チュヴィン

もり ひろし

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第3章 子どもが思うこと、大人が思うこと

00話 第3章への序章

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 魔女の呪いを解いた100の仲間たちは、ささやかながら祝勝会を開いた。全員参加というわけではない。100の仲間たちにとっては事を成せばもうすでに過去のこと。執着がない。皆、のほほんと過ごしていた。彼らの生き方は万事こうだ。それに習った東洋の思想は執着を解くことに本質がある。しかし今の日本では、紳吉おじいさんがいくら日本でアンチ西洋をうたったとしても焼け石に水だった。それほど日本は西洋文化に侵食されている。
 お隣中国では過去に仏教であるとか老荘の思想であるとか東洋思想が盛んであった時期がある。しかし国の体制が変わると、それらの思想は一掃され現代に伝わらない。なんとも残念なお国柄である。
 西洋思想にも行き詰まりがあるようだ。何も西洋思想が悪いわけではないが、ハイブリッドな思想が出て来てもよさそうである。しかもそれは日本にである。日本は中国と違っては有史以来のすべてのものが保存されている。思想が定着するには長い年月がかかるが、とりあえず誰か西洋と東洋のハイブリッドな哲学でも何でも起こしてほしい。
 西洋の思想の根本は頭を使って乗り越えようとする。ところ変わって東洋はまず体に聞けだ。西洋には哲学がある。日本にも哲学思想はあるが独立して存在することは稀だ。何とか道の形で保存されるケースが多い。いわゆる修業だ。いまさら修行かという空気がある。今ではそれほどマイナーな修練法だ。日本に本格的に西洋の哲学が輸入されたのは文明開化の時代からである。しかし今では西洋でも頭を頼りにする生き方を反省している。頭でっかちも過ぎると害悪があるらしい。我ら東洋思想は日本に逆輸入されて改めてその良さを知る機会も多くなってきた。西洋人の日本に対する興味も日に日に重みを増している。西洋東洋のハイブリッドな思想が日本から発信されると言ったのはその意味である。

 それにしても、苦労の末に手に入れた万能のコミュニケーション能力は完全ではなかった。そもそもコミュニケーションの本質は心を通わせることにある。普通の人間は鳥や動物をどこか下の者として心を通わせない。心を伴わない会話は不毛であった。一般の人にとっては降ってわいたような万能のコミュニケーション能力。それができるようになった前後を知らないので、生まれつき持っている能力のように思っている。それに、もともと根底にあった人間中心主義も相まって、まるで鳥や動物の言うことが響かない。その点、救いだったのが子どもたちは鳥や動物が好きだったから真剣に耳を傾けた。
 また、人間同士のコミュニケーションだって子どもが思うことと大人が思うことは大きく違う。何が万能のコミュニケーション能力なのだろう。聞いてあきれてしまう。考えるに、多くの大人は夢見ることに疲れてしまったのだろうか。大人にだって子どもの頃があったであろうに。今一度キラキラとした瞳を取り戻してほしいものだ。



 和寿は何処を向いているのだろう。第2章では、鳥獣保護に関する事について、世の中のSDGsという運動に対する和寿のかかわりを述べた。和寿は子ども環境サミットともよばれる、世界子どもサミットにも参加した。未来の環境は子どもたちのものだ。しかしこのSDGsという考え方は西洋のものだった。結局SDGsも人間が頭で考えた、人間らしい幸福の追求の仕方であったのかもしれない。心で感じていることを、頭で考えて、冷静に、つまり今の人間の幸福をないがしろにしてしまわないように、論理的に答えを導き出す。これでいいはずだと…。
 しかし、いろんなところにあとからあとから矛盾をきたす。例えば大気中の炭酸ガスを減らそうと化石燃料を燃やさずエネルギーを得ようとする試みがある。近くにその失敗例を挙げるとソーラーパネルの問題をあげることができる。興味ある方は問題点を、インターネットでも調べてみてほしいです。また現代の人間に関して、もっと根本的な問題をあげれば、そもそも多くの人間は利益が伴わないと動かない。すぐ近くに滅びようとしている鳥や動物がいるというのに…。

 ここが人間の限界と和寿は思いたくなかった。人間はテクノロジーで結びつかないことを結びつけ、鳥や動物たちとウィンウインの関係を構築するのに躍起になっている。しかし今述べたように人間は利益が伴わないとなかなか重い腰を上げない。大規模な有志のボランティア団体など出てこないであろうか。

 和寿の正義は子ども特有のものだろうか。たとえそれが短絡的な正義だと言われようとも、現実をふまえない理想といわれようとも。それを多くの人が望んだときに社会は問題を取り上げる。そしてあらゆる叡智が発動する。その可能性に和寿は自らの望んでいる世界を夢見た。しかしこれも夢のままで終わってしまうのだろうか。

 まず世の中を動かすのは子どもの心を持った大人である。和寿はそんな大人を見つけることができるのであろうか。和寿は自分の立場をよく知っている。最悪自分の人生はこれらの問題にささげてもかまわないと思っていた。最後は自分だけでも立ち上がるのだ。第3章始まります。
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