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一人暮らし先
第二十八話
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◇◇◇
ある木曜の夜、小鳥遊からメッセージが届いた。
《小鳥遊:明日どうする?》
仕事の手を止め、返事をする。
《月見里:行く》
《小鳥遊:いや、俺がお前んち行く》
《月見里:また俺んち? 前回も前々回も俺んちだったじゃん》
《小鳥遊:別にいいだろう》
続けて小鳥遊からメッセージが来る。
《小鳥遊:お前がどうしても俺んちがいいって言うのなら止めないが?》
言い方がいちいち癪に障るやつだ。
《月見里:別にそういうわけじゃない》
《月見里:じゃあ俺んちな》
《月見里:部屋着持って来いよ。俺のだと小さいだろ》
《小鳥遊:分かった》
やりとりを終えた俺は、大慌てで部屋を掃除し始めた。
どうしよう。てっきり明日はあいつの家で会うものだと思っていたから、シーツも布団カバーも洗っていない。今から洗っても間に合わないのでこれは諦めるしかないが、せめて床や浴室だけは髪の毛一本落ちていないようにしないと。あ、トイレも掃除したい。窓と鏡も拭き上げないと――
「……やってしまった」
掃除に熱中している間に朝を迎えてしまった。
俺は一睡もしないまま会社に向かった。
「あれ? 月見里さん、元気ありませんね。どうしました?」
席に座るなり、隣の席のキムラさんに声をかけられた。
「あー……。ちょっと昨晩寝てなくて……」
「えっ。どうしたんです? もしかしてお仕事しててすか?」
「いや、仕事じゃなくて……」
……徹夜で一晩中掃除をしていたなんて言ったら白い目で見られてしまう。ただでさえ潔癖症だと噂されているのだ。これ以上そのイメージを強めたくない。
「……体を動かしてたんだ。ちょっとした運動」
「え」
ん? これも語弊があるような……
案の定、キムラさんが勢いよく立ち上がり、ナカムラさんを連れてオフィスを出て行った。サトウさんとカトウさんも興奮気味に囁き合っている。
やってしまった。自分からいらぬ噂を立ててしまったかもしれない。
あー……。頭が回らない。もういいや。仕事をしよう……
午後五時。本調子にならないまま定時を迎えた。
こんな状態で残業をしてもさして意味はないだろう。俺はよろよろと退社した。あー、眠い。
午後七時、小鳥遊がうちに来た。なんだか機嫌が悪そうだ。
「眠そうだな」
「ああ。眠い……。昨日寝てなくて……」
「らしいな」
小鳥遊は無遠慮に冷蔵庫からビールを取り出し、クイッと一口飲んでから唸るように言う。
「昨晩誰に抱かれたのかは知らんが、仕事に支障をきたすようなことは控えるんだな」
「は? 抱かれてないけど」
「嘘なんて吐かなくていい。お前が今朝ポロッとこぼしていたのを耳にしたから知っている」
「いや、ちがくて。あれは――」
「シャワー借りる」
「……」
俺の言葉を遮り、小鳥遊がバスルームに消えていった。
本当に違うんだって。
俺、この前あんなこと言ったけど、あれからもお前以外のヤツに抱かれていないんだ。
お前以外に抱かれたいとどうしても思えなくて……
なんて、そんなことを言ってもお前は信じてくれないだろうけど。
小鳥遊がシャワーを浴びている間に、俺はデパ地下で買っておいた惣菜を仕事用デスクの上に並べた(これしか机がないから)。
シャワーから出た小鳥遊と、無言で惣菜を頬張る。俺たちは普段からそこまで会話が弾むほうではないが、今日は一段と無言の時間が長い。小鳥遊が怒っているのがヒシヒシと伝わってくる。
ピリピリした空気に耐えられず、俺は無理に沈黙を破る。
「……美味い?」
「ああ」
「どれ好き?」
「合鴨肉」
「ああ、俺もそれ好き」
「……」
「……」
ダメだ。会話が続かない。
諦めて食事に専念していると、小鳥遊が口を開いた。
「眠いか?」
「まあ、うん……」
「……」
「……」
「俺、帰ろうか」
「えっ」
顔を上げた俺と小鳥遊の目が合わさった。
「二日連続はしんどいだろ」
「え、いや……」
「……」
「……」
そこで小鳥遊がふいと目を逸らした。
「誰かに朝まで抱かれて眠そうにしているお前を、抱きたいとは思わない」
「だからちがっ……」
「メシだけ食わせてもらって悪いが、帰る」
小鳥遊が立ち上がった。こいつ本気で帰る気だ。
心臓が縮こまる。血の気が引いていくのが分かった。
「待てって!!」
俺は咄嗟に、小鳥遊の腕を掴んでいた。
「聞け! 俺の話、聞け!!」
「……」
「座れっ!」
「……」
ムスッとしたまま小鳥遊が椅子に座りなおした。
俺は内心ホッとしつつ、事情を話した。
俺の話を聞き終えた小鳥遊は顔を真っ赤にしていた。
「……お、お前は、俺が急に来ることになって、朝まで掃除していただけ……?」
「そうだよ!」
「でも朝、キムラさんに……」
「あれは……っ、潔癖症のイメージが強くなるのが嫌だったから茶を濁しただけでだなあ……!!」
「それよりも嫌な印象が付いたようだったが……」
「眠くて頭が回ってなかったんだよ……!!」
俺は小鳥遊の腕を掴んだままベッドまで移動した。
ベッドの上に小鳥遊を放り投げ、俺は小鳥遊の上に跨る。
「俺は無実なので、帰しません」
「~~……っ」
バカ小鳥遊。俺がどれほど金曜日を待ちわびているのか、お前は知らないのだろう。だから「帰る」なんてそんなひどいことを言えるんだ。
俺からキスをすると、小鳥遊は少し目を見開いた。しかしすぐに体の力が抜け、俺の頬に手を添えた。
ある木曜の夜、小鳥遊からメッセージが届いた。
《小鳥遊:明日どうする?》
仕事の手を止め、返事をする。
《月見里:行く》
《小鳥遊:いや、俺がお前んち行く》
《月見里:また俺んち? 前回も前々回も俺んちだったじゃん》
《小鳥遊:別にいいだろう》
続けて小鳥遊からメッセージが来る。
《小鳥遊:お前がどうしても俺んちがいいって言うのなら止めないが?》
言い方がいちいち癪に障るやつだ。
《月見里:別にそういうわけじゃない》
《月見里:じゃあ俺んちな》
《月見里:部屋着持って来いよ。俺のだと小さいだろ》
《小鳥遊:分かった》
やりとりを終えた俺は、大慌てで部屋を掃除し始めた。
どうしよう。てっきり明日はあいつの家で会うものだと思っていたから、シーツも布団カバーも洗っていない。今から洗っても間に合わないのでこれは諦めるしかないが、せめて床や浴室だけは髪の毛一本落ちていないようにしないと。あ、トイレも掃除したい。窓と鏡も拭き上げないと――
「……やってしまった」
掃除に熱中している間に朝を迎えてしまった。
俺は一睡もしないまま会社に向かった。
「あれ? 月見里さん、元気ありませんね。どうしました?」
席に座るなり、隣の席のキムラさんに声をかけられた。
「あー……。ちょっと昨晩寝てなくて……」
「えっ。どうしたんです? もしかしてお仕事しててすか?」
「いや、仕事じゃなくて……」
……徹夜で一晩中掃除をしていたなんて言ったら白い目で見られてしまう。ただでさえ潔癖症だと噂されているのだ。これ以上そのイメージを強めたくない。
「……体を動かしてたんだ。ちょっとした運動」
「え」
ん? これも語弊があるような……
案の定、キムラさんが勢いよく立ち上がり、ナカムラさんを連れてオフィスを出て行った。サトウさんとカトウさんも興奮気味に囁き合っている。
やってしまった。自分からいらぬ噂を立ててしまったかもしれない。
あー……。頭が回らない。もういいや。仕事をしよう……
午後五時。本調子にならないまま定時を迎えた。
こんな状態で残業をしてもさして意味はないだろう。俺はよろよろと退社した。あー、眠い。
午後七時、小鳥遊がうちに来た。なんだか機嫌が悪そうだ。
「眠そうだな」
「ああ。眠い……。昨日寝てなくて……」
「らしいな」
小鳥遊は無遠慮に冷蔵庫からビールを取り出し、クイッと一口飲んでから唸るように言う。
「昨晩誰に抱かれたのかは知らんが、仕事に支障をきたすようなことは控えるんだな」
「は? 抱かれてないけど」
「嘘なんて吐かなくていい。お前が今朝ポロッとこぼしていたのを耳にしたから知っている」
「いや、ちがくて。あれは――」
「シャワー借りる」
「……」
俺の言葉を遮り、小鳥遊がバスルームに消えていった。
本当に違うんだって。
俺、この前あんなこと言ったけど、あれからもお前以外のヤツに抱かれていないんだ。
お前以外に抱かれたいとどうしても思えなくて……
なんて、そんなことを言ってもお前は信じてくれないだろうけど。
小鳥遊がシャワーを浴びている間に、俺はデパ地下で買っておいた惣菜を仕事用デスクの上に並べた(これしか机がないから)。
シャワーから出た小鳥遊と、無言で惣菜を頬張る。俺たちは普段からそこまで会話が弾むほうではないが、今日は一段と無言の時間が長い。小鳥遊が怒っているのがヒシヒシと伝わってくる。
ピリピリした空気に耐えられず、俺は無理に沈黙を破る。
「……美味い?」
「ああ」
「どれ好き?」
「合鴨肉」
「ああ、俺もそれ好き」
「……」
「……」
ダメだ。会話が続かない。
諦めて食事に専念していると、小鳥遊が口を開いた。
「眠いか?」
「まあ、うん……」
「……」
「……」
「俺、帰ろうか」
「えっ」
顔を上げた俺と小鳥遊の目が合わさった。
「二日連続はしんどいだろ」
「え、いや……」
「……」
「……」
そこで小鳥遊がふいと目を逸らした。
「誰かに朝まで抱かれて眠そうにしているお前を、抱きたいとは思わない」
「だからちがっ……」
「メシだけ食わせてもらって悪いが、帰る」
小鳥遊が立ち上がった。こいつ本気で帰る気だ。
心臓が縮こまる。血の気が引いていくのが分かった。
「待てって!!」
俺は咄嗟に、小鳥遊の腕を掴んでいた。
「聞け! 俺の話、聞け!!」
「……」
「座れっ!」
「……」
ムスッとしたまま小鳥遊が椅子に座りなおした。
俺は内心ホッとしつつ、事情を話した。
俺の話を聞き終えた小鳥遊は顔を真っ赤にしていた。
「……お、お前は、俺が急に来ることになって、朝まで掃除していただけ……?」
「そうだよ!」
「でも朝、キムラさんに……」
「あれは……っ、潔癖症のイメージが強くなるのが嫌だったから茶を濁しただけでだなあ……!!」
「それよりも嫌な印象が付いたようだったが……」
「眠くて頭が回ってなかったんだよ……!!」
俺は小鳥遊の腕を掴んだままベッドまで移動した。
ベッドの上に小鳥遊を放り投げ、俺は小鳥遊の上に跨る。
「俺は無実なので、帰しません」
「~~……っ」
バカ小鳥遊。俺がどれほど金曜日を待ちわびているのか、お前は知らないのだろう。だから「帰る」なんてそんなひどいことを言えるんだ。
俺からキスをすると、小鳥遊は少し目を見開いた。しかしすぐに体の力が抜け、俺の頬に手を添えた。
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