私の知らぬ間に

豆狸

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第三話 男爵令嬢②

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 王家の影は男爵令嬢に憐れむような視線を向ける。

「身分の差を否定する発言から、あの男は身分制度を破壊して国を害しようとしている思想犯だと思われていました。敵国や反政府組織とのつながりを探るために泳がされていたのですが、実際はただのロクデナシでしかありませんでした」
「先生はロクデナシなんかじゃないっ!」
「高位貴族に劣等感を持つ低位貴族をおだてて心を掴み、ものにした令嬢達に順列をつけて競い合わせるような男はロクデナシでしかありませんよ。貴女が王太子殿下に近づいたのだって、彼の命令だったからでしょう?」
「そうよ! アタシは一番美人で可愛かったから未来の国母に選ばれたのよ! ほかの女達は学園長みたいなヒヒ爺に売られてたけどね!」

 男爵令嬢が自慢げに語る言葉を聞いて、王太子は教室を見回した。
 青い顔で俯いている令嬢と、目を丸くして固まっている令嬢がいる。青い顔をしているのは担任教師と仲が良かった令嬢で、目を丸くしているのは担任教師を囲む輪には入っていなかった令嬢だ。
 どちらの令嬢も王太子と男爵令嬢の関係を応援し、公爵令嬢に冷たく当たっていた。

「王太子殿下と男爵令嬢の関係をきちんと非難していた公爵令嬢以外の人間は、あの男とともに王家簒奪を企んでいた容疑がかかっています」
「そんなっ!」

 だれかの悲痛な叫びが教室に響き渡った。
 担任教師が逮捕されて拷問されていると聞いた衝撃で興奮していたらしい男爵令嬢も自分の置かれている状況にようやく気づいたのか、血の気の抜けた顔で椅子に座る。

「まだ学園を卒業する前ということですぐに逮捕はされませんが、明日以降皆さんには近衛騎士による尋問があります。それと……貴女は確実に共犯者ですよね? どうして捕まっていないのだと思います? 王太子殿下に真実を見せるためですよ」

 王家の影が合図をすると、教室の外から近衛騎士が数人入ってきて男爵令嬢のところへ向かった。

「子どもに罪はありませんので、貴女の拷問と処刑は出産が終わってからです。それまでは神殿で軟禁され監視されることになっています」
「ちょ! なんなのよ、触らないでっ! 王子っ! 助けてよ、王子っ! アタシを愛しているんでしょう?」

 近衛騎士に両腕を掴まれた男爵令嬢が王太子に助けを求める。先ほど『穢れた王家の血なんてどうなってもいい』と叫んだのと同じ口で、だ。
 王太子は男爵令嬢から顔を背けた。
 彼女が喚き立てながら連行されていった後で、べつの近衛騎士達が入ってきて例の子爵令息を捕縛した。罪状は公爵令嬢に対する殺人未遂だ。これまで逮捕されなかったのは担任教師や男爵令嬢を油断させるためだったという。

「学園長もすでに逮捕済みです。あの男に女を支給されて王太子殿下と男爵令嬢の関係を見て見ぬふりをしていた教師達も尋問中なので、今日からしばらくは私が授業を受け持ちます。……教科書を開いてください」

 王家の影の言葉に教科書を開いたものはわずかだった。
 教室にいるほとんどの生徒が魂が抜けたような顔で呆けている。
 王太子は教科書こそ開いたものの、王家の影が始めた授業の内容が頭に入ってくることはなかった。
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