33 / 54
3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)
03
しおりを挟む
私たちの話し合いは平行線をたどっている。
というか、博士はなんでこういう時折れないんだろう? 私たちが無理だから作るなと言っても聞いてくれない。
まあ理由はなんとなくわかる。博士は作ることが楽しくなっちゃっているのだろう。
さらにいうと、博士は発明に対して不屈の精神を持っている。
この私に幾度となく発明品を壊されているというのに、それでも新たな発明品を作り上げ、結末はわかっているのに『見てくれ』と言うのだ。
その精神はまさに黄金だといえるだろう。だが、それら情熱と卓越した技術の粋を、私たちへの人体改造に向けているのだから、はっきりいって悍ましい。
製作中である現在、モチベーションが高いであろういま、『つくるな!』と頭ごなしで押さえつけるやり方は正しいとは言いにくい。
しかし! これを完成させてしまったら自動追尾機能が発動し、私たちはネコ耳・ウサ耳人生を強制されるかもしれないのだ!!
つまり、私たちは真正面から立ち向かい、この黄金の精神を完膚なきまでに否定し、拒絶し、諦めさせねばなるまい。
……もしかして、博士が可哀そうと思いますかね? それならですよ、脳をいじられてしまう恐怖を抱えた私たちも、憐れんでください。ね?
「むう……ひみっちゃんたちは何が気になるんかのう?」
「えっと、逆に何故気にならないと思うんですか?」
「あー……博士は恥とか知らないんじゃない?」
「失敬な! 恥じらいはあるぞ! しかし、ネコの耳を新たに付けることが恥になるとは思わぬ!」
むう……どうやって説得しようか……? しばし考え、自分のスマホが目に入った。
「そうだ!」
そこで、ひらめいた。私はスマホを二人にみせる。
「『斉藤さんの罰ゲーム動画シリーズ』にさ! 『ネコ耳カチューシャ買い物編』があるよ! その動画、見ますか? すっごい注目集めてたの!!」
「え、ひどっ、なんでそんなことするの!?」
あれっ!?
「おおう、それは……まあ、あまり……良い趣味じゃないぞ? ひみっちゃん」
あれあれ!? なんで私が攻められてるの?
妹まで!? 私! え? え? 私が、悪者なの!?
斉藤さんの恥ずかしい姿を動画に収めただけだよ!?
ていうか、博士が趣味わるいとかって責めてくるのって、何かこう、イラっとくる感じで腑に落ちないし、地味に傷つくんですが!?
そもそもですよ! 私たちにネコ耳生やそうとしてるの、博士でしょうが!?
「ねね」
私が二人の反応にわたわたしていると、妹が目を細めて聞いてくる。
「ちなみにそれ、どっちの斉藤さん?」
「そうじゃな、どっちじゃ?」
「えっ……」
「辱めを受けて屈辱に震える方か?」
「それとも悦んじゃって、顔とかだらしなくなっちゃう方?」
んー!? なんで博士も斉藤さんを知ってるのかな?
というか妹、その認識は後でお説教案件だからね! 間違ってないけど!!
内心の動揺を表情には出さず、私はしれっと言った。
「人生楽しそうな方?」
「どっちもじゃん」
「両方じゃな」
うわ、即答である。これには私も白旗を上げた。
「仕方ない。動画二つを見せましょう……」
「やっぱり二人とも餌食だった!? ひどいっ!」
「あの二人にネコ耳カチューシャって、ひみっちゃんは鬼なんかの?」
あーもうもう! なんでこっちが責められるの!?
あのですね、罰ゲームありで私に挑むのが悪いって話ですからね!?
というか、それって常識でしょ?
ちなみに私は大丈夫ですよ! 勝負に関して、一切手は抜きませんから!!
「でも、何のゲームしたの? いつもはそんな強くないのに……」
「そういえばひみっちゃんは、物があると実力を発揮するんじゃったのぉ……」
「あ、確かに! 利益があると、なんか急激に強くなるわね!!」
「物欲センサーならぬ、物欲エンジンじゃな! 運も良くなるしの!」
あれ? ……なんか急に貶められてない!?
実は私、褒められて伸びる子ですよ?
「物欲エンジンって良いわねそれ! 今度友達にも広めとく!」
「そうじゃな。儂も友人たちに教えとくぞ!」
「ちょちょちょ、なんで私のことを勝手にふれ回るんですか!?」
「行いが悪いから?」
「行いが可愛いからの!」
よしわかった。妹はあとでしかえし! 決まり! 博士は、うーん、保留かな?
「広めるのはやめて!」
「じゃあ、斉藤さんに酷いことしないでよ」
「あやつらは良い子じゃぞ? どっちもなかなかいい味だしとる!」
うーん、理不尽だなぁ。『妹だって斉藤さんをなじってたじゃん!』……そんな言葉は呑み込んで、私は唇をとがらせてスマホをしまう。
もう見せたげないもん!
「わかりました。じゃあ話がずれたので本題に戻りましょうよ?」
唇をとがらして言った私に、妹がはっとした表情を作る。
「本題って何じゃ?」
「つまり、博士がカチューシャでもひどいって言っちゃうようなことを、私たちにするんでしょ!?」
「ふむ? そりゃ、あやつらには絶望的に似合わんじゃろ?」
「むう……」
何でそこですかね!?
もしかして、私たちに似合うって言ってるんですか!?
えっとですね、妹ならまあ、似あうでしょう!
けれど、私には似合わないんですってば!
……あれ? えーと?
「あの、博士……」
「ひみっちゃんもいもっちゃんも可愛いからのぉ! とっても良く似合うぞ?」
それってさ、斉藤さんたちがまるっきし可愛くなくて、似合ってなくて、とぉっっっても残念だと言っているようなものだ!
意見は同じだが突っ込むべきだろうか?
いやいや違う! 論点はそこじゃない!!
「問題はそこじゃないんですって! 脳になんやかやをするんでしょう!?」
「あ、そうよ! 脳改造はだめよ!!」
「しかしのぉ……ネコ耳・ウサ耳の構造的に、自分で動かしたり聞こえたりができんと、何のために着けるんじゃ?」
逆に聞きたいです。なんでそんな所にこだわるんですか!?
私の言葉を待たず、妹が勢い込んで突っ込む。
「そもそも、ウサ耳もネコ耳も、いらないんだって!」
「アクセサリーならまだしも、生やすのはねぇ……そのためにリスク背負うのが嫌だと言ってるんです!!」
「むう……」
わたしたちの詰め寄りで、博士は腕を組んで考え込んだ。
「じゃあ、友人と繋げるから、直接言ってくれんか?」
「は?」
「え!?」
「あれはの、儂が主導で開発しとるわけじゃないんじゃ」
「……えと、博士が言いだしっぺじゃないですか?」
「ひみっちゃんが止めたじゃろ? しかし友人がの、『ネコ耳・ウサ耳は神の贈り物だからぜひ作りたい!』と言い出したのじゃ!」
私は、そこで記憶をたどる。博士は言った。
『仕方ないのお……。それじゃひみっちゃん大怪我せんでな!』
え、あれで本当に諦めてたんですか!?
「……え?」
あっけに取られた妹は、そのまま紅茶をいただく。
妹は紅茶には一家言あるらしく、紅茶を頂く場合には熱さを少し我慢することで、紅茶本来の楽しみ方を試みているらしい。
熱さに眉をしかめつつも小さくカップを傾ける。
口の中に漂うであろう香りと少し高級な茶葉の味わいと、自分には合わない熱を、じっとくりと複雑そうな表情で堪能したのち、落ち着いたトーンで博士へ切り込む。
「つまりさ、あたしたちのウサ耳・ネコ耳大計画は、友人さんが主導でやってるってこと?」
「そうじゃよ。しかし、専門外のことも多くてのぉ……儂も補助しとる。ひみっちゃんたちが危ういからのお」
いつになく優雅な姿勢で紅茶を楽しむ博士もまた、美味しそうな表情を見せていた。二人の様子を見ているとなんか、美味しそうに見えてしまうなぁ……。
少し悩んだ私は、周りにはカップを傾けたように見せ、舌先でちょっとだけ温度を確かめてから……うん、あっつい。『やっぱりもうちょっと冷めるまで待つかなぁ……』と、香りだけ楽しんでからカップを置いて息を吐く。
そして、ずばりと言った。
「では、即刻開発をやめさせてください」
「むぅ、開発中じゃしのぉ……儂も言うだけにしかならんぞ? あやつは偏屈じゃからのぉ……」
うう、私の知っている中でかなり偏屈っぽい博士が言うのか……?
それだと友人さんは、たぶん、結構な人っぽいことが予想できるなぁ。
……私は少し考える。もし友人さんが取りやめてくれなければどうしようか? そういえば、海外の方だよね? 会話がうまく通じるかも怪しい……。
もし、うまく伝わなかった場合、『できたぞい!』とか来そうな感じで、背筋に怖気が立ってしまう。
あー、でも、それなら、完成品を見ている前でしっかりばっちり壊せば良いかな?
いやいや駄目だって!
前に博士は『自動追尾型の爆発目覚まし』を作っていたじゃないか!?
その依頼はご友人のものであり、そういった機能は取り入れるに決まっているじゃん!
私の予測では、ご友人は博士よりも容赦がない。完成と同時に問答無用で飛んできそうだ!!
どうだろう? 爆発目覚ましは何とかなったけど、ネコ耳はうまく打ち落とせるかな?
いやダメダメ!
もし寝ている時に飛んできて、朝起きたら『ネコ耳だ!? ギャー!』ってことも起こるじゃん!!
……うーむむむ、まずいなぁ、どうするかなぁ?
「ひみっちゃん、急に黙ってどうしたんじゃ?」
「大丈夫よ、ロクでもないことをいっぱい考えてる時の顔だから」
「あれ考えとるんか? 姿勢正しいかんじで? すまし顔だけ微妙に変化するって、なんか珍しいのぉ」
「慣れてない人は不安を与えるわよね……? でもね、あれはたぶん、意味のないことを頭でぐるぐるしている感じよ」
「むぅ……儂の発明品解説を聞いとる時も、あんな感じじゃぞ?」
「あら、じゃほとんど聞いてないんじゃない? よく、あさっての方向への返し方しない?」
「なんと……心当たりは……いや、発明への質問はけっこう的を射ておるぞ……」
「ふーん? でも結論以外はたぶん聞き流してるわよ」
「……そうじゃったのか?」
なんだろう、私の表情読んで解説しないでほしい...。
というか、『すまし顔のなんたら』とかあだ名付けたの、妹か?
時々友人から言われたりするのだが?
私は唇をとがらせていう。
「黙ってるのをいいことに、二人とも失敬じゃないですかね?」
「あ、聞こえてた。5割くらいの確立で聞いてないのにね!」
「ひみっちゃん、人の話はちゃんと聞いた方が良いぞ?」
「ご心配なく。悪口だけは良く聞こえる耳なんです」
「それは難儀な耳じゃな。時々うっとうしくないか?」
ぐぬぬぬ……なんだろう、図星であって、この、ううぅ、なんなのだろう?
……私は少し恨めしそうな表情で言った。
「……はい、苦労してます」
「まあまあ、今は聞く態度になったから大丈夫よね」
「あのさ、博士にいらないこと教えないでほしいんだけど?」
「良いじゃん、どうせみんな知ってるわ」
いやいや、そんなこと言っても、自分の駄目なところを目の前で広めているのだからね?
止めるか、やり返すかという選択肢が浮かんだのだよ?
仕返しのネタとしては、例えば妹は学校で理系の友人ちゃんとタッグを組んで、なんかちょっと違う感じでやんちゃしていると聞いている。
これを博士に暴露することで、私の溜飲は下がるだろう。しかし、妹の行動は読みやすく、さらにその仕返しとして、私がやらかしたあれやこれを詳細かつ大胆に暴露するに決まっている。
いまここで、私がなんとかブレーキ踏まねば、チキンレースさながらの言い合いとなり、結局は共倒れとなってしまう傷だらけの未来が見えてしまった。
しまったなぁ、ケンカは冷静になったら拳を控えて負けるっぽい。
「してひみっちゃん、どうするかね? 儂の友人と話してみるかね?」
「あ、はい。お願いします」
「博士、よろしくね!」
「ええぞ! じゃあつないでみるかの」
「え、どうやってつなぐの?」
妹の疑問に答えず、博士が呼びかける。
「おーい、ちょっとええかー?」
『……ニヤ』
すると、相変わらず渋い微笑を浮かべた白カラスさんがふわりと飛んで、なぜか私の肩に止まった。その降り立ちようが決まっていて、落ち着いた姿はベテランの風格を醸している。
『ニヤニヤ』
「よう来てくれたの、あやつにつなげてくれんか?」
『ニヤ!』
博士の言葉を受けて白いカラスさんは微笑み浮かべ、翼を広げた。あ、飛び立つのかな?
しっかし、ちょっときてーで舞い降りて、あやつとかで本人特定してすぐつなげるって、本当はもの凄いことじゃないんですかね?
そんなことを思っていると、白カラスさんは私の肩をちょびっと強めに掴まってくる。痛いと痛くないの間くらいの絶妙な力加減であった。
あー、またこれ、私、お話し中ずっと耐えることとなるのかなぁ?
というか、博士はなんでこういう時折れないんだろう? 私たちが無理だから作るなと言っても聞いてくれない。
まあ理由はなんとなくわかる。博士は作ることが楽しくなっちゃっているのだろう。
さらにいうと、博士は発明に対して不屈の精神を持っている。
この私に幾度となく発明品を壊されているというのに、それでも新たな発明品を作り上げ、結末はわかっているのに『見てくれ』と言うのだ。
その精神はまさに黄金だといえるだろう。だが、それら情熱と卓越した技術の粋を、私たちへの人体改造に向けているのだから、はっきりいって悍ましい。
製作中である現在、モチベーションが高いであろういま、『つくるな!』と頭ごなしで押さえつけるやり方は正しいとは言いにくい。
しかし! これを完成させてしまったら自動追尾機能が発動し、私たちはネコ耳・ウサ耳人生を強制されるかもしれないのだ!!
つまり、私たちは真正面から立ち向かい、この黄金の精神を完膚なきまでに否定し、拒絶し、諦めさせねばなるまい。
……もしかして、博士が可哀そうと思いますかね? それならですよ、脳をいじられてしまう恐怖を抱えた私たちも、憐れんでください。ね?
「むう……ひみっちゃんたちは何が気になるんかのう?」
「えっと、逆に何故気にならないと思うんですか?」
「あー……博士は恥とか知らないんじゃない?」
「失敬な! 恥じらいはあるぞ! しかし、ネコの耳を新たに付けることが恥になるとは思わぬ!」
むう……どうやって説得しようか……? しばし考え、自分のスマホが目に入った。
「そうだ!」
そこで、ひらめいた。私はスマホを二人にみせる。
「『斉藤さんの罰ゲーム動画シリーズ』にさ! 『ネコ耳カチューシャ買い物編』があるよ! その動画、見ますか? すっごい注目集めてたの!!」
「え、ひどっ、なんでそんなことするの!?」
あれっ!?
「おおう、それは……まあ、あまり……良い趣味じゃないぞ? ひみっちゃん」
あれあれ!? なんで私が攻められてるの?
妹まで!? 私! え? え? 私が、悪者なの!?
斉藤さんの恥ずかしい姿を動画に収めただけだよ!?
ていうか、博士が趣味わるいとかって責めてくるのって、何かこう、イラっとくる感じで腑に落ちないし、地味に傷つくんですが!?
そもそもですよ! 私たちにネコ耳生やそうとしてるの、博士でしょうが!?
「ねね」
私が二人の反応にわたわたしていると、妹が目を細めて聞いてくる。
「ちなみにそれ、どっちの斉藤さん?」
「そうじゃな、どっちじゃ?」
「えっ……」
「辱めを受けて屈辱に震える方か?」
「それとも悦んじゃって、顔とかだらしなくなっちゃう方?」
んー!? なんで博士も斉藤さんを知ってるのかな?
というか妹、その認識は後でお説教案件だからね! 間違ってないけど!!
内心の動揺を表情には出さず、私はしれっと言った。
「人生楽しそうな方?」
「どっちもじゃん」
「両方じゃな」
うわ、即答である。これには私も白旗を上げた。
「仕方ない。動画二つを見せましょう……」
「やっぱり二人とも餌食だった!? ひどいっ!」
「あの二人にネコ耳カチューシャって、ひみっちゃんは鬼なんかの?」
あーもうもう! なんでこっちが責められるの!?
あのですね、罰ゲームありで私に挑むのが悪いって話ですからね!?
というか、それって常識でしょ?
ちなみに私は大丈夫ですよ! 勝負に関して、一切手は抜きませんから!!
「でも、何のゲームしたの? いつもはそんな強くないのに……」
「そういえばひみっちゃんは、物があると実力を発揮するんじゃったのぉ……」
「あ、確かに! 利益があると、なんか急激に強くなるわね!!」
「物欲センサーならぬ、物欲エンジンじゃな! 運も良くなるしの!」
あれ? ……なんか急に貶められてない!?
実は私、褒められて伸びる子ですよ?
「物欲エンジンって良いわねそれ! 今度友達にも広めとく!」
「そうじゃな。儂も友人たちに教えとくぞ!」
「ちょちょちょ、なんで私のことを勝手にふれ回るんですか!?」
「行いが悪いから?」
「行いが可愛いからの!」
よしわかった。妹はあとでしかえし! 決まり! 博士は、うーん、保留かな?
「広めるのはやめて!」
「じゃあ、斉藤さんに酷いことしないでよ」
「あやつらは良い子じゃぞ? どっちもなかなかいい味だしとる!」
うーん、理不尽だなぁ。『妹だって斉藤さんをなじってたじゃん!』……そんな言葉は呑み込んで、私は唇をとがらせてスマホをしまう。
もう見せたげないもん!
「わかりました。じゃあ話がずれたので本題に戻りましょうよ?」
唇をとがらして言った私に、妹がはっとした表情を作る。
「本題って何じゃ?」
「つまり、博士がカチューシャでもひどいって言っちゃうようなことを、私たちにするんでしょ!?」
「ふむ? そりゃ、あやつらには絶望的に似合わんじゃろ?」
「むう……」
何でそこですかね!?
もしかして、私たちに似合うって言ってるんですか!?
えっとですね、妹ならまあ、似あうでしょう!
けれど、私には似合わないんですってば!
……あれ? えーと?
「あの、博士……」
「ひみっちゃんもいもっちゃんも可愛いからのぉ! とっても良く似合うぞ?」
それってさ、斉藤さんたちがまるっきし可愛くなくて、似合ってなくて、とぉっっっても残念だと言っているようなものだ!
意見は同じだが突っ込むべきだろうか?
いやいや違う! 論点はそこじゃない!!
「問題はそこじゃないんですって! 脳になんやかやをするんでしょう!?」
「あ、そうよ! 脳改造はだめよ!!」
「しかしのぉ……ネコ耳・ウサ耳の構造的に、自分で動かしたり聞こえたりができんと、何のために着けるんじゃ?」
逆に聞きたいです。なんでそんな所にこだわるんですか!?
私の言葉を待たず、妹が勢い込んで突っ込む。
「そもそも、ウサ耳もネコ耳も、いらないんだって!」
「アクセサリーならまだしも、生やすのはねぇ……そのためにリスク背負うのが嫌だと言ってるんです!!」
「むう……」
わたしたちの詰め寄りで、博士は腕を組んで考え込んだ。
「じゃあ、友人と繋げるから、直接言ってくれんか?」
「は?」
「え!?」
「あれはの、儂が主導で開発しとるわけじゃないんじゃ」
「……えと、博士が言いだしっぺじゃないですか?」
「ひみっちゃんが止めたじゃろ? しかし友人がの、『ネコ耳・ウサ耳は神の贈り物だからぜひ作りたい!』と言い出したのじゃ!」
私は、そこで記憶をたどる。博士は言った。
『仕方ないのお……。それじゃひみっちゃん大怪我せんでな!』
え、あれで本当に諦めてたんですか!?
「……え?」
あっけに取られた妹は、そのまま紅茶をいただく。
妹は紅茶には一家言あるらしく、紅茶を頂く場合には熱さを少し我慢することで、紅茶本来の楽しみ方を試みているらしい。
熱さに眉をしかめつつも小さくカップを傾ける。
口の中に漂うであろう香りと少し高級な茶葉の味わいと、自分には合わない熱を、じっとくりと複雑そうな表情で堪能したのち、落ち着いたトーンで博士へ切り込む。
「つまりさ、あたしたちのウサ耳・ネコ耳大計画は、友人さんが主導でやってるってこと?」
「そうじゃよ。しかし、専門外のことも多くてのぉ……儂も補助しとる。ひみっちゃんたちが危ういからのお」
いつになく優雅な姿勢で紅茶を楽しむ博士もまた、美味しそうな表情を見せていた。二人の様子を見ているとなんか、美味しそうに見えてしまうなぁ……。
少し悩んだ私は、周りにはカップを傾けたように見せ、舌先でちょっとだけ温度を確かめてから……うん、あっつい。『やっぱりもうちょっと冷めるまで待つかなぁ……』と、香りだけ楽しんでからカップを置いて息を吐く。
そして、ずばりと言った。
「では、即刻開発をやめさせてください」
「むぅ、開発中じゃしのぉ……儂も言うだけにしかならんぞ? あやつは偏屈じゃからのぉ……」
うう、私の知っている中でかなり偏屈っぽい博士が言うのか……?
それだと友人さんは、たぶん、結構な人っぽいことが予想できるなぁ。
……私は少し考える。もし友人さんが取りやめてくれなければどうしようか? そういえば、海外の方だよね? 会話がうまく通じるかも怪しい……。
もし、うまく伝わなかった場合、『できたぞい!』とか来そうな感じで、背筋に怖気が立ってしまう。
あー、でも、それなら、完成品を見ている前でしっかりばっちり壊せば良いかな?
いやいや駄目だって!
前に博士は『自動追尾型の爆発目覚まし』を作っていたじゃないか!?
その依頼はご友人のものであり、そういった機能は取り入れるに決まっているじゃん!
私の予測では、ご友人は博士よりも容赦がない。完成と同時に問答無用で飛んできそうだ!!
どうだろう? 爆発目覚ましは何とかなったけど、ネコ耳はうまく打ち落とせるかな?
いやダメダメ!
もし寝ている時に飛んできて、朝起きたら『ネコ耳だ!? ギャー!』ってことも起こるじゃん!!
……うーむむむ、まずいなぁ、どうするかなぁ?
「ひみっちゃん、急に黙ってどうしたんじゃ?」
「大丈夫よ、ロクでもないことをいっぱい考えてる時の顔だから」
「あれ考えとるんか? 姿勢正しいかんじで? すまし顔だけ微妙に変化するって、なんか珍しいのぉ」
「慣れてない人は不安を与えるわよね……? でもね、あれはたぶん、意味のないことを頭でぐるぐるしている感じよ」
「むぅ……儂の発明品解説を聞いとる時も、あんな感じじゃぞ?」
「あら、じゃほとんど聞いてないんじゃない? よく、あさっての方向への返し方しない?」
「なんと……心当たりは……いや、発明への質問はけっこう的を射ておるぞ……」
「ふーん? でも結論以外はたぶん聞き流してるわよ」
「……そうじゃったのか?」
なんだろう、私の表情読んで解説しないでほしい...。
というか、『すまし顔のなんたら』とかあだ名付けたの、妹か?
時々友人から言われたりするのだが?
私は唇をとがらせていう。
「黙ってるのをいいことに、二人とも失敬じゃないですかね?」
「あ、聞こえてた。5割くらいの確立で聞いてないのにね!」
「ひみっちゃん、人の話はちゃんと聞いた方が良いぞ?」
「ご心配なく。悪口だけは良く聞こえる耳なんです」
「それは難儀な耳じゃな。時々うっとうしくないか?」
ぐぬぬぬ……なんだろう、図星であって、この、ううぅ、なんなのだろう?
……私は少し恨めしそうな表情で言った。
「……はい、苦労してます」
「まあまあ、今は聞く態度になったから大丈夫よね」
「あのさ、博士にいらないこと教えないでほしいんだけど?」
「良いじゃん、どうせみんな知ってるわ」
いやいや、そんなこと言っても、自分の駄目なところを目の前で広めているのだからね?
止めるか、やり返すかという選択肢が浮かんだのだよ?
仕返しのネタとしては、例えば妹は学校で理系の友人ちゃんとタッグを組んで、なんかちょっと違う感じでやんちゃしていると聞いている。
これを博士に暴露することで、私の溜飲は下がるだろう。しかし、妹の行動は読みやすく、さらにその仕返しとして、私がやらかしたあれやこれを詳細かつ大胆に暴露するに決まっている。
いまここで、私がなんとかブレーキ踏まねば、チキンレースさながらの言い合いとなり、結局は共倒れとなってしまう傷だらけの未来が見えてしまった。
しまったなぁ、ケンカは冷静になったら拳を控えて負けるっぽい。
「してひみっちゃん、どうするかね? 儂の友人と話してみるかね?」
「あ、はい。お願いします」
「博士、よろしくね!」
「ええぞ! じゃあつないでみるかの」
「え、どうやってつなぐの?」
妹の疑問に答えず、博士が呼びかける。
「おーい、ちょっとええかー?」
『……ニヤ』
すると、相変わらず渋い微笑を浮かべた白カラスさんがふわりと飛んで、なぜか私の肩に止まった。その降り立ちようが決まっていて、落ち着いた姿はベテランの風格を醸している。
『ニヤニヤ』
「よう来てくれたの、あやつにつなげてくれんか?」
『ニヤ!』
博士の言葉を受けて白いカラスさんは微笑み浮かべ、翼を広げた。あ、飛び立つのかな?
しっかし、ちょっときてーで舞い降りて、あやつとかで本人特定してすぐつなげるって、本当はもの凄いことじゃないんですかね?
そんなことを思っていると、白カラスさんは私の肩をちょびっと強めに掴まってくる。痛いと痛くないの間くらいの絶妙な力加減であった。
あー、またこれ、私、お話し中ずっと耐えることとなるのかなぁ?
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
天之琉華譚 唐紅のザンカ
ナクアル
キャラ文芸
由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。
道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。
しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。
その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
モノの卦慙愧
陰東 愛香音
キャラ文芸
「ここじゃないどこかに連れて行って欲しい」
生まれながらに異能を持つひなは、齢9歳にして孤独な人生を強いられた。
学校に行っても、形ばかりの養育者である祖父母も、ひなの事を気味悪がるばかり。
そんな生活から逃げ出したかったひなは、家の近くにある神社で何度もそう願った。
ある晩、その神社に一匹の神獣――麒麟が姿を現す。
ひなは彼に願い乞い、現世から彼の住む幽世へと連れて行ってもらう。
「……ひな。君に新しい世界をあげよう」
そんな彼女に何かを感じ取った麒麟は、ひなの願いを聞き入れる。
麒麟の住む世界――幽世は、現世で亡くなった人間たちの魂の「最終審判」の場。現世での業の数や重さによって形の違うあやかしとして、現世で積み重ねた業の数を幽世で少しでも減らし、極楽の道へ進める可能性をもう一度自ら作るための世界。
現世の人のように活気にあふれるその世界で、ひなは麒麟と共に生きる事を選ぶ。
ひなを取り巻くあやかし達と、自らの力によって翻弄される日々を送りながら、やがて彼女は自らのルーツを知ることになる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
超絶! 悶絶! 料理バトル!
相田 彩太
キャラ文芸
これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。
挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★
そのルールは単純にて深淵。
対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。
そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!
例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。
まともな勝負だ。
例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。
骨をどうすればいいんだ……
例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」
どんな特級厨師だよ母。
知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!
特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!
敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。
この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?
料理バトルものです。
現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。
実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。
まだまだレベル的には足りませんが……
エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。
パロディ成分多めです。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる