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閑話 青酸神の挑戦と転生

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「アール=エルシィ、決闘を挑みに来た。魔神の座は私が戴くわ」

下界の出来事で言えば、ちょうどカルイザワが魔王となって100年くらいが経った頃。

青酸神シーエ=ヌは、恒星系の管理神、つまり魔神の座を賭して決闘をすることにした。
シーエ=ヌは、この日の為に途方も無い鍛錬を積んできた。その月日は、なんと1500年にも及ぶ。

シーエ=ヌには、絶対的な勝利への自信があった。
下界の特定の生物に加護を与えては「魔王」などという称号を与え、面白半分で世界を引っ掻き回して遊び呆けていたアール=エルシィに、厳しい鍛錬を積んだ自分が負ける筈が無いと固く信じていたのだ。

ちなみに、アール=エルシィというのは魔神が魔神の座に着く前、ただの電神だった頃の名前である。
アール=エルシィが魔神となった今彼のことをその名で呼ぶのは無礼にあたるので、この名はほぼ使われない。
例外は今回のように、はっきりと敵対姿勢を見せる場合だ。どうせ倒すつもりの相手なのだから、無礼かどうかなど関係ないということだ。

「……我をその名で呼ぶとは、覚悟はできておろうな?」

魔神の周囲に、法典画戟を持った4人の使徒が浮かぶ。アール=エルシィは実益志向なので、側から見れば無様な多対一の戦いに持っていくのも辞さない。
……まあ、シーエ=ヌほどの実力者を前にプライドを優先させるような間抜けなら、とっくに魔神の代替わりが起こっていたであろうが。

「「「「ハイボルテージペネトレイト」」」」
4人の使徒の強烈な突きが、一斉にシーエ=ヌを襲う。
しかしシーエ=ヌはそれを冷静に観察し、絶妙なタイミングで反撃に出た。

青酸竜巻シアニドトルネード

青酸ガスでできた激しい台風が使徒たちを呑み込んだ。
それぞれのハイボルテージペネトレイトは明後日のほうへ向かい、うち2人の使徒が互いを刺す形となってしまった。

「取り巻きはあと2人ね。これでも喰らいなさい、青酸シアニド対消滅アナイレーション
普通の青酸ガスと反物質でできた青酸ガス。それらは使徒たちの中心部で対消滅し、その際生まれた莫大なエネルギーで使徒たちは木っ端微塵になった。

「お主、それ青酸である意味あるのか?」

「黙れ!御託はいい!」

遂に1対1となった魔神とシーエ=ヌ。魔神の手には、魔神が持てる魔槍の中で最高の性能を持つ青龍偃月刀が握られている。

「潔く散れ!超青フルパワー酸龍拳シアニドストライク!」

液体の青酸が龍を象り、思い切り魔神に噛み付いた。
魔神はすんでのところでそれを躱し、なんとか致命傷を避けたものの腕1本を犠牲にしてしまった。

それに魔神にとって深刻なのは何も外傷だけではない。
青酸を受け、猛毒状態となってしまった魔神は吐き気を抑えるのにさえ必死だった。

だが、ここで魔神はあることを閃き、実行に移した。
シーエ=ヌにとって青酸を放出することは基礎代謝のようなものであり、彼女にそれを止める手段は無い。
引火性の気体を放出し続ける神と、電気を司る神。相性だけは最高なのだ。

「ハイボルテージトーチャー」

これは、下界の生物に電気で拷問を加えるための魔法。人間や竜相手なら絶大な効果を発揮しようとも、神相手に耐えられない苦痛を与えることなど到底できはしない。

だが、青酸神にとって、体表に電流が走り続けるのは死活問題だ。青酸は、ちょっとした静電気でも大爆発を起こすほどの引火性を持つ。
要は、シーエ=ヌにとって自爆を止める手段が無いのだ。

「こ……こんな姑息な手で……私が負ける訳にはいかない……!」
言いながらも、シーエ=ヌは自分の死期が近いことを悟っていた。
そして、最後の足掻きとして、彼女は自身に転生魔法をかけることにしたのだ。

転生魔法といっても、所詮は神が人間として第2の人生を送れるという程度の魔法。転生後は、現在の実力を保てるわけではない。
おそらく、転生すればかなり弱く──1500年の修行を開始する前より遥かに弱いところまで──弱体化してしまうだろう。

それでも、彼女は思ったのだ。
「チャンスが0か0.0000001かなら、後者の方がまだマシだ」と。

この時シーエ=ヌは、焦って転生魔法を2重がけしてしまっていた。

しかし、アタミとして転生した時には、彼女はこのことをすっかり忘れていたのだった。
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