上 下
23 / 64

無機質な音

しおりを挟む

 放課後にブレイドルドをやっている体育館のコートを借りてイケメン君と向かい合う。

 流石はブレイドルドの有名人だ。放課後に体育館に来て、二つ返事でブレイドルドのコートを貸してもらえる。

 しかもこのイケメン君は、戦隊ヒーローブレイジャーズのレッドだ。ブレイジャーズはブレイドルドのトップチームだけで構成された戦隊で、その『木原瞬』と言ったら悪の組織で知らない者はいない。

 周りを見渡したら、俺とイケメン君の一つしかコートを使っていないにも関わられず、二階の観客席は空いている所が見当たらない程に、隙間なく観客がいる。


「君は模擬剣でやるの?」

「そうだが?」

 刀型の模擬剣、ここ一年触ってなかったはずなのに手に馴染む。今日が初めましての模擬剣で思うのはちょっとどうかと思うが、ずっと振っていた模擬剣の感覚が無くなっていて、少し悔しかった。

 持っている模擬剣を手の甲で回してキャッチする。それを二、三回繰り返した。模擬剣を見ながら思う、今日帰ったら押し入れに入れている埃の被った模擬剣を出して、外の空気でも吸わせてやろうかなと。

「お前は長身の剣だな」

 赤色のメカメカしい機械、必殺技までのチャージに必要なメーターのような物まで備え付けられている長身の剣で、赤色の闘気が出ている。

「あぁ僕のは、ブレイジャーズで使っている剣だよ。向かって来た怪人を一刀両断する力を持っている」

 待て待て、俺この前まで一般人! まぁ怪人になったけど、身体能力は一般人に毛が生えた程度だ。そんな俺に正義の力を使うのか。

「正義の力を、俺に使うのか?」

 一般人に正義の力を使う事の意味を理解しているのか? と、暗に示す。善と悪、一般人を守るという大義名分を自分から捨てる覚悟。

 正義マンたちが築き上げてきた力を使うことの証明、その真髄がブレるという話だ。


 イケメン君はこくりと頷く。

「君は忘れたのかい?」

 ひょうきんなヘラヘラ顔から殺伐とした真剣な表情に変わる。

「君に一撃でも入れるって、僕がブレイドルドで負けたのはただ一人。佐藤勇、君だけだ」

 長剣を俺に向けた瞬間からヒリヒリとした空気が突き刺さる。

 それを受けて、俺は心の奥底に燃えるような感情が湧き出すのが分かった。グッと手に力が入る。

「覚えてるはずないだろ。そして……二度と俺の負けを、負けた事実を、お前が口にするんじゃねぇ!」

「やっとヤル気になってくれたみたいだね」

「は?」

 俺がイケメン君を始まる前に殺そうと思っていると、ピッ……、と機械音が鳴る。俺がブレイドルドをやっている時のルールが変わってなければ、10のカウントで試合が始まる。

 そうだ、殺すのは始まってからでもいいはずだと感情を溜め込む。

「今日まで僕の目標は君だった。だから勝つよ」

「大層低い目標だったな。でも今日まで? 悪いが、その目標は正義の力を使っても叶うことはない」

 目をつぶる。腰に左手を置き、左手を鞘の様にして模擬剣を潜らせる。姿勢を前に屈めて、それとなく右足に力を溜める。

 女子の黄色い歓声は場の空気で押し黙る。

 シーンとするコートで、ピッ……ピッ……ピッ……、と無機質な機械音が鳴っていた。






しおりを挟む

処理中です...