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殺し合い

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 ピーーーー。


 十のカウント目の、長い長い長い機械音が鳴った。


 ブレイドルドの試合は始まる。


 空気が揺れたのを感じて目を開けると、縦に振られた剣が見える。


 俺は剣圧で押しつぶされ、振られた剣から逃れることが出来ない。


 だから俺は左手を目の前に掲げ、目前まで迫った剣身の横を軽く押す。


 そして腰の位置へ左手を戻し、呆れてため息を吐く。



 視線の先に目を見開くイケメン君の姿が映る。


 イケメン君の剣は俺から人が一人挟めそうな横の地面に落ちた事を感じた。


 模擬剣の刀身が電気を纏う。


 俺は腰から模擬剣を抜いた。





「と、」


 左手に模擬剣をしまうと、すぐさまピーと長い終了の合図が鳴った。


「なんで、今始まったばっかりだよ! 僕はダメージを受けてすらいない!」


 イケメン君が地面に刺さった剣を抜いて、二撃目を与えるために下段から俺に剣を向けていた。


 だからと言って試合が終わったことに違いはない。



 得点のポイントが空中のモニターにデカデカと表示される。


【0  10】





「お前、本当に俺に一撃入れる気があったのか?」


 俺はイケメン君に声を掛ける。イケメン君はキッと睨みつけながら口を開く。


「どうしてだい?」


「だってそうだろ? 気の抜けた剣を振りやがって。ちょっとは成長した剣を見れるのかと思ったが、本当に思っただけだった。ブレイジャーズではそうやって怪人を倒しているのか? この気の抜けた剣が通用しない相手に当たったら即詰みだな」


「君に何がわかる!」


 イケメン君は声を荒らげる。俺はイケメン君の触れられたら嫌なところを触ったらしい。


「まぁ、最初から俺が模擬剣を使ったら勝負にはならない事は分かっていたけどな」



「本当は君に勝って自信を付けたかった。それが瞬殺で終わるなんて……」


 イケメン君は苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せる。


「笑ったらどう? 上から目線で、僕が君にやったように」


 コイツは最初から……いや、勝つ気はあったはずだ。勝つ気はあったが……。


「お前、負けに来たのか?」


 そうだ、正義マンの情報なら俺の学校などはすぐに特定されるだろう。最初から俺がいる事を知って転校してきたと思う方が偶然と言うよりも遥かに納得感がある。


 イケメン君は悲しそうに笑った。そして剣を撫でると剣が小さくなる。剣は赤とシルバーのシンプルな棒みたいな形状になり、左手を人差し指の指輪に装着される。

「勝つつもりは……あったよ。でも君は、君には練習試合の場では十年真面目に修行したとしても勝てないだろうとは思っていたんだ。負けに来た? まぁ、その通りになったわけだけど、死にに来たって言った方がいいのかな。これで……思い残すことは……」

 イケメン君はイラつく言葉を残しながら、背を向け歩き出した。

 コイツと相対していると鮮明にあの試合を思い出す。コイツは瞬殺するほど弱くないはずだった、なのに……。勝ちは譲る気はないが、どうにも気に食わねぇ。

 戦う意思はあるのに覇気がない剣を振るう正義マン。


 俺は肺から空気を吐き出し、気を晴らす。深く深く息を吸い、落ち着きと共に吐き出す。そしてコイツの言った言葉を、三回目の吐き出した空気に乗せる。

「練習試合の場でなら勝つか」

 コイツが言うようにそれは当たっている。一般人の持っている武器じゃ正義マンや怪人には通用しない。通用する武器は正義マンや怪人専用だ。

 一般人に生まれて後悔した日なんて、ブレイドルドを辞めてから一日だって思わない日はなかった。

「そうだ、悪い」

 悪いと言った俺の一言で、イケメン君は立ち止まり、頬を俺に向けてきた。
 
 俺は左手に持っていた模擬剣を後ろに放り、左手を身体の前に持ってくる。その左手には白の炎が顕現していた。

「本気でやってなかったのは俺もだったわ」

 イケメン君は白の炎を見て、表情が険しくなる。

「そんなに死にたいなら俺が死なせてやるよ」

 イケメン君が俺に向き直るとピュンッと指輪が光る。そして赤のメカメカしい長剣が姿を現した。

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