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こういう事もあるだろう

恐怖の責任、情も混ぜて

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実に実に深い睡眠をとった気がする。実際はものの数十分かもしれないし、ひょっとしたら何十時間も眠っていたのかも知れない。しかし、俺の中では現実の時間など関係なく、非常に濃い睡眠だった。



「……ん?」

目が覚めると、重い重い瞼を開けると、今までの混沌から解放された静かな俺の部屋だった。服はあいも変わらずメイド服だったが、よく洗濯されたいい匂いがした。しばらく半信半疑だった俺も、その光景を見ると、ようやく地獄が終わったんだなと安心して元々入れていない力を更に抜いた。

「……仁は?」

……仁は、仁はどこだろう。あの時人を見ながら気を失ったのを思い出した。あの後どうなったのかは知らないが、こうして腰痛以外は何ともない自分を見ると、仁は勝ったのだろう。4人相手に。探しに行かないと。俺はまだお礼を言っていないんだ、ふじやんも無事かな……もし仁が怒りで我を忘れて、話もせずに殴っていたら……頰を嫌な汗がつたう。こりゃ寝てられんと身体に鞭打って体を起こして、勢いそのままに廊下を出た。

「ん? あ、おい梓!」

背後からすぐさま声をかけられた。誰だろう、仁ではない。この声は……奏だ。振り返るとやはりと言っていいのか浅野奏、嬉しそうにこちらに近づいてきた。同じ陽キャであるはずなのに薫と天と地ほどの差がある、これは一体どういうことなのだ。

「目が覚めてよかったー……真田や羽原探してんだろ? あいつらは今日いっぱい医務室で謹慎中だ」

「き、謹慎!?」

「ああ、昨日も含めたら二日間の謹慎だ。梓は知らんかもだが、もう丸一日経ってるんだぜ?」

待て待て。情報量が多過ぎる、丸一日寝てたのも驚きだが、それ以前に謹慎とは一体。いや薫はまあ謹慎しても文句言えないぐらいの所業だとは思う。でもまさか仁まで謹慎中だとは思わなんだ。まさかとは思うがひょっとして、サイコパスvs族を潰した不良でやりあったって事なのか……!

そんな頭で描いていた世にも恐ろしい2年B組版マッドマックスが脳内で完成してしまう。そんな俺の心境を察してくれたのか、はたまたただ言い忘れていただけか、話を繋げた。

「あのさ、俺はあんまその時の事は知らないっていうか教えてくれなかったんだけど……もあの時一緒にいたんか?」

「とめたつ……ああ、辰巳の事か。どうかしたのか?」

「それがさ藤屋と高林とあとは、そうそう梅雨は1日の謹慎で済んだらしいけど、なんかとめたつは暴力沙汰になっちまったみたいでな」

「それは……知らない」

話を詳しく聞けば、現在謹慎中なのは事の元凶と言ってもいい薫と、扉を壊したりなどなどの器物破損をした仁、そしてとめたつこと留辰巳の3人らしい。残りのふじやんたちは昨日で半日謹慎を終えて、今は船で掃除だな料理だのをしているようだ。ここに来て急に現れた第三者辰巳に混乱を隠しきれない。

留辰巳。みんな、主に陽キャからはとめたつと呼ばれる。そんなあだ名で呼ばれるぐらい本人はパリピだったりすることはないのだがあだ名がある。実はこいつは二年生の頭に引っ越してきて、俺も話す機会がなくてよく知らない。だが文武両道で冷静沈着、一時期の喜助とまでは行かないけど高校生だとは思えない。はっきり言ってあの辰巳が他のクラスメイトみたいに俺にゾッコンと言うのは信じられない話だったりする。

「この異世界に来てからいつもよりも全力で気配消してたからさ、なんか一気に問題児みたいになって心配してんだ。梓今から会いに行くんだろ、心配してやってくれないか?」

「ああ、わかった。ありがとうな奏、行ってくる」

友達想いな奏に心の中で称賛を贈りつつ、医務室へと向かった。勿論仁と一緒に羽原薫《恐怖の対象》もいるなんてことは分かっていた。だがそんな事よりも先に思ってしまう。俺は仁に感謝をして、辰巳とも仲良くなって……薫と話をするべきだ。どんな形で会話が閉じようと、どんな返答や質問をされようとも、腹を割って話すべきだ。これは薫に対する情なのか、それともある種の罪悪感からなのか、それは知らないし興味もない事。



しかしいざ医務室の前に立つと緊張してしまい、扉に手をかけては話すという動作を繰り返している始末だ。これはあれだな、一気に開けてしまった方が後先楽なやつだ。深呼吸して、さあさあさあと意味のない10秒ぐらいの溜めを作ってようやく扉を開けるに至った。

「し、失礼します!」

「……梓?」

医務室なのに大声を出してしまったと一瞬の反省を超えて最初に目に入ったのは、俺が喉から手が出る感覚を味わったほど会いたかった仁だ。族を潰した過去を背負い今は異世界を救う勇者だってのに雑巾縫ってる。謹慎中雑巾縫いとか発想が昭和、令和でやられると結構キツい。

でも仁は俺を見た瞬間雑巾をほったらかしにして、すぐさま俺の元に駆け寄ってくれた。やっぱり仁は俺の初恋の人なんだな、そう思いながら無我夢中で抱きめると、嬉しい事この上ないと言った表情で抱きしめ返してくれた。

「ごめんな、梓を守れなかった……俺のこと嫌いになっただろ?」

「まさか、そんなわけねえよ。愛してる」

そっとキスをした、こうやっているとお互いの心臓の音がわかる。嬉しいのか不安だったのか、バクバクと忙しなくなる仁の音が愛おしい。

「あれれ、何でレイプされたばっかの子猫ちゃんがこんな所にいるんだ?」

「おい薫、いい加減にしろ」

声を聞いて戦慄した。震える身体を仁に委ねれば、優しく守るように背中をポンポンと叩いてくれる。話さないと、俺はこいつらときちんと話さないといけない責任がある。だが俺の願いは虚しく、会話は仁が仕切り始める。

「……おい、何の用だ?」
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