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「・・・電気がついているね」

「人の気配が全くありません」

俺はリードの言葉を聞き、うなずく。

・・・そして、容赦なくドアを開けた。

さすがに、リードには抵抗があったらしいが、そんなの気にしている間もない。

花嫁修業に来た婚約者に逃げられるなんて、あってはならない。

こちらは、王座の取り合いで忙しいのだから。

「誰もいない、か」

ガランとしている。

令嬢の部屋は、実は汚いみたいな話を聞くが、そんなことはなかった。

むしろ、きれいすぎて本当に住んでるのかと心配になる。

「窓が開いてますね。ここから逃げたのでしょうか」

「まさか、夜会に?」

自分で言っておいて、疑問が絶えない。

彼女に忠告した時、夜会を知らない様子だった。侍女に聞いたのか。

・・・あるいは、魔法を使って噂を引き出したのか。

そうだとしたら、空を飛んで、逃げたのか。

なんでもいいが、とにかく彼女を戻さなければならない。

「このままでよろしいかと」

俺は苦笑する。
「これじゃ、兄に勝てない。彼女がいて、ぎりだ」

言いたいことは伝わったようで、リードはだまる。

「・・・夜会では、ないでしょうか」

「そうかもしれないが・・・」

そう決定できる材料が少なすぎる。

「あの女は、殿下の気を引くために頑張っているでしょう?」

・・・そうなのか?

「私は確信します。夜会にいると」

「・・・そこまでいうのなら」

俺は彼女がとび出て行った窓から、一番近い会場へと向かった。

納得はできないものの、リードの観察力は優れているため、会場にいることを願って、初めて空を飛んだ。



「お嬢さん。少しいいですか」

「なんでしょう?」

お菓子を満喫していた私は我に返って彼に向き直る。

魔力はなさそうだが、仮面をしていても分かるくらい笑顔がにやにやしていた。

「ここへは、初めてで?」

「ええ」

うなずきながら、少し後ずさる。

彼がぐんぐんと距離をつめてくるのだ。

腕をぎゅっとつかまれる。

「僕と、別室で話しませんか?」

「別室・・・?」

なんだか嫌な予感がする。

だが、ここで魔力を使うわけにはならない。

入場時に言われたのだ。

自分を見せてはならない、と。

つまり、魔力を出せば、だいたい人物が特定されてしまうとのこと。

そうならないように魔力を操ることもできなくもないが、ここで私の親達みたいに叫ばれ逃げられるのはごめんだ。

それに、さっき会場に入る前に、魔力制御の魔法をかけた。

これがあれば、死がかかっていると、自動的に魔法が使えるが、普段は使えなくなる。

もちろん、解除魔法もある。

数秒かかるが、べつに危ないこともないだろう。

お茶会なのだし。

「そこには、たくさんのお菓子が並んでるんだ。どうだい?」

お菓子・・・

「い、行ってもよいでしょう」

私はその男に腕をつかまれたまま、ホールの奥へ進む。

たくさんの人は、私たちを見ても何も言わない。

これが普通なのだろうか。

「こちらですよ」

ついたのは、豪華な部屋であり、確かにお菓子が並んでいた。

大きな窓からは夜かぜが吹いていて、月が覗いている。

広めのベッドと、向き合えるように座るソファ。

男はがちゃりとドアを閉める。

・・・嫌な予感がする。

昔の私なら、魔力を順々と発揮していただろう。

この男はラッキーなわけだ。

男は、私を引っ張り、ベッドへ座らせた。

「仮面を外しても良いですよね?」

「は・・・」

するりと伸びてくる手に、思わず固くなる。

魔力を制御する魔法を使っていたため、すぐに魔法を発することができない。

ルール違反、だよね?

てことは、この人・・・

仮面に手が触れる。

そのまま、なぞるように頬をなでられた。

「や、やめなさ・・・」

手で口をふさがれた。

解除魔法を使おうとしたが、使えない。

なぜ・・・

そして、悟った。

・・・この部屋では魔法が使えないように、細工しているんだ。

細工と言っても、魔法陣っぽいものを描けば、ある程度魔力のある人なら、使える。

その魔方陣を見つけて、直接消せば問題ないが、身動きが取れない。

・・・怖い。

逃げなきゃと思うにも、足が動かない。

男に腕をつかまれてるせいか。恐怖のせいなのか。

やっとのことで、とでもいうように男は再び私の仮面を触る。

それをつかみ、はずそうとした瞬間だ。

「・・・っ!!」
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