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大也、刹那忍軍を釣り上げる

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 土岐影ヒカリの実地訓練は『手塚大也への接近と情報収集』である。

 オシャレなカフェでケーキを食べながら、

「手塚君は浅草寺には観光で来てるの?」

「いや、釣りだよ、ヒカリさん。浅草なら釣れると思って」

「釣り? お魚の?」

「ううん、刹那忍軍の。何か狙われてるらしくってさ、オレ? だから狙い易いように1人でブラブラしてたんだよ」

 刹那忍軍が一流の暗殺集団な事は有名でヒカリも知っていたが、それは忍者の話だ。なのでヒカリはとぼけるように、

「えっと、刹那忍軍って何なの?」

「えっ、御同業だよね?」

 大地の質問にヒカリは正直に身体を硬直させながら、

「――ど、どうして、そう思ったの?」

「だって不知火学園を見学した時、見たし。その髪の色は目立つから覚えてたんだけど」

「不知火学園を見学ってーー部外者は出来ないわよ? いつ、見学したのよ?」

「大鳥忍軍の総帥が見学した時。学園長先生が案内してた時、もう1人、隣に居たでしょ? それがオレ」

「あれ、手塚君だったの?」

 服装がパーカーに変わってたので全く気付かなかったヒカリが今更気は付いた。

 同時にその情報が伏せられていた事にも気付く。『何か胡散臭い事に巻き込まれてる』と遅蒔きに思った。

「それで何の用なの、ヒカリさんはオレに? もしかして30人を潰した報復?」

「えっ? 不知火学園の生徒潰しも手塚君だったの?」

 その情報も伏せられていた。ヒカリはもう『絶対に変な事に巻き込まれてる』と理解した。

「あれ、聞いてないの?」

「ええ。手塚君への接近と情報収集が目的だから」

 その言葉を聞いた大也は、

「任務でナンパした訳ね」

 『任務なしで逆ナンされてる可能性も少しはある』と考えてたのでガッカリした。

「ええ、半日で150万円だったから」

「へぇ~、よっぽど優秀なんだね。どんな忍法が使えるのーーって、土岐影一族なら影使いだよね」

「忍法って『妖怪憑き』の事?」

「うん」

「ないわよ、私には」

「――そうなの?」

 その返事には大也も眼を丸くした。確かに妖怪憑きにしては弱く見える。

「それが普通よ」

「でも土岐影ならーー影系のが使えるはずでしょ? 確か『影鰐』だっけ、凄いのが」

「そんなの曾爺様の代でとっくに失伝したわよ。爺様は使えなかったし。それで没落」

「あらら」

 と大也が苦笑しながら、

「じゃあ、影から武器とかは出せないの?」

「出せないわよ」

「今、何か武器を持ってる?」

「武器? スマホケースから外せる強化プラスチック製の小型手裏剣が2枚だけね」

 『変な事を聞くわね?』と思いながらヒカリが答えた時には、オシャレカフェに入店してきた暇そうな大学生風の男女2人が大也達のテーブルの横に立って、

「刹那忍軍だ。ついて来い」

「嫌だと言ったらここで始めるから断るなら覚悟してね」

 そう声を掛けてきた。

 刹那忍軍は暗殺集団なので完全な武闘派だ『接近に気付いて武器の有無を聞いたのね』と理解しながらヒカリはまじまじと2人を見た。とても戦闘タイプには見えなかった。

「はいはい、行きますよ」

 大也が席を立ち、

「おまえもだよ」

「私は別にーー分かったわよ」

 否定的な事を言おうとした瞬間、手の中に隠し持つ麻酔針発射装置を向けられて、仕方なくヒカリも席を立った。美味しかったケーキが後2口残っていたのが少し未練だったが。

 オシャレカフェでの会計を大也が済ませて、店を出る。

 歩道に出た瞬間、大也が裏拳で男の顔面を殴り、凄い勢いで男を壁に叩き付けた。『手塚流忍法かまいたち・高速移動(風グローブ)』だ。その為、大也は拳を痛めない。

 同時に女の股間を蹴りあげてた。ヒカリは『女に効く訳ないでしょ』と思ったが、

「うおおお」

 野太い声で股間を抑えてピョンピョンしてた。

「えっ、オカマさんだったの? 胸あったわよ? 豊胸手術?』とヒカリがショックを受ける中、ヒカリの手を取った大也は遊びでも始めるかのように楽しそうに、

「ほら、逃げるよ、ヒカリさん」

「どうして私まで?」

「任務でしょ」

「もう」

 そのまま2人は都内を走り出したのだった。
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