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第三十四話 気をつけるのよ?
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メリルージュは罰としてガルドランに食事をおごらせる。テーブルに座るのは彼女とマリア、ガルドランにアーシェリヲン。
「あら? アーシェくん。あ、……まぁいいわ。いつも弟のアーシェリヲンがお世話になっています」
注文を伺いにきたのは、レイラリースだった。彼女は綺麗な所作で会釈をする。メリルージュたちは笑顔で応える。
「ご注文はどういたしますか?」
「お姉ちゃん、僕ね、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』」
ガルドランたちはレイラリースと話すアーシェリヲンの口調から、二人が姉弟だと理解できただろう。
「お昼も食べなかったかしら?」
「うん。でも美味しいからいくらでも食べられるんだよ」
アーシェリヲンが注文したものを三人分。メリルージュだけは『ちーずそーすくりーむぱすた』を注文した。彼女だけは肉を食べられるのだが、好んで食べることは少ないとのこと。
食事を終え、しばしの談笑。
「そうですね。僕も早く青銅の序列にならないと」
「アーシェリヲン君ならすぐになれるわよ。パパもそう言ってたもの」
「だったらいいんですけどね」
▼
あのあと食事を終えたアーシェリヲンたちは、『れすとらん』の前で解散。そのまま裏手に回って部屋へ帰ってくる。
「これ、メリルージュさんが作ったんだってね。びっくりしたなー」
腰鞄から取り出した愛用している薬草の本。駆け出しのアーシェリヲンみたいな探索者でもわかりやすいように、葉の特徴から自生している場所などが図解入りで解説してある。
まさかこの本を書いた人と逢えるとは思っていなかった。それも、エルフという種族で百九十八歳という驚きも一緒だった。とてもその年齢には見えない綺麗な優しい女性で、その上金の序列だという。
「メリルージュさんの金の序列も驚いたけど。ガルドランさんも銀の序列。それも二十四歳でしょ? 頑張れば僕だって十四年で銀の序列になれるってことなんだ。やりがいあるなー」
ややあってドアがノックされる。
「はーい、あ、レイラお姉ちゃん。お疲れ様ー」
「ありがとう。アーシェくんも頑張ってるみたいね」
「うんっ」
アーシェリヲンが何を読んでいるか見るとわかるだろう。彼がどれだけ勤勉な少年かどうか。
「アーシェくん」
「はい?」
「あの、マリナという女には気をつけるのよ?」
「え? なんで?」
「どうしても。アーシェくんのお姉ちゃんはね、アーシェくんのほんとうのお姉さんと、わたしだけで十分なんだから」
「……よくわからないけど、わかりました」
「うん。いい子ね。そうそう」
「はい?」
「あの狼さんとエルフの女の人」
「あ、ガルドランさんとメリルージュさん。銀の序列と金の序列の探索者さんなんだって」
「金? それってこの国でもトップクラスじゃないの?」
「そうなの? そうならすごいよね」
「えぇ。わたしも聞いた限りでしかないんだけどね。あ、それとね」
「はい?」
「『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』。よく飽きないわね」
「美味しいもん。毎日食べられるように頑張るつもり」
「わたしと一緒にごはんを食べてくれないの?」
「そうじゃなくてー」
レイラリースは目元に手をやり、泣いたフリ。アーシェリヲンもそれはわかっているけれど、そうさせている理由が自分にあることにも気づいている。
「うん。朝ごはんと晩ごはんはなるべく一緒に食べられるように努力するね」
レイラリースは椅子に座っているアーシェリヲンを後ろから抱きしめた。
「ありがとう。大好きよ、アーシェくん」
「うん。僕もレイラお姉ちゃん大好きだよ」
ちょっとだけ、グランダーグに残してきた姉テレジアを思い出してしまった。
「お姉ちゃん、……元気にしてるかな」
「アーシェくん……。あ、そうよ。手紙書いてるでしょう?」
「うん。これ」
机から取り出した、数枚の手紙。
「わたしから届けてもらうように、お願いしておくわ」
「うん、ありがとう。レイラお姉ちゃん」
「いいえ、どういたしまして。可愛い弟のためですからね」
血は繋がっていなくとも、いつも気にかけてくれている。ちょっとだけホームシックにかかっているアーシェリヲンを、優しくしてくれる。
「あのさ、レイラお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「レイラお姉ちゃんはさ、ヴェルミナさんにお願いされて、僕のお姉ちゃん代わりになりにこっちへ来たんでしょ?」
「あー、うん。そうともいえるけどね、ちょっとだけ違うわよ」
「え?」
「元々このヴェンダドールに配属が決まってて、ヴェルミナ司祭長さんから提案があったの」
「そうなの?」
「わたしね、アーシェくんをこっそり見てね、二つ返事で決めちゃったの」
「そうなの?」
「だってこんなに可愛いんだもの」
「ありがと」
「わたしね、弟がいたらしいの」
「え?」
「あーんっとね、ほんとうの、じゃなくて。従姉弟にあたる子なの」
「そうなんだ」
「そうよ。遠くに住んでるって聞いてたことがあっただけ。だから弟がいたら、こんな感じなのかな? って、毎日楽しいの」
「そういってくれると、僕も嬉しいかな」
「ありがとう、アーシェくん」
「はいっ」
▼
朝目を覚ますと窓ガラスが曇っている。この建物は『魔石でんち』で駆動する『魔力えんじん』で様々なものが動いているのか、室内は暖かい状態が保たれている。そのため、外の気温が下がっているのかガラスが曇っていたのである。
換気をしようと思ったアーシェリヲンは窓を開けた。するととても冷たい風が入ってくるから、すぐに閉めた。失敗したと思っただろう。
廊下に出て、お風呂場の手前にある脱衣所のそれまた手前。そこには男女共有洗面所がある。
薄い金属製のチューブに入った『はみがきこ』。横にはユカリコ教のマークが入っている。それを『はぶらし』につけて歯を磨く。塩も入っているようだが、すーすーする油も入っているようで、結果的に口の中がさっぱりする。
顔も洗って一度部屋に戻って、『はぶらし』などを置いてから食堂へ向かう。
「アーシェくん、おはよう」
「あ、お姉ちゃんおはよう」
レイラがお茶を飲みながら待っていてくれたようだ。一緒に並んで朝ごはんをトレイに載せてテーブルにつく。
「いただきます」
「はい。いただきます」
『れすとらん』と同じ料理人がつくっているからか、食堂の料理も半端なく美味である。
「美味しいね」
「そうね、アーシェくん」
義理の状態とはいえ、姉弟揃っての朝ごはん。昨日の今日だったが、レイラリースは嬉しく思っていただろう。
「あら? アーシェくん。あ、……まぁいいわ。いつも弟のアーシェリヲンがお世話になっています」
注文を伺いにきたのは、レイラリースだった。彼女は綺麗な所作で会釈をする。メリルージュたちは笑顔で応える。
「ご注文はどういたしますか?」
「お姉ちゃん、僕ね、『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』」
ガルドランたちはレイラリースと話すアーシェリヲンの口調から、二人が姉弟だと理解できただろう。
「お昼も食べなかったかしら?」
「うん。でも美味しいからいくらでも食べられるんだよ」
アーシェリヲンが注文したものを三人分。メリルージュだけは『ちーずそーすくりーむぱすた』を注文した。彼女だけは肉を食べられるのだが、好んで食べることは少ないとのこと。
食事を終え、しばしの談笑。
「そうですね。僕も早く青銅の序列にならないと」
「アーシェリヲン君ならすぐになれるわよ。パパもそう言ってたもの」
「だったらいいんですけどね」
▼
あのあと食事を終えたアーシェリヲンたちは、『れすとらん』の前で解散。そのまま裏手に回って部屋へ帰ってくる。
「これ、メリルージュさんが作ったんだってね。びっくりしたなー」
腰鞄から取り出した愛用している薬草の本。駆け出しのアーシェリヲンみたいな探索者でもわかりやすいように、葉の特徴から自生している場所などが図解入りで解説してある。
まさかこの本を書いた人と逢えるとは思っていなかった。それも、エルフという種族で百九十八歳という驚きも一緒だった。とてもその年齢には見えない綺麗な優しい女性で、その上金の序列だという。
「メリルージュさんの金の序列も驚いたけど。ガルドランさんも銀の序列。それも二十四歳でしょ? 頑張れば僕だって十四年で銀の序列になれるってことなんだ。やりがいあるなー」
ややあってドアがノックされる。
「はーい、あ、レイラお姉ちゃん。お疲れ様ー」
「ありがとう。アーシェくんも頑張ってるみたいね」
「うんっ」
アーシェリヲンが何を読んでいるか見るとわかるだろう。彼がどれだけ勤勉な少年かどうか。
「アーシェくん」
「はい?」
「あの、マリナという女には気をつけるのよ?」
「え? なんで?」
「どうしても。アーシェくんのお姉ちゃんはね、アーシェくんのほんとうのお姉さんと、わたしだけで十分なんだから」
「……よくわからないけど、わかりました」
「うん。いい子ね。そうそう」
「はい?」
「あの狼さんとエルフの女の人」
「あ、ガルドランさんとメリルージュさん。銀の序列と金の序列の探索者さんなんだって」
「金? それってこの国でもトップクラスじゃないの?」
「そうなの? そうならすごいよね」
「えぇ。わたしも聞いた限りでしかないんだけどね。あ、それとね」
「はい?」
「『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』。よく飽きないわね」
「美味しいもん。毎日食べられるように頑張るつもり」
「わたしと一緒にごはんを食べてくれないの?」
「そうじゃなくてー」
レイラリースは目元に手をやり、泣いたフリ。アーシェリヲンもそれはわかっているけれど、そうさせている理由が自分にあることにも気づいている。
「うん。朝ごはんと晩ごはんはなるべく一緒に食べられるように努力するね」
レイラリースは椅子に座っているアーシェリヲンを後ろから抱きしめた。
「ありがとう。大好きよ、アーシェくん」
「うん。僕もレイラお姉ちゃん大好きだよ」
ちょっとだけ、グランダーグに残してきた姉テレジアを思い出してしまった。
「お姉ちゃん、……元気にしてるかな」
「アーシェくん……。あ、そうよ。手紙書いてるでしょう?」
「うん。これ」
机から取り出した、数枚の手紙。
「わたしから届けてもらうように、お願いしておくわ」
「うん、ありがとう。レイラお姉ちゃん」
「いいえ、どういたしまして。可愛い弟のためですからね」
血は繋がっていなくとも、いつも気にかけてくれている。ちょっとだけホームシックにかかっているアーシェリヲンを、優しくしてくれる。
「あのさ、レイラお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「レイラお姉ちゃんはさ、ヴェルミナさんにお願いされて、僕のお姉ちゃん代わりになりにこっちへ来たんでしょ?」
「あー、うん。そうともいえるけどね、ちょっとだけ違うわよ」
「え?」
「元々このヴェンダドールに配属が決まってて、ヴェルミナ司祭長さんから提案があったの」
「そうなの?」
「わたしね、アーシェくんをこっそり見てね、二つ返事で決めちゃったの」
「そうなの?」
「だってこんなに可愛いんだもの」
「ありがと」
「わたしね、弟がいたらしいの」
「え?」
「あーんっとね、ほんとうの、じゃなくて。従姉弟にあたる子なの」
「そうなんだ」
「そうよ。遠くに住んでるって聞いてたことがあっただけ。だから弟がいたら、こんな感じなのかな? って、毎日楽しいの」
「そういってくれると、僕も嬉しいかな」
「ありがとう、アーシェくん」
「はいっ」
▼
朝目を覚ますと窓ガラスが曇っている。この建物は『魔石でんち』で駆動する『魔力えんじん』で様々なものが動いているのか、室内は暖かい状態が保たれている。そのため、外の気温が下がっているのかガラスが曇っていたのである。
換気をしようと思ったアーシェリヲンは窓を開けた。するととても冷たい風が入ってくるから、すぐに閉めた。失敗したと思っただろう。
廊下に出て、お風呂場の手前にある脱衣所のそれまた手前。そこには男女共有洗面所がある。
薄い金属製のチューブに入った『はみがきこ』。横にはユカリコ教のマークが入っている。それを『はぶらし』につけて歯を磨く。塩も入っているようだが、すーすーする油も入っているようで、結果的に口の中がさっぱりする。
顔も洗って一度部屋に戻って、『はぶらし』などを置いてから食堂へ向かう。
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「あ、お姉ちゃんおはよう」
レイラがお茶を飲みながら待っていてくれたようだ。一緒に並んで朝ごはんをトレイに載せてテーブルにつく。
「いただきます」
「はい。いただきます」
『れすとらん』と同じ料理人がつくっているからか、食堂の料理も半端なく美味である。
「美味しいね」
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