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第一話 ソフィー
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愛を乞うても、どんなに乞うても、私は愛されることはありませんでした。
父にも母にも婚約者にも、そして生まれて初めて恋した人にも。
だから、私は──
「侯爵令嬢ソフィー、私は君との婚約を破棄する!」
「かしこまりました」
魔術学園の卒業パーティで婚約者の王太子殿下に言われた私は、ためらうことなくそれを受け入れたのでした。
これでなんの未練もなくなりした。
愚かな私は心の片隅で期待していたのです。王太子殿下の婚約者として努力していれば、父母や殿下に認めてもらえるのではないかと。
ですが、愚かで罪深い私がだれかに愛されることなどあるわけがないのです。
望んでいた愛ではないけれど、温かい感情を与えてくれた大切な人を自分のせいで喪ってしまった私には。
私さえいなければ、彼女は今もここにいたでしょう。私が生まれて初めて恋した人も悲しむことはなかったでしょう。
「ご多幸をお祈り申し上げます」
王太子殿下と彼の隣に立つ妹、いいえ、彼女と私は母が違うのでした。
昨夜母だと思っていた人に言われて、私がいるせいで妹が幸せになれないのだと罵られて、初めてそれを知りました。
覚えてもいないほど幼いころに亡くなった私の実母は父に愛されていなかったのに、無理矢理父を夫にしたのだそうです。それで父と妹の母は引き裂かれてしまったのだといいます。
それでは愛されないのは当然です。
物心つく前から家族の団らんに加えてもらえなかったのも、病気で寝込んだときにだれもお見舞いに来てくれなかったのも、王太子殿下の婚約者に選ばれる前は侯爵家の跡取りとして、選ばれた後は王太子殿下の婚約者としてどんなに頑張っても褒めてもらえなかったのも当たり前のことです。
私がいるせいで、だれもが不幸になったのです。それを正さなくてはいけません。
「……皆様、さようなら」
私は卒業パーティがおこなわれていた王宮二階の大広間の窓から飛び降りました。
これで正しい真実の愛が実ることでしょう。
父と妹の母も、王太子殿下と妹もこれで幸せになれるに違いありません。
「ソフィー嬢!」
だれかが私を呼ぶ声が聞こえた気がしますが、きっと気のせいでしょう。
私のせいで大切な人を失ったあの人が、私を心配してくれるはずがないのです。
だけど最後にその声が聞けたことが、私はとても嬉しかったのです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テッサ様……?」
頭から地面に叩きつけられて意識を失ったと思ったら、私は魔術学園の中庭にいました。
いくつかあるお茶会のためのテーブルを囲んでいます。
この王国の貴族子女は多かれ少なかれ魔力を持っているため、魔術学園での学習が義務付けられているのです。
私の目の前には公爵令嬢のテッサ様がいらっしゃいました。
黒髪に紫の瞳のテッサ様。美しくて優しくて、少し口の悪い私の親友。
友情という名の温かい感情を与えてくれた大切な人。
「あのお莫迦王太子殿下にも困ったものよね」
口が悪いというより、なんでもはっきりと口に出される方と言ったほうが良いのかもしれません。
私より身分の高いテッサ様が王太子殿下の婚約者に選ばれなかったのは、彼女の実家の公爵家が数代前に王家と縁組していたからです。血が濃くなり過ぎるのは望ましいことではありません。
テッサ様は言葉を続けます。
「真実の愛だのなんだの言ったところで、貴女という婚約者がいる以上、貴女の妹との関係は不貞でしかないのに。……ソフィー?」
父にも母にも婚約者にも、そして生まれて初めて恋した人にも。
だから、私は──
「侯爵令嬢ソフィー、私は君との婚約を破棄する!」
「かしこまりました」
魔術学園の卒業パーティで婚約者の王太子殿下に言われた私は、ためらうことなくそれを受け入れたのでした。
これでなんの未練もなくなりした。
愚かな私は心の片隅で期待していたのです。王太子殿下の婚約者として努力していれば、父母や殿下に認めてもらえるのではないかと。
ですが、愚かで罪深い私がだれかに愛されることなどあるわけがないのです。
望んでいた愛ではないけれど、温かい感情を与えてくれた大切な人を自分のせいで喪ってしまった私には。
私さえいなければ、彼女は今もここにいたでしょう。私が生まれて初めて恋した人も悲しむことはなかったでしょう。
「ご多幸をお祈り申し上げます」
王太子殿下と彼の隣に立つ妹、いいえ、彼女と私は母が違うのでした。
昨夜母だと思っていた人に言われて、私がいるせいで妹が幸せになれないのだと罵られて、初めてそれを知りました。
覚えてもいないほど幼いころに亡くなった私の実母は父に愛されていなかったのに、無理矢理父を夫にしたのだそうです。それで父と妹の母は引き裂かれてしまったのだといいます。
それでは愛されないのは当然です。
物心つく前から家族の団らんに加えてもらえなかったのも、病気で寝込んだときにだれもお見舞いに来てくれなかったのも、王太子殿下の婚約者に選ばれる前は侯爵家の跡取りとして、選ばれた後は王太子殿下の婚約者としてどんなに頑張っても褒めてもらえなかったのも当たり前のことです。
私がいるせいで、だれもが不幸になったのです。それを正さなくてはいけません。
「……皆様、さようなら」
私は卒業パーティがおこなわれていた王宮二階の大広間の窓から飛び降りました。
これで正しい真実の愛が実ることでしょう。
父と妹の母も、王太子殿下と妹もこれで幸せになれるに違いありません。
「ソフィー嬢!」
だれかが私を呼ぶ声が聞こえた気がしますが、きっと気のせいでしょう。
私のせいで大切な人を失ったあの人が、私を心配してくれるはずがないのです。
だけど最後にその声が聞けたことが、私はとても嬉しかったのです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テッサ様……?」
頭から地面に叩きつけられて意識を失ったと思ったら、私は魔術学園の中庭にいました。
いくつかあるお茶会のためのテーブルを囲んでいます。
この王国の貴族子女は多かれ少なかれ魔力を持っているため、魔術学園での学習が義務付けられているのです。
私の目の前には公爵令嬢のテッサ様がいらっしゃいました。
黒髪に紫の瞳のテッサ様。美しくて優しくて、少し口の悪い私の親友。
友情という名の温かい感情を与えてくれた大切な人。
「あのお莫迦王太子殿下にも困ったものよね」
口が悪いというより、なんでもはっきりと口に出される方と言ったほうが良いのかもしれません。
私より身分の高いテッサ様が王太子殿下の婚約者に選ばれなかったのは、彼女の実家の公爵家が数代前に王家と縁組していたからです。血が濃くなり過ぎるのは望ましいことではありません。
テッサ様は言葉を続けます。
「真実の愛だのなんだの言ったところで、貴女という婚約者がいる以上、貴女の妹との関係は不貞でしかないのに。……ソフィー?」
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