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こういう事もあるだろう
水と油が誕生した
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仁は絶対に話さないと言わんばかりの力で俺の肩を抱いている。後ろにあるのは俺の恐怖の象徴、そして俺が話さなくてはならないクラスメイトだ。あれ、声ってどうやったら出るんだっけか。話し合おうとか、分かり合えるとかそんな言葉が出てきそうなのに声に出さないこの喉が忌わしい。今もこうやって守ってくれる仁の存在を享受するしかない自分が情けない。
「別に何の用ってほどでもないよ。ただ梓の顔が見たかっただけ」
「黙れ、これ以上梓の名を口にするな」
悪びれるような声色では一切なく、あくまでも俺を見たかっただけというその発言は、ある意味純粋なものだった。浮世離れなんて言葉では表せない、まさしく人間離れしたその考え方は決して褒められた純粋さではないと思う。しかし何より恐ろしかったのは、すぐさま薫の邪魔をした留辰巳の声だった。
氷のように冷たい言葉は、薫に対する憎悪をそのまんまに表していた。これ以上喋ったら食い破るぞと言わんばかりのその音は、流石の薫もたじろぐ……とはならなかった。子供のように無邪気に笑うと、ワクワクしたような声で続けて喋る。仁はただ俺を守るようにその場を掻き乱すことなく静観していた。
「いいねぇ、その声は面白い。俺の腕と鼻の骨を粉砕するだけじゃ足りなかったんだね。しかもその後錦織くん達のおかげで俺は完治した、お前の憎悪の後は俺から消えた。残念でした!」
何だその新事実。奏から暴力沙汰になったから謹慎しているとは聞いたけど、その言葉の中にはそこまでの惨劇が含まれていたのか。しかも薫と来たらそれを楽しそうに話すもんだから、本来なら痛々しい傷がポップなイメージになってしまう。ともあれどうやら薫の興味は俺から辰巳に移ったようで、ほっと息をついた。
「もうお前を殴るつもりはない……あの時は悪かった。これからはこのようなことが起こる前からお前を徹底的に監視する」
「ん~反応としてはつまらないけど、お前の蛮勇には興味が出たよ。反吐が出るぐらい気に入った」
「何とでも言え。俺は俺のやり方で仲間を守る」
一貫して俺を守ってくれるような辰巳の態度に感動した。転移前も今までも全然話さなかったクラスメイトのことをここまで考えてくれる、そんな優しい奴がいたなんて。今話したら迷惑だろうか、薫に何か言われないか、声の出し方を思い出した俺は次にそんなことを考えた。
しかし俺のそんな悩み事はすぐに払拭される。俺より数段決断力がある仁がもう話しても問題ないと判断したのか、すぐに声を出した。思ったよりも2人とも普通の反応だったから、俺も何も考えずに普通に話せばよかった。まあ仁だからそうなったのかもだけど。
「……いきなり怒って悪かったな薫。4人でちょっと話すか」
「お、いいね! どうせならキッチンからおやつをとって来たいけど……謹慎中だね」
「おい何故梓の方を見ている」
「あはは……」
弾まない会話をしながら医務室のソファーに座る。俺と仁が隣同士で、机を隔てて薫と辰巳が向き合うように座った。薫が俺と隣がいいと言った瞬間に、謹慎が長引きそうな騒動が起きかけたけど何とか穏便に済んだ。ふかふかのソファーに座ってようやっと一息つく。
「ところで梓はもう身体は大丈夫か?」
「大丈夫、寝たら治ったぜ。まあ腰痛は酷いけどこれは明日にもなれば平気だろうな。それより、今日俺ら掃除するはずだったのに……夢野達怒ってるよな……」
俺の心配は身体ではなく、今日の掃除当番に向いていた。俺も含めてここにいるのはみんなE班だから、他の4人の負担はえげつないはずだ。特にこんな広い船を4人で掃除とか無理だろう。大きな貸しが出来てしまった。
「それに関しては大丈夫だ。反省したのか知らんが、高林や梅雨が手伝いをしてくれているらしい。特に藤屋は全部の班を回っているんだとよ」
そうなのか。……3人ともあとでちゃんと話さないとな。ああ、心配で思い出した。俺は辰巳に言わなくてはならないことがあるんだった。ついさっきまで話したことがなかったなんて思えないぐらいには警戒が解けていた俺は、何も不安になることなく喋る事が出来た。
「そう言えばさ、奏が言ってたぜ。とめたつが心配だってな」
「ん? そうか……何であいつ、俺の事とめたつって言うんだろうな。別に仲良く話してるつもりも、愛想がいいつもりもないのに。まったく、変な奴だよ」
困っているように見えるが、その中にある嬉しいという感情が隠しきれていない。なんだかんだいい友達なのかもな、あの2人。俺はまだとめたつと呼べる度胸ないけど、いつかはそんなふうに呼べるようになってみたい。それが俺のことを仲間だと思ってくれてるこいつへの恩返しになるか、また別の話として。
「あれだよね、びっくりしたよ。頭筋肉の真田が扉を壊すのは予想通りだったけど、まさか後ろにいた辰巳の拳が飛んでくるなんて。そんなに俺が憎かった? それとも梓が好きだった?」
「……どっちも」
「ふーん……俺も好きだから言えたことでもないけど、そいつ脳みそが無い不良に処女取られた挙句、常時媚薬漬けみたいな発情体質だよ」
「てめぇぶっ○してやる」
「俺も手を貸すぜ」
「落ち着きなさいな」
水と油なこの会話はお世辞にも平和とは言えない会話だったが、今までの惨劇に比べたら天国もいいところだ。感覚が麻痺し始めているのではと不安を抱いたが、今はすておこう。……悲しむのも後悔するのも、自分の中だけで十分だ。
「別に何の用ってほどでもないよ。ただ梓の顔が見たかっただけ」
「黙れ、これ以上梓の名を口にするな」
悪びれるような声色では一切なく、あくまでも俺を見たかっただけというその発言は、ある意味純粋なものだった。浮世離れなんて言葉では表せない、まさしく人間離れしたその考え方は決して褒められた純粋さではないと思う。しかし何より恐ろしかったのは、すぐさま薫の邪魔をした留辰巳の声だった。
氷のように冷たい言葉は、薫に対する憎悪をそのまんまに表していた。これ以上喋ったら食い破るぞと言わんばかりのその音は、流石の薫もたじろぐ……とはならなかった。子供のように無邪気に笑うと、ワクワクしたような声で続けて喋る。仁はただ俺を守るようにその場を掻き乱すことなく静観していた。
「いいねぇ、その声は面白い。俺の腕と鼻の骨を粉砕するだけじゃ足りなかったんだね。しかもその後錦織くん達のおかげで俺は完治した、お前の憎悪の後は俺から消えた。残念でした!」
何だその新事実。奏から暴力沙汰になったから謹慎しているとは聞いたけど、その言葉の中にはそこまでの惨劇が含まれていたのか。しかも薫と来たらそれを楽しそうに話すもんだから、本来なら痛々しい傷がポップなイメージになってしまう。ともあれどうやら薫の興味は俺から辰巳に移ったようで、ほっと息をついた。
「もうお前を殴るつもりはない……あの時は悪かった。これからはこのようなことが起こる前からお前を徹底的に監視する」
「ん~反応としてはつまらないけど、お前の蛮勇には興味が出たよ。反吐が出るぐらい気に入った」
「何とでも言え。俺は俺のやり方で仲間を守る」
一貫して俺を守ってくれるような辰巳の態度に感動した。転移前も今までも全然話さなかったクラスメイトのことをここまで考えてくれる、そんな優しい奴がいたなんて。今話したら迷惑だろうか、薫に何か言われないか、声の出し方を思い出した俺は次にそんなことを考えた。
しかし俺のそんな悩み事はすぐに払拭される。俺より数段決断力がある仁がもう話しても問題ないと判断したのか、すぐに声を出した。思ったよりも2人とも普通の反応だったから、俺も何も考えずに普通に話せばよかった。まあ仁だからそうなったのかもだけど。
「……いきなり怒って悪かったな薫。4人でちょっと話すか」
「お、いいね! どうせならキッチンからおやつをとって来たいけど……謹慎中だね」
「おい何故梓の方を見ている」
「あはは……」
弾まない会話をしながら医務室のソファーに座る。俺と仁が隣同士で、机を隔てて薫と辰巳が向き合うように座った。薫が俺と隣がいいと言った瞬間に、謹慎が長引きそうな騒動が起きかけたけど何とか穏便に済んだ。ふかふかのソファーに座ってようやっと一息つく。
「ところで梓はもう身体は大丈夫か?」
「大丈夫、寝たら治ったぜ。まあ腰痛は酷いけどこれは明日にもなれば平気だろうな。それより、今日俺ら掃除するはずだったのに……夢野達怒ってるよな……」
俺の心配は身体ではなく、今日の掃除当番に向いていた。俺も含めてここにいるのはみんなE班だから、他の4人の負担はえげつないはずだ。特にこんな広い船を4人で掃除とか無理だろう。大きな貸しが出来てしまった。
「それに関しては大丈夫だ。反省したのか知らんが、高林や梅雨が手伝いをしてくれているらしい。特に藤屋は全部の班を回っているんだとよ」
そうなのか。……3人ともあとでちゃんと話さないとな。ああ、心配で思い出した。俺は辰巳に言わなくてはならないことがあるんだった。ついさっきまで話したことがなかったなんて思えないぐらいには警戒が解けていた俺は、何も不安になることなく喋る事が出来た。
「そう言えばさ、奏が言ってたぜ。とめたつが心配だってな」
「ん? そうか……何であいつ、俺の事とめたつって言うんだろうな。別に仲良く話してるつもりも、愛想がいいつもりもないのに。まったく、変な奴だよ」
困っているように見えるが、その中にある嬉しいという感情が隠しきれていない。なんだかんだいい友達なのかもな、あの2人。俺はまだとめたつと呼べる度胸ないけど、いつかはそんなふうに呼べるようになってみたい。それが俺のことを仲間だと思ってくれてるこいつへの恩返しになるか、また別の話として。
「あれだよね、びっくりしたよ。頭筋肉の真田が扉を壊すのは予想通りだったけど、まさか後ろにいた辰巳の拳が飛んでくるなんて。そんなに俺が憎かった? それとも梓が好きだった?」
「……どっちも」
「ふーん……俺も好きだから言えたことでもないけど、そいつ脳みそが無い不良に処女取られた挙句、常時媚薬漬けみたいな発情体質だよ」
「てめぇぶっ○してやる」
「俺も手を貸すぜ」
「落ち着きなさいな」
水と油なこの会話はお世辞にも平和とは言えない会話だったが、今までの惨劇に比べたら天国もいいところだ。感覚が麻痺し始めているのではと不安を抱いたが、今はすておこう。……悲しむのも後悔するのも、自分の中だけで十分だ。
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