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第十八話 提案と約束。
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時間は夕食になる少し前。そろそろ陽が落ちようとしている。アーシェリヲンは部屋でエリシアと一緒だった。
「貴族の格好は今日まで。この服、着てみたかったんだよね」
アーシェリヲンは、エリシアが家人に言って買ってこさせた、探索者の子供が着るような服へを見ている。
「はい。腕を伸ばすの」
「お母さん、着替えくらい自分でできるから」
「いいでしょう? これくらい。もう、しばらくの間会えないんんですからね」
「うん……」
着替えが終わり、エリシアは小さな鞄を持たせる。そこには、しばらくの間困らないくらいのお金が入っている。
洗礼を受けたあの日のように、テレジアとフィールズは家人たちと一緒にお見送り。夕方までに納得したのだろうか? それとも強がっているのか? それはアーシェリヲンにはわからない。それでも二人は笑顔を見せてくれている。
これからフィリップとエリシアに付き添われてまた、王都にあるユカリコ教の神殿へ向かうことになった。馬車に乗る前、アーシェリヲンは振り向いて手を振る。
「いってきます」
笑顔でそう言うと、振り返らずに馬車に乗る。ゆっくりと御者に座る家人は馬車を走らせる。屋敷の敷地を抜け、ウィンヘイム伯爵領を抜けると海しか見えない街道へ出る。
フィリップはアーシェリヲンの顔を見て苦笑する。エリシアはそんな彼を窘める。
アーシェリヲンに向けて、両手を広げるエリシア。彼女の胸に飛び込んで、彼は声を押し殺して泣き始めた。
ひとしきり泣いたあと、アーシェリヲンの目元は腫れ、喉もガラガラになってしまった。だがそこはエリシアが治癒魔法使いだから、慌てずゆっくりと直してくれた。王都まではまだ時間があったから、慌てる必要もない。
「お母さん、お父さん」
「何かしら?」
「どうしたんだ?」
「そんなに辛そうな顔をしないでよ。元々僕はさ、初等学舎に入れば寮住まいだったんでしょう?」
初等学舎は二年の間、生徒の自立を促すために基本は寮住まいである。週末のみ家に帰ることを許されるから、完全に親元から離れるというわけではない。
「そうね」
「そうだな」
「二年の間にさ、僕できるだけ頑張って、こっそり手紙を送る方法も探してみるよ」
「そうね。アーシェならできるかもしれないわ」
「でしょ?」
「あぁ。お前ならきっとできるさ」
まもなく王都に着くと御者から伝えられた。エリシアはこれからアーシェリヲンに起きることを説明してあげる。
「あのねアーシェ」
「はい」
「あなたはこれから、ユカリコ教のお世話になるのよ」
「え?」
「お母さんはね、これでもずっと『れすとらん』で働いていたの。可愛い制服の『うぇいとれす』をしていたの。そのときにね、お父さんとも出会ったわ。働いている間にね、沢山知り合いができたのよ。それで朝からね、アーシェのことを相談しにいってきたの」
「だからいなかったんだ」
「そうよ。アーシェがね探索者になりたいって。そう希望してることも伝えてあるわ」
「本当?」
「えぇ。あとはアーシェ。あなた次第なの。できるわね?」
「うん、ありがとう。お母さん」
▼
王都へ到着し、そのままユカリコ教の神殿へ入る。そこで待っていたのは司祭長のヴェルミナだった。アーシェリヲンが彼女と合うのはこれで二度目。実は彼女もアーシェリヲンのことをとても心配してくれていたそうだ。
「――でしたらアーシェリヲン様、いえ、アーシェリヲン君」
「はい」
「あなたはここ、ユカリコ教の神殿で育ったということにいたします。わたくしたちの関係者だと知られていたなら、変な横やりも入ってこないでしょう」
ヴェルミナはエリシアに一つ頷いてみせる。実は、エリシアの知り合いというのはヴェルミナのこと。アーシェリヲンが五歳のときに熱を出し、相談したのも彼女だった。
一時期、王都で流行病があった。ユカリコ教の治癒魔法使いだけでは手が足りず、エリシアも手伝いに来たことがあった。彼女はアーシェリヲンを助けてくれた恩を返せると、喜んで参加したのである。
そのような色々な縁もあり、こうして今回、アーシェリヲンの身に起きた事件を回避するべく、相談に乗ってくれたというわけだったのだ。
「はいっ」
「この程度のことであれば、わたくしたちは喜んで協力させていただきます。それでですね」
「はいっ」
「我々グランダーグの友好国に、ヴェンダドールという国があります」
「知ってます。確か、王様が高位の探索者だった国だったと思います」
「そうです。それ故にですね、探索者にも優しい国で、アーシェリヲン君のような年の少年少女も働いているという報告を受けているのです」
「報告、ですか?」
「えぇ。ヴェンダドール王国にある神殿の司祭長は、わたくしの妹が就いているのですよ」
「そうなんですか」
「ただですね、……ここからかなり遠くて」
「はい。船で数日離れた場所にある国です……、あ」
アーシェリヲンはエリシアを見た。彼女は頷いて少し寂しそうな表情を見せる。
「そうですね。お母様、お父様と文字通り、離ればなれになってしまいます。それでもいいのですか?」
フィリップを見ると、笑顔で頷いていた。きっと彼も、無理に表情を作っているのだろう。その証拠に、痛いまでにも拳を握っていたのだから。
「……はい。僕、頑張りたいと思います」
「そうですか。船の便になるでしょうけれど、定期的に妹からアーシェリヲン君の様子を書面で知らせるように言っておきましょう」
それを聞いたエリシアは、フィリップの手を握って喜ぶ。息子の元気な知らせを受け取れるのは、彼女らにとっても励みになるというものだ。
「はい、ありがとうございます」
エリシアはヴェルミナにお礼を言う。
「アーシェ」
エリシアは両腕を広げてアーシェリヲンを呼んだ。彼はヴェルミナを見る、すると頷いてくれたから、エリシアの胸に飛び込む。
アーシェリヲンはまだ十歳になったばかりだ。エリシアは母親として傍にいられないのは辛いことだろう。今生の別れではないとはいえ、アーシェリヲンは隣の大陸へ行くことになったのだ。
エリシアはアーシェリヲンをぎゅっと抱きしめたまま、なかなか離そうとしない。
「お母さん」
「……何、かしら?」
「お父さんと、お姉ちゃん、フィールズをお願いね」
「私はあたなの心配をしてるのよっ」
自分のことを棚に上げて、家族の心配をするアーシェリヲンに対して、エリシアは珍しく怒っていた。
「貴族の格好は今日まで。この服、着てみたかったんだよね」
アーシェリヲンは、エリシアが家人に言って買ってこさせた、探索者の子供が着るような服へを見ている。
「はい。腕を伸ばすの」
「お母さん、着替えくらい自分でできるから」
「いいでしょう? これくらい。もう、しばらくの間会えないんんですからね」
「うん……」
着替えが終わり、エリシアは小さな鞄を持たせる。そこには、しばらくの間困らないくらいのお金が入っている。
洗礼を受けたあの日のように、テレジアとフィールズは家人たちと一緒にお見送り。夕方までに納得したのだろうか? それとも強がっているのか? それはアーシェリヲンにはわからない。それでも二人は笑顔を見せてくれている。
これからフィリップとエリシアに付き添われてまた、王都にあるユカリコ教の神殿へ向かうことになった。馬車に乗る前、アーシェリヲンは振り向いて手を振る。
「いってきます」
笑顔でそう言うと、振り返らずに馬車に乗る。ゆっくりと御者に座る家人は馬車を走らせる。屋敷の敷地を抜け、ウィンヘイム伯爵領を抜けると海しか見えない街道へ出る。
フィリップはアーシェリヲンの顔を見て苦笑する。エリシアはそんな彼を窘める。
アーシェリヲンに向けて、両手を広げるエリシア。彼女の胸に飛び込んで、彼は声を押し殺して泣き始めた。
ひとしきり泣いたあと、アーシェリヲンの目元は腫れ、喉もガラガラになってしまった。だがそこはエリシアが治癒魔法使いだから、慌てずゆっくりと直してくれた。王都まではまだ時間があったから、慌てる必要もない。
「お母さん、お父さん」
「何かしら?」
「どうしたんだ?」
「そんなに辛そうな顔をしないでよ。元々僕はさ、初等学舎に入れば寮住まいだったんでしょう?」
初等学舎は二年の間、生徒の自立を促すために基本は寮住まいである。週末のみ家に帰ることを許されるから、完全に親元から離れるというわけではない。
「そうね」
「そうだな」
「二年の間にさ、僕できるだけ頑張って、こっそり手紙を送る方法も探してみるよ」
「そうね。アーシェならできるかもしれないわ」
「でしょ?」
「あぁ。お前ならきっとできるさ」
まもなく王都に着くと御者から伝えられた。エリシアはこれからアーシェリヲンに起きることを説明してあげる。
「あのねアーシェ」
「はい」
「あなたはこれから、ユカリコ教のお世話になるのよ」
「え?」
「お母さんはね、これでもずっと『れすとらん』で働いていたの。可愛い制服の『うぇいとれす』をしていたの。そのときにね、お父さんとも出会ったわ。働いている間にね、沢山知り合いができたのよ。それで朝からね、アーシェのことを相談しにいってきたの」
「だからいなかったんだ」
「そうよ。アーシェがね探索者になりたいって。そう希望してることも伝えてあるわ」
「本当?」
「えぇ。あとはアーシェ。あなた次第なの。できるわね?」
「うん、ありがとう。お母さん」
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王都へ到着し、そのままユカリコ教の神殿へ入る。そこで待っていたのは司祭長のヴェルミナだった。アーシェリヲンが彼女と合うのはこれで二度目。実は彼女もアーシェリヲンのことをとても心配してくれていたそうだ。
「――でしたらアーシェリヲン様、いえ、アーシェリヲン君」
「はい」
「あなたはここ、ユカリコ教の神殿で育ったということにいたします。わたくしたちの関係者だと知られていたなら、変な横やりも入ってこないでしょう」
ヴェルミナはエリシアに一つ頷いてみせる。実は、エリシアの知り合いというのはヴェルミナのこと。アーシェリヲンが五歳のときに熱を出し、相談したのも彼女だった。
一時期、王都で流行病があった。ユカリコ教の治癒魔法使いだけでは手が足りず、エリシアも手伝いに来たことがあった。彼女はアーシェリヲンを助けてくれた恩を返せると、喜んで参加したのである。
そのような色々な縁もあり、こうして今回、アーシェリヲンの身に起きた事件を回避するべく、相談に乗ってくれたというわけだったのだ。
「はいっ」
「この程度のことであれば、わたくしたちは喜んで協力させていただきます。それでですね」
「はいっ」
「我々グランダーグの友好国に、ヴェンダドールという国があります」
「知ってます。確か、王様が高位の探索者だった国だったと思います」
「そうです。それ故にですね、探索者にも優しい国で、アーシェリヲン君のような年の少年少女も働いているという報告を受けているのです」
「報告、ですか?」
「えぇ。ヴェンダドール王国にある神殿の司祭長は、わたくしの妹が就いているのですよ」
「そうなんですか」
「ただですね、……ここからかなり遠くて」
「はい。船で数日離れた場所にある国です……、あ」
アーシェリヲンはエリシアを見た。彼女は頷いて少し寂しそうな表情を見せる。
「そうですね。お母様、お父様と文字通り、離ればなれになってしまいます。それでもいいのですか?」
フィリップを見ると、笑顔で頷いていた。きっと彼も、無理に表情を作っているのだろう。その証拠に、痛いまでにも拳を握っていたのだから。
「……はい。僕、頑張りたいと思います」
「そうですか。船の便になるでしょうけれど、定期的に妹からアーシェリヲン君の様子を書面で知らせるように言っておきましょう」
それを聞いたエリシアは、フィリップの手を握って喜ぶ。息子の元気な知らせを受け取れるのは、彼女らにとっても励みになるというものだ。
「はい、ありがとうございます」
エリシアはヴェルミナにお礼を言う。
「アーシェ」
エリシアは両腕を広げてアーシェリヲンを呼んだ。彼はヴェルミナを見る、すると頷いてくれたから、エリシアの胸に飛び込む。
アーシェリヲンはまだ十歳になったばかりだ。エリシアは母親として傍にいられないのは辛いことだろう。今生の別れではないとはいえ、アーシェリヲンは隣の大陸へ行くことになったのだ。
エリシアはアーシェリヲンをぎゅっと抱きしめたまま、なかなか離そうとしない。
「お母さん」
「……何、かしら?」
「お父さんと、お姉ちゃん、フィールズをお願いね」
「私はあたなの心配をしてるのよっ」
自分のことを棚に上げて、家族の心配をするアーシェリヲンに対して、エリシアは珍しく怒っていた。
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