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9話
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握手を済ませると、ヴァルア様は僕の太ももに手を載せた。
「ひっ!?」
「あのさ、さっきから気になっていたんだが――」
ヴァルア様の手が股間に伸びる。
「勃ってるよね? さっきからずっと」
「っ……」
「どうして? とても興奮しているようには見えないけれど」
「そ、それは……」
答えられるわけがない。ヴァルア様に与えられた穢れのせいで昨晩射精させてもらえませんでした、なんて本当のことを言ってしまえば、僕は処刑されるかもしれないのだから。
「そういう薬を打たれてる?」
「まさか。そんなわけありません」
「ほう。薬ではない、か。ではなぜだろう。……少し診せてもらうよ」
「え?」
ヴァルア様が乱暴に祭服のボタンを外した。
「ちょ!? え、何してるんですか!?」
「うっ」
服の隙間から飛び出したペニスがヴァルア様の頬を叩く。
「ひぃぃっ……!!」
王族の顔にペニスでパンチをしてしまった……!! こ、殺される……!!
しかしヴァルア様は、ペニスではたかれたことよりも別のことで驚いていた。
「ど、どうしてペニスがそのまま飛び出してくるんだ!?」
「ど、どうしてって、そりゃ、ボタンを外されたら、そりゃ……」
「いやいや。ズボンは? パンツは? どうしてキャソックだけしか身に着けていない!?」
「ズボン……? なぜキャソックを着ているのにズボンまで穿く必要が? 下着は付けていますよ」
「これが下着? ペニスも尻も丸出しじゃないか。睾丸だけ覆ってなんの意味が?」
「僕に聞かれましても……」
「まさかこの教会にいる者全てこのような格好を?」
「実際見たことはないですが、そうでしょう。少なくとも司祭様は僕と同じ服装です」
ヴァルア様の瞳がきらりと光った。
「なぜ司祭の服装だけは詳細に知っているんだい?」
「それは……」
僕だけ特別に司祭様から儀式を受けているなんて言ったら、不平等だと怒られるかもしれない。そう考えると言葉に詰まった。
「言えないのかい?」
「えっと……」
「王族の僕にでも?」
それは卑怯だ。僕はホルアデンセ教の聖職者といっても、下級職位でしかない。僕に地位や権力なんてもの、ひとつもないんだ。そんな僕が王族に詰め寄られてしまっては、吐くしかないじゃないか。
「あの、他言無用でお願いできますか」
「ああ。約束するよ」
口調が軽くて信用できないが、だからといって断ることもできない。
「……僕は、司祭様に特別な儀式を受けていて、それで……」
「儀式、ね。それはこのペニスリングとなにか関係があるのかな」
「ペニ……何ですか?」
「ペニスリングだよ。まさに今君がペニスに付けている、これ」
ヴァルア様が金の輪をつついた。
「ああ、金の輪のことですか。それは加護道具です。ペニスリングなんてそんな下品な名称を付けないでください。儀式には関係ありませんよ。そのときは外しますし」
「加護道具、ねえ……」
ヴァルア様は白い目で金の輪を眺めてから、僕に尋ねた。
「で、何日出していないんだい」
「へっ?」
「こんな、まったく興奮していないときでさえうっ血するほど勃起するなんて、正常じゃない。何日射精していないんだい」
「そ……それに答えなければなりませんか……?」
「ああ。答えてくれ」
言いたくない。司祭様と繋がっているときの快感だけでは一カ月かけないと射精できないなんて知られたら、僕が出来損ないの穢れた聖職者だということがバレてしまう。もしかしたら呆れたヴァルア様に職位をはく奪されてしまうかもしれない。いやだ。またスラムに戻らないといけないなんて、そんなのいやだ。
「おーい。早く答えなさい」
「こ、答えても、ぼ……僕から職位を……取り上げないと約束してくださいますか……?」
ぶるぶると震えながらそう言った僕に、ヴァルア様は声を出して笑った。
「なぜ射精していない日数と君の職位が関係ある?」
「本当ですね……? 僕は明日からも司祭様の侍者のままですよね……?」
「まあ、うん。それでいいよ」
適当な返答が気になったけれど、僕は観念して質問に答えた。
「い……一カ月前、です……」
「一カ月ぅ!? 一カ月間も射精管理されてたのかい!?」
「射精……なんですか?」
「射精管理だよ!! 射精を禁止されること!!」
「いえ。禁止なんてされていませんよ。……昨晩はされましたが……」
僕が言葉を発するたびに、ヴァルア様の瞳がちかちか光る。僕が何か失言したのではないかと不安になる。
「それじゃあどうして一カ月間も射精しなかったんだい? こんなになっているんだ、性欲がないとは言わせないよ」
「……」
結局、僕は理由を洗いざらい話すハメになった。
ヴァルア様は顔を手で覆い、深いため息を吐いている。やっぱり、呆れられてしまったんだ。
「えーっと? つまり君は……毎晩司祭に犯されていて――」
「聖なる儀式を受けているのです。犯されてなどいません」
「――トコロテン以外での射精は禁止されていて――」
「トコ……何ですかそれは?」
「――一カ月の間射精管理をされていて――」
「だから射精管理なんてされていません」
「――司祭の精液が聖水だと洗脳されていて――」
「あなたは何を言っているんです? 洗脳なんてされていませんよ」
「――司祭から得る快感は清められている証明だと……やはり洗脳されていたと。そういうわけだね」
「いいえ。全然違います。全て誤りです」
「ふうん。果たしてそうかな」
「ええ。間違いありません。全て誤りです。あなたの勘違いです」
「そう。じゃあ、試してみるかい?」
「え――?」
その瞬間、僕はテーブルの上に押し倒された。そんな僕に覆いかぶさるヴァルア様は、ネクタイを緩めながらニッと笑った。
「君いわく、俺に触れられたら穢れるんだったよね」
「あー、えっと……」
「快感が清められている証明だとするならば、俺に触れられても快感は得られないはずだ。そうだろう?」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、これから君が、俺に触れられて快感を得られないかどうか、試してみようじゃないか」
「つまり僕はこれからあなたに体を触れられると……?」
「そういうこと」
「無理です。これ以上穢れたら――」
そう言いかけて慌てて口を噤んだ。忘れていた。彼は王族の血を流している方だ。穢れるなんてそんな言葉、使ってはいけない。……なんて、もう遅いけど。
ヴァルア様が僕の耳元に顔を寄せる。
「君がこれで何も感じなかったら、俺は今まで言ったことを全て撤回する。もちろん、司祭が小太りハゲのブスなおっさんだってこともね」
「っ……!」
最後の言葉。あれは絶対に撤回させなければいけない。たとえ僕の身が穢れたとしても、だ。
それまで抗っていた僕は、ふと体を脱力させ、不敵に笑ってみせる。
「分かりました。発言を撤回する準備はいいですか?」
「ほーう?」
ヴァルア様の体が一瞬ブルッと震えた気がした。彼は指をかけていたネクタイを一気に外し、床に投げ捨てる。
「ナスト。君が司祭を夢中にさせる理由がちょっと分かったかもしれない」
「っ……」
ヴァルア様と僕の唇が重なった。いつもと違う感触に、体中がざわついた。
「ひっ!?」
「あのさ、さっきから気になっていたんだが――」
ヴァルア様の手が股間に伸びる。
「勃ってるよね? さっきからずっと」
「っ……」
「どうして? とても興奮しているようには見えないけれど」
「そ、それは……」
答えられるわけがない。ヴァルア様に与えられた穢れのせいで昨晩射精させてもらえませんでした、なんて本当のことを言ってしまえば、僕は処刑されるかもしれないのだから。
「そういう薬を打たれてる?」
「まさか。そんなわけありません」
「ほう。薬ではない、か。ではなぜだろう。……少し診せてもらうよ」
「え?」
ヴァルア様が乱暴に祭服のボタンを外した。
「ちょ!? え、何してるんですか!?」
「うっ」
服の隙間から飛び出したペニスがヴァルア様の頬を叩く。
「ひぃぃっ……!!」
王族の顔にペニスでパンチをしてしまった……!! こ、殺される……!!
しかしヴァルア様は、ペニスではたかれたことよりも別のことで驚いていた。
「ど、どうしてペニスがそのまま飛び出してくるんだ!?」
「ど、どうしてって、そりゃ、ボタンを外されたら、そりゃ……」
「いやいや。ズボンは? パンツは? どうしてキャソックだけしか身に着けていない!?」
「ズボン……? なぜキャソックを着ているのにズボンまで穿く必要が? 下着は付けていますよ」
「これが下着? ペニスも尻も丸出しじゃないか。睾丸だけ覆ってなんの意味が?」
「僕に聞かれましても……」
「まさかこの教会にいる者全てこのような格好を?」
「実際見たことはないですが、そうでしょう。少なくとも司祭様は僕と同じ服装です」
ヴァルア様の瞳がきらりと光った。
「なぜ司祭の服装だけは詳細に知っているんだい?」
「それは……」
僕だけ特別に司祭様から儀式を受けているなんて言ったら、不平等だと怒られるかもしれない。そう考えると言葉に詰まった。
「言えないのかい?」
「えっと……」
「王族の僕にでも?」
それは卑怯だ。僕はホルアデンセ教の聖職者といっても、下級職位でしかない。僕に地位や権力なんてもの、ひとつもないんだ。そんな僕が王族に詰め寄られてしまっては、吐くしかないじゃないか。
「あの、他言無用でお願いできますか」
「ああ。約束するよ」
口調が軽くて信用できないが、だからといって断ることもできない。
「……僕は、司祭様に特別な儀式を受けていて、それで……」
「儀式、ね。それはこのペニスリングとなにか関係があるのかな」
「ペニ……何ですか?」
「ペニスリングだよ。まさに今君がペニスに付けている、これ」
ヴァルア様が金の輪をつついた。
「ああ、金の輪のことですか。それは加護道具です。ペニスリングなんてそんな下品な名称を付けないでください。儀式には関係ありませんよ。そのときは外しますし」
「加護道具、ねえ……」
ヴァルア様は白い目で金の輪を眺めてから、僕に尋ねた。
「で、何日出していないんだい」
「へっ?」
「こんな、まったく興奮していないときでさえうっ血するほど勃起するなんて、正常じゃない。何日射精していないんだい」
「そ……それに答えなければなりませんか……?」
「ああ。答えてくれ」
言いたくない。司祭様と繋がっているときの快感だけでは一カ月かけないと射精できないなんて知られたら、僕が出来損ないの穢れた聖職者だということがバレてしまう。もしかしたら呆れたヴァルア様に職位をはく奪されてしまうかもしれない。いやだ。またスラムに戻らないといけないなんて、そんなのいやだ。
「おーい。早く答えなさい」
「こ、答えても、ぼ……僕から職位を……取り上げないと約束してくださいますか……?」
ぶるぶると震えながらそう言った僕に、ヴァルア様は声を出して笑った。
「なぜ射精していない日数と君の職位が関係ある?」
「本当ですね……? 僕は明日からも司祭様の侍者のままですよね……?」
「まあ、うん。それでいいよ」
適当な返答が気になったけれど、僕は観念して質問に答えた。
「い……一カ月前、です……」
「一カ月ぅ!? 一カ月間も射精管理されてたのかい!?」
「射精……なんですか?」
「射精管理だよ!! 射精を禁止されること!!」
「いえ。禁止なんてされていませんよ。……昨晩はされましたが……」
僕が言葉を発するたびに、ヴァルア様の瞳がちかちか光る。僕が何か失言したのではないかと不安になる。
「それじゃあどうして一カ月間も射精しなかったんだい? こんなになっているんだ、性欲がないとは言わせないよ」
「……」
結局、僕は理由を洗いざらい話すハメになった。
ヴァルア様は顔を手で覆い、深いため息を吐いている。やっぱり、呆れられてしまったんだ。
「えーっと? つまり君は……毎晩司祭に犯されていて――」
「聖なる儀式を受けているのです。犯されてなどいません」
「――トコロテン以外での射精は禁止されていて――」
「トコ……何ですかそれは?」
「――一カ月の間射精管理をされていて――」
「だから射精管理なんてされていません」
「――司祭の精液が聖水だと洗脳されていて――」
「あなたは何を言っているんです? 洗脳なんてされていませんよ」
「――司祭から得る快感は清められている証明だと……やはり洗脳されていたと。そういうわけだね」
「いいえ。全然違います。全て誤りです」
「ふうん。果たしてそうかな」
「ええ。間違いありません。全て誤りです。あなたの勘違いです」
「そう。じゃあ、試してみるかい?」
「え――?」
その瞬間、僕はテーブルの上に押し倒された。そんな僕に覆いかぶさるヴァルア様は、ネクタイを緩めながらニッと笑った。
「君いわく、俺に触れられたら穢れるんだったよね」
「あー、えっと……」
「快感が清められている証明だとするならば、俺に触れられても快感は得られないはずだ。そうだろう?」
「ええ、まあ……」
「じゃあ、これから君が、俺に触れられて快感を得られないかどうか、試してみようじゃないか」
「つまり僕はこれからあなたに体を触れられると……?」
「そういうこと」
「無理です。これ以上穢れたら――」
そう言いかけて慌てて口を噤んだ。忘れていた。彼は王族の血を流している方だ。穢れるなんてそんな言葉、使ってはいけない。……なんて、もう遅いけど。
ヴァルア様が僕の耳元に顔を寄せる。
「君がこれで何も感じなかったら、俺は今まで言ったことを全て撤回する。もちろん、司祭が小太りハゲのブスなおっさんだってこともね」
「っ……!」
最後の言葉。あれは絶対に撤回させなければいけない。たとえ僕の身が穢れたとしても、だ。
それまで抗っていた僕は、ふと体を脱力させ、不敵に笑ってみせる。
「分かりました。発言を撤回する準備はいいですか?」
「ほーう?」
ヴァルア様の体が一瞬ブルッと震えた気がした。彼は指をかけていたネクタイを一気に外し、床に投げ捨てる。
「ナスト。君が司祭を夢中にさせる理由がちょっと分かったかもしれない」
「っ……」
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