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不要な台詞

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 悪い子の集い? 聞いたことがない。名乗られたら、こちらも名乗るのが礼儀だ。

 俺は愛華の前に出ながら自己紹介をする。

「俺は佐と……」

「じゃま、危ないわよ」

 俺の自己紹介は愛華の『じゃま』という言葉で遮られる。愛華に文句を言おうと、後ろを振り向いた。

「え? これは?」

 長身の銃が俺を狙っていた。

 愛華は銃を片手に、銃からはウィィィイイイイ! と、ヤバい音が聞こえてくる。バチバチ、バチバチと、愛華の周囲には電気が生まれて、風が吹き荒れている。

 準備万端という感じだ。

「あぁこのまま撃てば、一石二鳥?」

 可愛らしく小首を傾げた愛華。

「え?」

 俺はすぐさま銃口を避けるように回避行動をとる。

 瞬間、長身な銃からは、人を飲む混むほどの大きなエネルギーが放たれた。

 そのエネルギー砲は色とりどりの複雑な色をし、水を一直線に放出しているように銃から絶え間なく放出されていた。

 俺はギリギリ、エネルギー砲に飲み込まれなかった。回避する時にチリッと鳴ったけど、肩あたりが少し焦げているだけだ。

「いや、危なッ!」

「運が良いわね」

 愛華が俺の安否を気遣っていない発言をしても、それを責められる状況ではなく、キョロキョロと周囲を確認してもいないリクスウェルトンはいない。

 俺と同じように回避行動をとっていなければ、リクスウェルトンはエネルギー砲の中にいる。

 愛華を見てみると、エネルギー砲の中を睨んでいた。


 そして数十秒間、放たれたエネルギーが止む。


 リクスウェルトンが居たところを見れば、ただ左手を前にやっているだけの、無傷な怪人が居た。

「凄い力ですね。お気に入りの手袋が消えちゃいましたよ。次の余興はなんですか?」

 俺は愛華の必殺技を手袋が消えただけで済んでしまう怪人に驚く。

 リクスウェルトンは気色悪い笑顔も崩さずに、次の技を待っている余裕すらある。

「リクスウェルトン、あなた、何が目当て」

「トークタイムですか? そうですね私は、桜川愛華という魔法少女を殺しに来ました。ですが、それよりも美味そうな獲物が引っかかってくれました。私がここに来た元凶です」

 リクスウェルトンは俺を見て、ヨダレを垂らす。

「なんでなんで、なんでなんで! 私が愛されないのですか? 元凶の恋人を狩って、元凶の絶望に染まった顔を想像するだけのはずでしたが。あの方に言わずに来たかいがありました。元凶がいるんですから。
 あぁ、あの方は元凶を殺した私になんて言うんでしょうか。ワクワク、ワクワクしますね!」

「愛華分かるか?」

 元凶? あの方? ワクワク?

 俺は分からなかったので愛華に振ってみる。

「怪人の貴方で分からないのに、私が分かるわけないじゃない」

「えっと、愛華を殺しに来たら俺が居て嬉しくなったと、愛されないのは何故ですか? 俺の恋人の愛華を殺そうと、あの方に言わずに来たら俺がいて、俺を殺したらなんて言われるのかワクワクしています」

「完璧じゃない」

 俺の通訳は何故か完璧だった。でもあの方って? 俺はあの方を知らない。

「おいおい、俺と愛華はもう恋人じゃない」

 言わせるんじゃねぇよ! まだ引きずってるんだから。

「そうです。私たちは終わっています」

 何故か追い打ちをかけてくる愛華。

「そうなんですか? 嘘の匂いがプンプンしますけど?」

 俺はなにも嘘をついていない。嘘の匂いを嗅ぎ分ける怪人の能力か? まさか!? 俺が愛華との別れを引きづってるのが嘘に含まれるのか?

 愛華を見てみると頬が赤くなっていた。なんで赤くなってるんだ? 戦闘には関係ないぞと思い、すぐにリクスウェルトンに視界を戻す。


「嘘の匂いが強かったのは……ッ!」

 リクスウェルトンはその言葉の続きを言わなかった。

 リクスウェルトンの首に刀と刀が添えてあったからだ。


 横を見てみると、愛華の服が綺麗な和服ドレスに変わっていた。髪もピンク色から黒色になっている。

 愛華も刀を出せるのか。俺も本気だか、愛華も本気のようだ。

 俺の秘密を喋ろうとしたこの怪人は許さない。まだ愛華が好きなことを、愛華に知られるのは不味い。

 刀を持っている手に力を込めると、刀から白い炎が溢れ出した。
 

 


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