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44話
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◇◇◇
城に転がり込んだ僕を、大公家の人たちは歓迎してくれた。その日は盛大にパーティが開かれ、美味しい食事と楽しい娯楽を堪能した。
寝室はヴァルア様と同室だが、僕のための個室も用意してくれていた。花瓶には色鮮やかな花が挿され、テーブルにはやはり焼き菓子が盛られたプレートが置かれている。クローゼットの中を覗くと、僕のサイズに合わせて作られた衣服がたくさんかけられていた。
僕が新しい住まいを快適に過ごせるようにもてなしてくれていることが痛いほど分かり、少し涙が出た。
教会の件から一カ月ほど経ったとき、応接間に呼び出された。そこにはヴァルア様とキルティアさんが待っていた。
ヴァルア様は、部屋を訪れた僕にハグをして、一言二言会話を交わしてから本題に入った。
「そろそろ君に使用人を付けようと考えていてね。その方がいいだろう?」
「そこまでしていただかなくていいのに……」
「いやあ。だって君、まだ一人で用を足せないじゃないか」
僕は顔を赤らめ俯いた。
「そ、それは今練習中ですっ」
「俺が席を外してるときなんて、いつだって俺が戻るまで我慢しているし。それじゃあ体に悪いよ」
「もうしばらく時間が必要なだけです! きっといつか一人で用を足せるようになりますから!」
「はは。俺としてはずっとそのままでいいよ。用を足す手伝いは割と悪くないからね」
「まあ……ヴァルア様はいつもそれを見て勃起していますもんね」
「あっ、いやっ」
キルティアさんの白い目が居心地悪かったのか、ヴァルア様は咳ばらいをして話を戻した。
「ともかく。君の使用人を二人雇ったんだ。今日はその顔合わせさ」
「は、はい……」
ヴァルア様がベルを鳴らすと、奥から二人の使用人が現れた。上等な使用人服に身を包んだ彼女たちは、ぎこちない動作でかしこまった会釈をした。
僕はその人たちを見て目を見開いた。
「ア……アリス!?」
一カ月ぶりに再会したアリスは少しふっくらしてより綺麗になっていた。アリスは僕と目が合うと、ゆったりと目じりを下げる。
「お久しぶりです、ナスト様」
気付けばアリスに抱きついていた。
「ああ、アリス……! 無事でよかった……!! 本当によかった……!!」
「ナスト様も、以前とすっかり顔つきが変わりました。きっと幸せな日々を過ごせているのですね」
「うん……!! とっても……!!」
僕はアリスからそっと離れ、アリスの隣に立っている少年に視線を送った。
「彼はもしかして……」
「はい。私の息子、リングです」
「はじめまして、ナスト様」
リングは十歳の子どもだった。髪色がアリスと同じだ。年齢の割に小柄で、痩せ細っている。病弱そうに見えるが、笑顔が眩しい明るい子だった。
「彼、ずっと牢獄に閉じ込められていたそうだよ。これからはたくさん食べさせて、ふくよかな子にしてあげたいんだ」
こっそりヴァルア様が囁いた。それがいい。この子には幸せになる権利がある。
「でも、どうしてアリスがここに? だって君は……」
アリスも司祭様の悪事に手を貸していた一人だ。処罰はどうなったのだろう。
「私も司祭様の被害者ということで、ヴァルア様が手心を加えてくれました。私の処罰の内容は、〝ナスト様の使用人になること〟です」
「ああ、なるほど。そういうことだったんだね」
「といっても、とてもじゃありませんが処罰になっておりません。ナスト様の使用人になれることは私にとってこの上ない喜びですし、さらに息子の保護と働き口まで与えてくれたことになってしまいました」
「うん。それでいい。それがいいよ」
城に転がり込んだ僕を、大公家の人たちは歓迎してくれた。その日は盛大にパーティが開かれ、美味しい食事と楽しい娯楽を堪能した。
寝室はヴァルア様と同室だが、僕のための個室も用意してくれていた。花瓶には色鮮やかな花が挿され、テーブルにはやはり焼き菓子が盛られたプレートが置かれている。クローゼットの中を覗くと、僕のサイズに合わせて作られた衣服がたくさんかけられていた。
僕が新しい住まいを快適に過ごせるようにもてなしてくれていることが痛いほど分かり、少し涙が出た。
教会の件から一カ月ほど経ったとき、応接間に呼び出された。そこにはヴァルア様とキルティアさんが待っていた。
ヴァルア様は、部屋を訪れた僕にハグをして、一言二言会話を交わしてから本題に入った。
「そろそろ君に使用人を付けようと考えていてね。その方がいいだろう?」
「そこまでしていただかなくていいのに……」
「いやあ。だって君、まだ一人で用を足せないじゃないか」
僕は顔を赤らめ俯いた。
「そ、それは今練習中ですっ」
「俺が席を外してるときなんて、いつだって俺が戻るまで我慢しているし。それじゃあ体に悪いよ」
「もうしばらく時間が必要なだけです! きっといつか一人で用を足せるようになりますから!」
「はは。俺としてはずっとそのままでいいよ。用を足す手伝いは割と悪くないからね」
「まあ……ヴァルア様はいつもそれを見て勃起していますもんね」
「あっ、いやっ」
キルティアさんの白い目が居心地悪かったのか、ヴァルア様は咳ばらいをして話を戻した。
「ともかく。君の使用人を二人雇ったんだ。今日はその顔合わせさ」
「は、はい……」
ヴァルア様がベルを鳴らすと、奥から二人の使用人が現れた。上等な使用人服に身を包んだ彼女たちは、ぎこちない動作でかしこまった会釈をした。
僕はその人たちを見て目を見開いた。
「ア……アリス!?」
一カ月ぶりに再会したアリスは少しふっくらしてより綺麗になっていた。アリスは僕と目が合うと、ゆったりと目じりを下げる。
「お久しぶりです、ナスト様」
気付けばアリスに抱きついていた。
「ああ、アリス……! 無事でよかった……!! 本当によかった……!!」
「ナスト様も、以前とすっかり顔つきが変わりました。きっと幸せな日々を過ごせているのですね」
「うん……!! とっても……!!」
僕はアリスからそっと離れ、アリスの隣に立っている少年に視線を送った。
「彼はもしかして……」
「はい。私の息子、リングです」
「はじめまして、ナスト様」
リングは十歳の子どもだった。髪色がアリスと同じだ。年齢の割に小柄で、痩せ細っている。病弱そうに見えるが、笑顔が眩しい明るい子だった。
「彼、ずっと牢獄に閉じ込められていたそうだよ。これからはたくさん食べさせて、ふくよかな子にしてあげたいんだ」
こっそりヴァルア様が囁いた。それがいい。この子には幸せになる権利がある。
「でも、どうしてアリスがここに? だって君は……」
アリスも司祭様の悪事に手を貸していた一人だ。処罰はどうなったのだろう。
「私も司祭様の被害者ということで、ヴァルア様が手心を加えてくれました。私の処罰の内容は、〝ナスト様の使用人になること〟です」
「ああ、なるほど。そういうことだったんだね」
「といっても、とてもじゃありませんが処罰になっておりません。ナスト様の使用人になれることは私にとってこの上ない喜びですし、さらに息子の保護と働き口まで与えてくれたことになってしまいました」
「うん。それでいい。それがいいよ」
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