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ショー

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 リクスウェルトンの首に刀を押し付ける。

「お前はもう終わりだ」

「そうですか? 終わるにはまだ早いですね」

 すると、刀を押し付けた所から肌の色が茶色に変わる。段々と茶色が全身に広がっていく。

「なにが起こっているんだ?」

 服までも茶色に変化し、次第に乾燥した土みたいになると、リクスウェルトンの身体が崩れた。

「終わったのか?」

「そんなわけないでしょ」

 愛華に注意されると、パチパチと拍手みたいな音がなる。その音が鳴る頭上に視線を送った。

「凄い凄い、凄い凄いです! 私が反応出来なかった」

 宙に浮いていたリクスウェルトンは拍手しながら俺たちと距離をあけて、屋上に降り立った。

 俺と愛華が刀を向けていた奴は分身体だったようだ。


 コイツが本体かは知らないが。

 反応出来なかったのなら苦い顔でもしてくれよ。何がそんなに可笑しいんだ?

 コイツがヤバいのは最初から分かっていたが、時間を経つに連れてジワジワと勝てる気が失われていく、そんな感じがしてくる。


 リクスウェルトンの反応が出来なかった速度の刀で、終わらせる。

 俺は一歩。その一歩を一瞬で加速して、愛華をも置いていく速度で俺の間合いに入ったリクスウェルトンの首を狙い、白い炎を纏った刀を軌道に乗せた。

「あはぁ、やっと反応出来る速度になった」

 刀が軌道に乗るまで、俺を見ていなかったリクスウェルトンは、誰かに無理矢理に顔を動かされたみたいにグイッと俺を見て、気色悪い笑みを貼り付けた。


「は?」


 その顔を見た瞬間に俺の動きは止まった。

 そして俺は、左脇腹に、何かの衝撃を受けて飛ばされた。

「グクッ!」

 屋上のフェンスをぶち破って、すぐに地面に引きずられる感覚を何度か体験すると、背中から壁にぶつかって勢いは止まる。

 肺の空気を身体から出した俺は、左の脇腹を抑えながら、必死に空気を肺に入れようとしていた。

「はぁ、かぁ、はぁはぁ、痛ってぇ」

 マジかよ、アイツ。反応出来る速度になったとか言ったか?

 俺の本気で、やっと勝負出来るスタートラインってか?

 はぁ? どんだけ強いんだよ。勝つの無理じゃね?

 なんの攻撃で飛ばされたかも、俺には分からなかった。


 学校の屋上。その真上の空中で、バチバチ、バチバチと火花? 電気? が発生している。

 よく見ると、瞬間瞬間で見えるのは愛華とリクスウェルトンのつばぜり合い。愛華は刀で、リクスウェルトンがステッキだ。

 二人は空中で戦っている。すげぇ、愛華は幹部クラスとまで戦えるのか。さすが最強の魔法少女だ。


 壁に寄りかかっている状態から立ち上がる。ふらっと足に力が入らなくなり、倒れそうになる。

「おっと」

 倒れることは回避出来たが……。

「これはなんだ?」

 地面に黒い煙? いや、黒い半透明の水のような物に足が浸かっていた。まだ足首の位置だが、ちょっとずつ高さが増してる気がする。

 手ですくってみると触れられない。でも手から力が抜ける感覚に襲われる。

「この水にずっと浸かっていたらダメだろうな」

 俺でもこのぐらいのことは分かる。

 姿勢を正して、足を曲げる。力を溜めて頭上に大きくジャンプした。

 運動場のネットを張るコンクリートの棒に着地する。

 これで黒い水対策は十分だ。愛華の戦いを見上げる。リクスウェルトンは空中で立っていた。


 そして俺を見ている。


 後ろで愛華が戦って、なんでコイツがいるんだ?

 スルスルと空中を滑るように俺の方に来たリクスウェルトン。

「もう戦いに参加しないんですか? 遊びましょうよ」

 声が聞こえる距離まで来た。戦いを遊びというコイツとは一生分かり合えない。

「お前は分身体か?」

「いえ、オリジナルです」

「じゃあ愛華が戦っている奴は?」

「そちらもオリジナルですね」

 オリジナルなのか、まぁ信じるか信じないかは半々だろう。


「遊ぶ気がないなら、見る側で元凶には楽しんでもらいましょう」


 リクスウェルトンは「10」と言って、学校の上空を見上げた。カウントは9、8と段々数字が下がっていく。

「元凶は私のショー見て、どういう顔をするのですかね」

「何を見せようっていうんだ」

「1」

 何をやっても愛華がコイツに負けるはずない。

 リクスウェルトンの見上げた先を見てみると火花が散り、愛華とリクスウェルトンがつばぜり合いをしていた瞬間に。

「0」


 学校が消え去った。


「え?」


 何が起こった?


「楽しめましたか? 恋人の死を見送るショーは」

 リクスウェルトンはいつも通りの気色悪い笑みを浮かべた。





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