカでの小競り合いを小耳に挟んでね。その後の陛下からタルカ郡に対して、大義名分を得るまでのスムーズな流れに驚嘆してね。今回の戦を君の側で戦いたくなったのさ。単純な男だろ。要は君に魅せられたのさ。協力したいってね」
「いや、その言葉だけで十分だ。ワシは、歓迎するぞ。ハイネルにハンネス。俺は内政があまり得意ではない。助言してくれると助かる」
「精一杯、若殿をお支えしましょうぞ」
「君の剣となろう。いや、もう仕えるんだから殿だね」
「どちらでもかまわぬ」
此奴、少し蘭に似ておる。
蘭、ワシのためにその命、捨てさせたこと悔やんでも悔やみきれん。
うぬら親子は、いつだってワシのために命を投げ出す。
可成、お前の子を3人も共に死なせた哀れなワシを怒ってくれ。
うぬらが生きていれば、信忠の良き後ろ楯となってくれたであろうに。
説明しよう。
可成とは、信長に仕えた森可成のことであり、本能寺の変にて、信長と共に亡くなった蘭丸・坊丸・力丸の父であり、可成もまた信長包囲網の際に、浅井・朝倉連合軍の要請に応えた延暦寺の僧兵も加わり多勢に無勢の中、坂本にて街道を封鎖して、信長が体勢を整えるための時間稼ぎを行い、戦死した。
森可成が作った時間がこの後の信長包囲網を崩し、信長をさらに有名にしたのは言うまでもない。
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