クラスで異世界に転移するまではいい、でも175㎝の俺が踊り子って誰得だよ!

荒瀬竜巻

文字の大きさ
89 / 216
こういう事もあるだろう

水と油が誕生した

しおりを挟む
仁は絶対に話さないと言わんばかりの力で俺の肩を抱いている。後ろにあるのは俺の恐怖の象徴、そして俺が話さなくてはならないクラスメイトだ。あれ、声ってどうやったら出るんだっけか。話し合おうとか、分かり合えるとかそんな言葉が出てきそうなのに声に出さないこの喉が忌わしい。今もこうやって守ってくれる仁の存在を享受するしかない自分が情けない。

「別に何の用ってほどでもないよ。ただ梓の顔が見たかっただけ」

「黙れ、これ以上梓の名を口にするな」

悪びれるような声色では一切なく、あくまでも俺を見たかっただけというその発言は、ある意味純粋なものだった。浮世離れなんて言葉では表せない、まさしく人間離れしたその考え方は決して褒められた純粋さではないと思う。しかし何より恐ろしかったのは、すぐさま薫の邪魔をした留辰巳の声だった。

氷のように冷たい言葉は、薫に対する憎悪をそのまんまに表していた。これ以上喋ったら食い破るぞと言わんばかりのその音は、流石の薫もたじろぐ……とはならなかった。子供のように無邪気に笑うと、ワクワクしたような声で続けて喋る。仁はただ俺を守るようにその場を掻き乱すことなく静観していた。

「いいねぇ、その声は面白い。俺の腕と鼻の骨を粉砕するだけじゃ足りなかったんだね。しかもその後錦織くん達のおかげで俺は完治した、お前の憎悪の後は俺から消えた。残念でした!」

 何だその新事実。奏から暴力沙汰になったから謹慎しているとは聞いたけど、その言葉の中にはそこまでの惨劇が含まれていたのか。しかも薫と来たらそれを楽しそうに話すもんだから、本来なら痛々しい傷がポップなイメージになってしまう。ともあれどうやら薫の興味は俺から辰巳に移ったようで、ほっと息をついた。

「もうお前を殴るつもりはない……あの時は悪かった。これからはこのようなことが起こる前からお前を徹底的に監視する」

「ん~反応としてはつまらないけど、お前の蛮勇には興味が出たよ。反吐が出るぐらい気に入った」

「何とでも言え。俺は俺のやり方で仲間を守る」

一貫して俺を守ってくれるような辰巳の態度に感動した。転移前も今までも全然話さなかったクラスメイトのことをここまで考えてくれる、そんな優しい奴がいたなんて。今話したら迷惑だろうか、薫に何か言われないか、声の出し方を思い出した俺は次にそんなことを考えた。

しかし俺のそんな悩み事はすぐに払拭される。俺より数段決断力がある仁がもう話しても問題ないと判断したのか、すぐに声を出した。思ったよりも2人とも普通の反応だったから、俺も何も考えずに普通に話せばよかった。まあ仁だからそうなったのかもだけど。

「……いきなり怒って悪かったな薫。4人でちょっと話すか」

「お、いいね! どうせならキッチンからおやつをとって来たいけど……謹慎中だね」

「おい何故梓の方を見ている」

「あはは……」

弾まない会話をしながら医務室のソファーに座る。俺と仁が隣同士で、机を隔てて薫と辰巳が向き合うように座った。薫が俺と隣がいいと言った瞬間に、謹慎が長引きそうな騒動が起きかけたけど何とか穏便に済んだ。ふかふかのソファーに座ってようやっと一息つく。

「ところで梓はもう身体は大丈夫か?」

「大丈夫、寝たら治ったぜ。まあ腰痛は酷いけどこれは明日にもなれば平気だろうな。それより、今日俺ら掃除するはずだったのに……夢野達怒ってるよな……」

俺の心配は身体ではなく、今日の掃除当番に向いていた。俺も含めてここにいるのはみんなE班だから、他の4人の負担はえげつないはずだ。特にこんな広い船を4人で掃除とか無理だろう。大きな貸しが出来てしまった。

「それに関しては大丈夫だ。反省したのか知らんが、高林や梅雨が手伝いをしてくれているらしい。特に藤屋は全部の班を回っているんだとよ」

そうなのか。……3人ともあとでちゃんと話さないとな。ああ、心配で思い出した。俺は辰巳に言わなくてはならないことがあるんだった。ついさっきまで話したことがなかったなんて思えないぐらいには警戒が解けていた俺は、何も不安になることなく喋る事が出来た。

「そう言えばさ、奏が言ってたぜ。とめたつが心配だってな」

「ん? そうか……何であいつ、俺の事とめたつって言うんだろうな。別に仲良く話してるつもりも、愛想がいいつもりもないのに。まったく、変な奴だよ」

困っているように見えるが、その中にある嬉しいという感情が隠しきれていない。なんだかんだいい友達なのかもな、あの2人。俺はまだとめたつと呼べる度胸ないけど、いつかはそんなふうに呼べるようになってみたい。それが俺のことを仲間だと思ってくれてるこいつへの恩返しになるか、また別の話として。

「あれだよね、びっくりしたよ。頭筋肉の真田が扉を壊すのは予想通りだったけど、まさか後ろにいた辰巳の拳が飛んでくるなんて。そんなに俺が憎かった? それとも梓が好きだった?」

「……どっちも」

「ふーん……俺も好きだから言えたことでもないけど、そいつ脳みそが無い不良に処女取られた挙句、常時媚薬漬けみたいな発情体質だよ」

「てめぇぶっ○してやる」

「俺も手を貸すぜ」

「落ち着きなさいな」

水と油なこの会話はお世辞にも平和とは言えない会話だったが、今までの惨劇に比べたら天国もいいところだ。感覚が麻痺し始めているのではと不安を抱いたが、今はすておこう。……悲しむのも後悔するのも、自分の中だけで十分だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

処理中です...