博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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「おーい、聞こえとるかの?」

 博士が白カラスさんに呼びかける。白カラスさんは暫く首を傾げたりしていたが、大きく羽ばたくような姿を見せる。
 うーん、なにしてるんだろう?
 やっぱり距離があるし、時間かかるのかな?
 あ、でも普通につながるかんじかな?
 あと、どういう原理何だ? 通信?
 いや、でも、私たちの所には手紙で来たよね?

「……っ!?」

 思考に走ったノイズ! それは肩に走った痛みである!
 白カラスさんがなんか踊りはじめて……爪がより食い込んできたのだ!
 これがね……痛いとハッキリ拒絶きょぜつするほどでもないし、しかし、我慢がまんするにしては、断続的で、ちょうど判断付きにくい負荷である。

 それを緩急をつけながら与えてくる手法を取って踊る。肩で踊ってるのもなんか、ちょびっと邪魔くさいし、大真面目な顔だから注意しにくい。

 このダンディカラスさん! とってもいやらしいじゃないですか!!
 もしかして、質の高いサディスト!?

 できれば別の人にとりついてほしい……具体的には妹に。そして、問答無用ではたき落とされるが良いわ!

「おーい、つながったかー? 今大丈夫かの? 昨日の今日じゃが、儂じゃぞ!」
『ニヤ』

 白カラスさんは足を持ち上げた。そこにはいつのまにか銀の環が生えている。隣に座っていた妹が目ざとく気づき、その環を外して紙を開く。そして、目を丸くした。

「うっわ、英語じゃん!? 博士、これ読めるの?」

 私はその紙をのぞき込む。そこは妹の言う通り、英語による長文が並んでいる。妹は文系は苦手らしく、目を白黒させながら文章を追っている。
 てか、あー、これ、スラング混じってるじゃん……ちょっと読みにくいかなぁ?

「えーと、博士……こんなじかんに……んーと、なんの用事? 奥さんが、だれ? 名前、どれだろ? の部屋にいっててくれたから……相手、できるのを感謝して?」

 えっと、んー? 向こうは夜中っぽい?
 てか、これちょっと、口に出すにははばられる、アダルトな内容も混ぜ込んでるっぽい!?
 妹に見せちゃだめじゃん!!

「お、ひみっちゃんは英語ができるんか?」
「まあ、少しなら何とかなります。解りやすく書いてますから」
「そかそか、しかし、筆談は面倒じゃな!」

 博士はそういって立ち上がってこちらまで来ると、私の肩を痛めつけている白カラスさんの喉を軽くぜる。

『変更を受け付けまーす! モードを選んでくださいっ!』

 うわ、しゃべったー!?
 しかし、今回は妹の声っぽいぞ!?
 なんで!? 声の素材とかいつ採取したの?

「うえっ!? この子、しゃべれれるの!?」
「対話モードにしとくれ! AI翻訳ほんやくで頼むぞい!」
「……カラスさん、じつは喋れたんですか!?」
「うっわー! とおぉっても可愛い声ね! やっぱかわいい系じゃん! この子、声もぴったり!」

 なんでちょっと嬉しそうにしてるんだ妹さん?
 ていうか録音された自分の声を聴くって、あんまりいい気分じゃなかろうに……。
 いや、でも、なんか音外してるのに発声練習してた妹なら、そうでもないのか?
 むぅ……。

「可愛いかどうかは置いといて、苦み走ったダンディさんがこの声かぁ……」
「なによぉ、不満があるの?」
「いやいや、声から中身が察せちゃうからね……うん、採点がきびしくなるのだよ」
「えー、何の点数よ?」

 適当なこと言っただけなのに、なんで突っかかって来るかなぁ?
 そんな疑問が少しあるが、私はでまかせを重ねる。

「えっと、思わずぐっとくるランキング?」
「なにそれ、いつの間にそんなん作った!?」
「さあ?」

 作ってないからねー。しかし、妹は眉をあげた。

「もしかして、斉藤さん由来でしょ!? この前だって!! もう! あの人たちほんっっとうに! もうもう!!」

 んー? 斉藤さんは私に隠れて何やってんだ?
 てか、風評被害ふうひょうひがいはいただけないと、反論してしまった。

「たち、に私は入れないでほしいよ」
「入れたら『最低最悪』になっちゃうわ!」
「なぬ!?」

 そんなどうでもいいことを言っている間に、博士は白カラスさんのなでなでがおわった。
 なんていうか、あのダンディカラスさんが、可愛いらしくもとろけるような、初めて見たような表情じゃないか!?

 えーうそだー、てか、私ももふらせてくれないのに!
 ぐぬぬ、なんだろう、なんか、なんていうか、ちょっと悔しい。

「おーい、モードを切り替えたぞ、少し待っとってな」

 そして博士は私たちに向き直った。その瞬間白衣をすこしだけバサッとしたようにみえる。そして自慢を始めた。

「このまえ長々とやらにゃならんくなってな! 最近付けた機能じゃよ!」
「ほう?」

 そうしていると、白カラスさんはバサバサとししだして、そして顔つきが徐々に変わっていく。

「ちょっと時間が掛かるんじゃよ……」

 どうやら、変更に時間が掛かるようだなぁ。その間に博士は機能を説明してくれた。

「機能はシンプルじゃ。声でのやりとりができる!」
「おや、電話ですか?」
「まるで違うぞ? 電波は使わん!」
「ほう?」

 じゃあ、何を使ってるんだろ?
 その疑問をうかがう前に、博士はにこにこと笑って言う。

「前に、ひみっちゃんの声は壊されたんでな! インターフェイスはいもっちゃんにしてみたぞ!」
「私が悪いような言い回しはやてください。というか、危ないものを作るからです」
「この子は大丈夫よね! てか、可愛い子には可愛い声が良いもん! 博士、センスある!!」

 調子に乗った妹に、ちょいと一撃したい所だ。しかし、それよりも気になる事がある。私は博士へ注意喚起ちゅういかんきを行った。

「あの、妹の声では歌わせないでくださいね」
「んー? そんな機能はつけとらんが……?」
「まあ、あたしの歌は誰にもマネできないからね!」

 ふふんといった感じで胸を張る妹に、私は『そうじゃないんだ妹よ』と出かかった言葉を胸にしまった。

 これは、多くの人間が関わった悲しい現実である。
 小器用な妹は、たいていのことはできる。しかし、音楽とはものすごく相性が悪いのだ!!
 歌を歌えば鳥さん気絶し、楽器を奏でる機会があれば、怪音波を放つ兵器と化して、半径50m四方の人心を不安定にする!
 料理中の私はそれを受け、まな板の端っこ飛ばしかけたのだぞ!?
 ヘタレ包丁のおかげで無事だったけど!!

 つまり、妹は音楽関係に携わってはいけない!

 それに! もし博士が怪音波の影響を受けた場合、いつもの発明が、さらに不安定かつ凶悪になってしまう気がするじゃないか!!
 そして、実害を受けるのは私たちなんですよ!!!

「もう唯一無二の存在ってことでいいからさ……とにかく博士、歌はだめですからね!」
「なによ、もう!」
「ようわからんが、解ったぞ!」

 私たちのやり取りの後、白カラスさんがなんかアヤシイ光、オーラ的な物を帯びている!?

 なにこれ!?
 人体に影響はないでしょうね!?
 私の肩に乗ってるんですよ!?
 あ、でも、肩の力はちょびっとゆるくなってる?

 ……と思ったら、白カラスさんは私の肩を飛び立って、机に移動した。

『モード変更したわ! 思う存分話してね! 漆黒にみえる純白の翼をはためかせ、混沌カオスかがやきへと導く会話劇をくりひろげなさい!』
「うげ、なんか、イヤなかんじ」

 妹の過去の口真似をする白カラスさんが、なんかウインクっぽいものをしたように思える。露骨に表情を硬くする妹が、なんかおもしろい。

「おし、おっけーじゃな」

 博士は自分の椅子へと戻ると、にこにこしながら白カラスさんに言葉をかけた。

「オーイ、昨日ぶりじゃな! 元気か?」
『ハーイ、夜中でも僕は元気さ博士! もっとも、僕のワイフはあいつの部屋でより元気に張り切ってるぜ!』

 その声は、妹の声ではなかった。明らかに本人ぽい声をもって白カラスさんは言う。
 その言葉を聞いた私は、なんかテレビの再放送でやっていた、アメリカのホームドラマっぽい言い回しだと感じる。てか、こんな言い方が一般的なのかな?

「…………」

 私は白カラスさんの変化に動揺し、中々言葉が出ない。妹が先に声を掛ける。

「えーっ、なんか流暢りゅうちょうにしゃべってるじゃん! 翻訳にAI!? 博士が作ったの?」

 妹の言葉で私は目を見張った。この映画みたいな話し方って、AI(?)で翻訳されたから、こんな感じになってるのかな?

 いやまてよ!? AIってのはプログラムとかそんな感じの技術じゃなかったっけ?
 今まで見せてもらったのって、機械ばっかりだったのに!
 博士ってば、そっち関係の技術もあるんですか!?
 ちょっとマルチな才能すぎません?

 驚きを隠しもせずに博士を見つめる私であった。しかし博士はそれに気づかず白カラスさん(ご友人)とお話している。

「奥さんにとって、さらに魅力的な奴がおるってことじゃな! お主ももっと魅力を磨くがよいわ!」
『たしかにな! 僕も目移りしちまうから、おあいこさ!!』
「ああ、昨日も奥さん以外の子と遊んでたんじゃろ?」
『誰のことだい? 僕は約束を守っただけさ! もちろん約束は女の子としか交わさないけどね!』
「そんなんだから、刺されるんじゃよ。腹の傷、具合はええんか?」
『はっはっはっ! 大丈夫だぜ。痛いってより熱いって感じだったが、それだけですんだよ! 赤チン、ありがとう!! 魔法かと思ったぜ!』
「もうないからの、気を付けるんじゃぞ!」

 え、なんだろうこの会話、なんなんだろう!?

「……えーっと? あの、どこから突っ込めば?」
「あの、えっと、とってもだめな人?」
『おやー? 聞きなれない声があったな……誰かいるのかい?』
「うむ。ひみっちゃんといもっちゃんじゃ! 昨日のお主の言葉を借りれば、『麗しの君』と『麗しの妹ちゃん』じゃよ!」

 なんだそれ? ほんとう、何なんだこの人たち!?

『お―貴方たちがうわさの!? どうだい二人とも! 僕と一晩楽しんでみないか?』

 あ、これはうん、あれな人だ。うん。

「妹はだめです! あと私は、深海からいずって来た、タコさんを膨らませたような顔でヒゲがはえてて眉毛繋がってます」

 私の目は冷たくなっているだろう。自然に言葉が出た。

「それでも誘ってくれます?」

 なんか、机の白カラスさんは色々と震える感じのリアクションを取った。

『おーけー、聞かなかったことにしてくれ……』

 助兵衛すけべさんはイメージを食べて生きている。ならばそのイメージをひどい感じに染めてあげれば興味を抱かなくなるものだ。

 これは、お世話になったおば様からの助言なのです!

「ひみっちゃん、何言うとるんじゃ?」
「博士、余計なことは言わないでくださいね」
「ん……うむ」

 気迫のこもった視線と、微笑の釘さしにより、博士もあっさり従う。私は、さらに交渉を続けることにした。

「さて、ご友人。ちょっと伺ったのですが、私と妹をネコ耳とウサ耳に改造しようと聞いたのですが、本当ですか?」

 通訳兼伝達役の白カラスさんは机から飛び立ち、対面の博士の腕に止まって私たちに向き直る。そして、暫く首をかしげる姿勢を取ってから言う。

『そのとおりだよ! なんてタイムリーなんだ!!』
「いま、開発でもしてたんですかね?」
「おそらくな。向こうは10~15時間ほど時差があるからのぉ、けっこうな時間じゃと思うぞい」

 小さくやり取りをする私と博士、白カラスさんはとっても胸を膨らませオーバーアクションで話を続けた。

『良いかい、ネコ耳やウサ耳ってのは今、世界の文化遺産として登録されようとしているんだ!! だったらいち早く具体化するべきだろ!?』
「ねえ、この人なんでこんなわかりやすい嘘つくの?」
虚言癖きょげんへきはこやつのサガじゃ。慣れるしかないの」
「ええー……」

 後ろで何か言っているが、交渉は私がかじを取るべきだなと、私は白カラスさんをきりっとにらんだ。

「良いですか、私たちをモデルにする以上、私たちの要望も聞いていただきます!」
『オーライ、何でも言ってくれ』
「開発、中止してください!」
『オウ……なぜ、そんなことを言うんだい?』

 本当に怪訝けげnそうなしぐさを取った白カラスさん。
 ぐぅ、可愛いじゃないか……。
 私は妹思想に汚染されそうな自我をなんとか保ちつつ、ご友人に向かって言った。

「解りませんか?」
『ああ、さっぱりだ』

 私は何と伝えるべきか言葉を探すために、ようやくぬるくなってきた紅茶をいただく。これは、長丁場になりそうだなぁ……。
 せっかくの上品な紅茶でも、ストレスのある時は楽しめないということに、今更ながら気が付くのであった。
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