信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

22話 ハザマオカの戦い(中編)

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 バッカが再び上の道を選んで、サブローは思い通りに進んでいることに笑みを浮かべながら、砦の建設をマリーに命じていた時の事を思い出していた。マリーに聞かれたのである。

「若様、どうして、毎回上が正解の道で、下が不正解の道なのですか?」

「この罠は攻略されることを前提に作っておるからな」

「若様、ますます意味がわからないのですが?」

「要は、看破されても良いのだ。相手が愚直な馬鹿であればあるほど何度も引っかかるのだからな。寧ろ、この策に気付いた人間は、考える力のある優秀な人材ということよ。この罠を回避するのなら双方に兵を数十人で様子を見させて少しづつ進むのが正解なのだからな」

「はぁ、そう何度も同じ手に引っ掛かりますかね?」

「それこそ相手次第よ。ハッハッハッ」

 マリーも同じ事を思い出していたようで、サブローに呟く。

「若様は、本当に恐ろしい人ですね」

「いや、後ろの2百の兵のように動かれれば、負けておったであろうよ。タンザク!左で罠に嵌った奴らに矢の雨を降らせてやるが良い!」

「坊ちゃん、もうやってるぜ。それにしても、こんな簡単に被害も出さずに千人以上、葬り去ってしまうなんてな」

「自軍を有利にするのも不利にするのも策次第よ。常に考え、どうするかが大事なのだ。タンザクよ。これからも兵を率いるのなら覚えておくが良い」

「坊ちゃん、了解したぜ」

 同じ手で罠に嵌った450人の兵は、先程の例に漏れずパニックに陥る。

「うわぁァァァァァァァァ、岩が岩が!」

「奥に行くんじゃねぇぞ。戻れ戻れ」

「無理だ、さっきと違って何個も岩が!」

「奥だ奥に行くぞ!死にたくねぇよ」

「嫌だ。さっきの奴らと同じ運命を辿りたくねぇ。どけ、俺は戻る」

 グシャリと音がして戻ろうとした兵士が岩の下敷きとなり、岩の隙間から鮮血が流れ出るのを見て、全員が戻るのを諦めて窪地の奥へと逃げるがそこに矢が降り注ぐ。そう何処にも逃げ場などないのだ。

「矢が矢が。お前、俺の盾になりやがれ!」

「ウルセェ!お前が盾になれ!」

「押すな!押すな!あぁ目の前に矢が」

 全身のあらゆるところに矢を受けて、絶命した兵士を盾にする生き残った兵たちは、先程の奴らが沈んだのを見て、立ったまま死んだ兵士を矢受けの盾に使う。

「ほぉ。学習するとはな。だが、倒れないのなら転ばせれば良いだけのこと。マリー、彼奴らを転ばせよ!」

「簡単に言ってくれますね。まぁ、簡単ですけど」

 マリーは、地面に触れると兵士を盾にして前が見えなくなっている者たちの足元に蹴躓く程度の石を出現させ転けた所に、容赦なく底なし沼で沈めていく。

「なんだって急に石が!?うおっ。身体が沈んでいく。さっきまで普通の地面だったのに。なんで俺がこんな目に」

 ゴボッゴボボボボと地面に生きたまま埋まっていく兵士たちを見て、サブローは魔法とはかくも便利なものかと再認識する。

「これで残りの兵士は、ナバル郡の兵650とタルカ郡の兵千か。やはり動かぬか。全ての罠の後、動くつもりなのであろうな」

「厄介ですな若」

「ロー爺よ。そんなことはあるまいよ。こちらはマリーという対人間兵器を温存しているのであるからな」

「若様、まるで私を化け物扱いするなんて酷いです」

「これでも褒めておるつもりよ。マリーがおるからこそ。こちらの被害0で、尚且つヤスやタンザクに自信を付けさせてやれるのだからな」

「そうですなぁ。若の言う通り、実戦こそが1番の糧となりますからな。ヤスもタンダザークも生き生きとしておりますな」

 その言葉通り、ヤスとタンダザークは、底なし沼を避けて端に逃げた奴らに矢の雨を浴びせていた。

「誰1人として逃すな!サブロー様を侮ったことを後悔させてやるのだ!」

「ヤスの奴に負けてらんねぇな。おいオメェらこっちも逃すんじゃねぇぞ!坊ちゃんの罠に嵌った侵略者共を残らず討ち取っちまえ!」

 これを見ても喜ぶだけのバッカ。

「またやられてらぁ。おい、これで俺たちの取り分は4倍だ。そして、今までのでわかっちまったんだなぁ。そろそろ分かれ道だろ。そして、まぁ見る限りこれで最後だろ。全員、正解の上に行って、この人数で雪崩れ込むぞ」

「ウホホーイ。流石、バッカ様だ。どこまでもついて行きやすぜ」

 全員が上の道を通る中、マッシュと近臣の2百だけは、下の道に向かった。

「キノッコの奴、馬鹿だよなぁ。わざわざ死にに向かってくれるなんてよ」

 しかし、岩が次から次へと転がってきて、その下敷きとなり、どんどんとやられるバッカの兵たち。

「嘘だろ!ここで、上が間違ってるわけが?」

「馬鹿は貴様だ。お前は2度見たことによって、この真ん中のもそういうものだと思い込んだのだ。しかし、この真ん中はな。貴様らの動きを見るだけのものよ。弓兵隊、矢を射かけよ」

 ゴロゴロと転がる岩をすり抜けたところをローの率いる近衛兵の弓で貫かれ、登りきれた者も目の前に現れた柵の向こう側から槍で貫かれ、やがてバッカ1人となる。

「うわぁぁぁぁぁ岩が。突っ込んでくるぞ!」

「良し避けたぞ!矢が降って!?」

「よっしゃー登りきったぞ。覚悟しやがれ。何だよこの柵。ここまで来て、へっ?目の前に槍?」

「チクショーが、俺は将軍になるバッカ様だぞ。ガキが図に乗るんじゃねぇ!」

「若のことをガキと侮ったことが貴様の敗因よ。攻めて、最後は将らしく、俺が葬ってやるとしよう。構えるが良い」

 ローがバッカの前に立ち、剣を抜く。

「その言葉、後悔させてやるからなぁ」

 バッカの剣は、怒りに身を任せて、力押しである。そして、こういう手合いを得意としているのがローである。しなやかな動きから繰り出す一閃によって、一撃でバッカを上下に真っ二つに切り裂いた。

「どうしたどうした防御してるだけか。このクソが。テメェを殺してガキを殺す!そしたら俺が将軍だ!」

「やれやれ、防御もまた時には最強の攻撃となることを教えてやるとしよう」

「!?き、斬られた。俺がなんで半分に!?もう少しで将軍になれたのにぃぃぃぃ」

「貴様如きが一万を率いる将軍となったら国が終わるというものよ」

 その頃、下の道を通ったマッシュの動きを見ていたサブローは、感心していたのだった。
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