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トラブル
第二十話
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「ん……はっ! えっ、今何時!?」
うっかり小鳥遊の腕の中で眠ってしまったようだ。
俺は目が覚めるなり飛び起きた。時計は午前二時を指している。
「うわー……。ごめん小鳥遊……俺放って帰ってよかったのに」
小鳥遊から返事がない。目をやると、小鳥遊は渋い顔でスマホを眺めていた。
「あれ……。ちょっと待て。それ、俺の私用スマホ……」
「……通知がうるさかったから電源を切ろうとしたんだ。だが……」
小鳥遊はスマホ画面をこちらに向けた。
ロックは解除されていないが、通知画面にDMの内容が一部表示されている。
《ツキさん。返事ください》
《会いたいです》
《この前のドタキャン分埋め合わせてくださいよ》
《ツキさん。俺楽しみにしてたんですよ》
《ねえ、ツキさん返事ください》
小鳥遊は「なんだこれは」と低い声で唸った。
「あー……。ほら、先週の金曜、急に出張が入っただろ? それでドタキャンしたんだけどさ。相手が怒っちゃって、それからずっとこんなDMが来るんだよ」
「放っておいていいのか?」
「そうだな……。ドタキャンした俺が悪いし、その埋め合わせはしたほうがいいかなとは思ってる」
小鳥遊は「は?」と目を見開き、俺を睨みつける。
「こいつに抱かれに行く気か?」
「そうだな。今週の金曜日にでも行こうかな」
「お前なっ……」
小鳥遊は何かを言いかけて、すぐに口を噤んだ。
「……っ。……危険だ、そんな男」
「まあ……怖いよな、普通に。でも俺にも非があるしな……」
「こんなことにまで責任を感じるな」
「そうは言っても、これだって人間関係だし」
小鳥遊はムスッとしたまま呻くように言った。
「……俺も行く」
「え? 3Pはさすがに……」
「違う。ホテルの近くで待機するだけだ」
「なんで?」
「お前の身に何かあったとき、すぐ助けに行けるだろう」
「なっ……」
俺は顔を真っ赤にして、小鳥遊から顔を逸らす。
「はっ? えっ、なに。なんだよそれ」
「なんだ。なにかおかしいか」
「おかしいだろっ。そんなのまるで……」
まるで、彼氏みたいじゃないか。
小鳥遊もそれに気づいたのか、耳を赤くして弁解した。
「ちっ、違う! これは……そう、お前が俺の上司だからだっ! 上司がゲイ向けマッチングアプリで出会った男とトラブルに遭ったら、会社に迷惑がかかるからな! そうっ、そういう理由だっ!」
「なっ、なるほどなっ!(?)」
理由がどうであれ、正直一人で行くのは怖いと思っていたんだ。小鳥遊がそばにいてくれるというなら少しは安心できる。
「……悪いな、こんなことにまで付き合わせて」
「全くだ。できたらこんなこと、二度としてほしくないな」
「そうだな……。もうあのアプリ消すか……」
「そうしろ」
「お前も消せば?」
「もう消したさ」
ん? どうして俺は、小鳥遊があのアプリを消したことに安堵しているんだ?
◇◇◇
金曜の夜、俺はマッチングアプリで出会う最後の男性――タチバナさんとの待ち合わせ場所に向かった。
小鳥遊からは、数分前に近くのカフェに入ったとの連絡があった。
《なにかあったらすぐに連絡しろよ》
《ホテルの部屋番絶対に教えろよ》
などのメッセージも一緒に飛んできた。案外心配性なヤツだな。
「あのっ……ツキさんっ!」
「あ、タチバナさん――」
振り返った俺は、声をかけてきた人を二度見した。
初めて見る顔じゃない。この人は――
「……ヤヨイさん、ですよね」
「えっ。僕の顔覚えててくれたのっ? 嬉しいなあ!」
この人とは以前関係を持ったことがある、四度目でヘタッた三十五歳の人だ。
「どうしてです? 俺、タチバナさんって人と待ち合わせしてたはずなんですけど」
「えへへ。実はツキさんとどうしてももう一度したくて、アカウントを作り直したんだよね。だってほら、ツキさんってリピートNGでしょ?」
「はい。だから今日もダメです。同じ人とはしないって決めてるんで。それじゃ、失礼します」
その場を去ろうとしたが、ヤヨイさんに腕をつかまれる。
「ひどいよっ! 二回もドタキャンするつもり!?」
「一度目のことは謝りますが、二度目はあなたが反則したからですよ。離してください」
「いやだぁっ! こんな遠いところまで来たんだよっ! 何もせずになんて帰れない!」
「……」
困ったな。このまま帰ると逆恨みして後を尾けられそうだ。
どうする、小鳥遊を呼ぶか……? いや、俺に特定の男がいるなんて勘違いされたら、火に油を注ぐだけだ。被害が小鳥遊まで及びかねないし。
今日はこのまま抱かせて満足させるのが一番安全な気がする。
マッチングアプリのアカウントは今日で消すし、今日を凌げばこいつと縁を切れるはずだ。
「……分かりました。じゃあ、ホテル入りましょうか」
「! やったぁ! ほら、ツキさん行こ行こっ」
ふとカフェに目をやると、カウンター席で目をがん開きにしている小鳥遊と目が合った。
無表情なのがまた怖い。っていうか紙製のタンブラー握りつぶしているし。あいつこわ。
俺は小鳥遊に「大丈夫。行ってくる」的なメッセージを身振りで伝えてから、ヤヨイさんと共にホテルに入った。
うっかり小鳥遊の腕の中で眠ってしまったようだ。
俺は目が覚めるなり飛び起きた。時計は午前二時を指している。
「うわー……。ごめん小鳥遊……俺放って帰ってよかったのに」
小鳥遊から返事がない。目をやると、小鳥遊は渋い顔でスマホを眺めていた。
「あれ……。ちょっと待て。それ、俺の私用スマホ……」
「……通知がうるさかったから電源を切ろうとしたんだ。だが……」
小鳥遊はスマホ画面をこちらに向けた。
ロックは解除されていないが、通知画面にDMの内容が一部表示されている。
《ツキさん。返事ください》
《会いたいです》
《この前のドタキャン分埋め合わせてくださいよ》
《ツキさん。俺楽しみにしてたんですよ》
《ねえ、ツキさん返事ください》
小鳥遊は「なんだこれは」と低い声で唸った。
「あー……。ほら、先週の金曜、急に出張が入っただろ? それでドタキャンしたんだけどさ。相手が怒っちゃって、それからずっとこんなDMが来るんだよ」
「放っておいていいのか?」
「そうだな……。ドタキャンした俺が悪いし、その埋め合わせはしたほうがいいかなとは思ってる」
小鳥遊は「は?」と目を見開き、俺を睨みつける。
「こいつに抱かれに行く気か?」
「そうだな。今週の金曜日にでも行こうかな」
「お前なっ……」
小鳥遊は何かを言いかけて、すぐに口を噤んだ。
「……っ。……危険だ、そんな男」
「まあ……怖いよな、普通に。でも俺にも非があるしな……」
「こんなことにまで責任を感じるな」
「そうは言っても、これだって人間関係だし」
小鳥遊はムスッとしたまま呻くように言った。
「……俺も行く」
「え? 3Pはさすがに……」
「違う。ホテルの近くで待機するだけだ」
「なんで?」
「お前の身に何かあったとき、すぐ助けに行けるだろう」
「なっ……」
俺は顔を真っ赤にして、小鳥遊から顔を逸らす。
「はっ? えっ、なに。なんだよそれ」
「なんだ。なにかおかしいか」
「おかしいだろっ。そんなのまるで……」
まるで、彼氏みたいじゃないか。
小鳥遊もそれに気づいたのか、耳を赤くして弁解した。
「ちっ、違う! これは……そう、お前が俺の上司だからだっ! 上司がゲイ向けマッチングアプリで出会った男とトラブルに遭ったら、会社に迷惑がかかるからな! そうっ、そういう理由だっ!」
「なっ、なるほどなっ!(?)」
理由がどうであれ、正直一人で行くのは怖いと思っていたんだ。小鳥遊がそばにいてくれるというなら少しは安心できる。
「……悪いな、こんなことにまで付き合わせて」
「全くだ。できたらこんなこと、二度としてほしくないな」
「そうだな……。もうあのアプリ消すか……」
「そうしろ」
「お前も消せば?」
「もう消したさ」
ん? どうして俺は、小鳥遊があのアプリを消したことに安堵しているんだ?
◇◇◇
金曜の夜、俺はマッチングアプリで出会う最後の男性――タチバナさんとの待ち合わせ場所に向かった。
小鳥遊からは、数分前に近くのカフェに入ったとの連絡があった。
《なにかあったらすぐに連絡しろよ》
《ホテルの部屋番絶対に教えろよ》
などのメッセージも一緒に飛んできた。案外心配性なヤツだな。
「あのっ……ツキさんっ!」
「あ、タチバナさん――」
振り返った俺は、声をかけてきた人を二度見した。
初めて見る顔じゃない。この人は――
「……ヤヨイさん、ですよね」
「えっ。僕の顔覚えててくれたのっ? 嬉しいなあ!」
この人とは以前関係を持ったことがある、四度目でヘタッた三十五歳の人だ。
「どうしてです? 俺、タチバナさんって人と待ち合わせしてたはずなんですけど」
「えへへ。実はツキさんとどうしてももう一度したくて、アカウントを作り直したんだよね。だってほら、ツキさんってリピートNGでしょ?」
「はい。だから今日もダメです。同じ人とはしないって決めてるんで。それじゃ、失礼します」
その場を去ろうとしたが、ヤヨイさんに腕をつかまれる。
「ひどいよっ! 二回もドタキャンするつもり!?」
「一度目のことは謝りますが、二度目はあなたが反則したからですよ。離してください」
「いやだぁっ! こんな遠いところまで来たんだよっ! 何もせずになんて帰れない!」
「……」
困ったな。このまま帰ると逆恨みして後を尾けられそうだ。
どうする、小鳥遊を呼ぶか……? いや、俺に特定の男がいるなんて勘違いされたら、火に油を注ぐだけだ。被害が小鳥遊まで及びかねないし。
今日はこのまま抱かせて満足させるのが一番安全な気がする。
マッチングアプリのアカウントは今日で消すし、今日を凌げばこいつと縁を切れるはずだ。
「……分かりました。じゃあ、ホテル入りましょうか」
「! やったぁ! ほら、ツキさん行こ行こっ」
ふとカフェに目をやると、カウンター席で目をがん開きにしている小鳥遊と目が合った。
無表情なのがまた怖い。っていうか紙製のタンブラー握りつぶしているし。あいつこわ。
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