落ちこぼれ錬金術師と飼い主の犬

ルーナ

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第一話

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(あれ、ここどこだ)

 気がつくと暖かい何かに包まれていた。
 目は開けようとしても開かず、体も思うように動かせない。

(不思議な感じだ、ポカポカしていて気持ちがいい。けど……)

 起きていたい、そう思っていても何かに引きずられるように眠気が襲う。
 しばらくすると再び意識が浮上する。

(動かなといけない)

 先ほどとは違い、目が開けられる。まだ景色はぼんやりとしているが、不思議と動き出せ、足を出せと本能が告げているように体を動かす。それは上手くいかず数歩進んでは倒れ、数歩進んでは倒れを繰り返す。

(倒れても全然痛くない)

 本能のまま体を動かし、お腹がすけば甘く空腹をくすぐられるような匂いする方へ行くと空腹を満たすことが出来た。

 不思議に今の状況に疑問は生まれなかった。
まるでそうすることが当たり前かのように動いていた。


そんな睡眠と覚醒は何度か繰り返した時、突然変化は訪れた。


「――――!!!! 」
「―――!! 」


 不意に発せられた大きな音。
耳は良く聞こえるのだけど、聞こえた音が意味を成すものなのかわからない。
だけど、鼻孔をつつく生臭い臭いは古い何かを思い出させるようだった。


(血の匂い)


 一気に恐怖心が高まる。
だけど耳は聞こえるが目の良く見えない状況ではどうしようもなかった。ましてはまだ満足に長い距離を歩けない。
聞こえるのは近づいてくる複数の足音と金属がこすれるような音。


次第に血の匂いが強くなっていく。


(やばい、逃げなきゃ)


 そう決心した時には遅かった。
首元を何かに掴まれ暖かい何かに覆われる。それは血の匂いと優しい匂いがごちゃ混ぜになったような匂いだった。
今までの騒然としていた物音はなくなり、あたりに静寂が響き渡る。
かすかに聞こえる小さな心音を聞き、警戒心が薄れていく。


(ああ、暖かい。もう大丈夫なのかもしれない)


 体の中に流れ込む暖かい何か。それが体中を巡り、暖かい春の日差しの様な感覚だった。誘われるように眠りに落ちる。



 目が覚めたときはすべてが終わっていた。



(寒い)


 寒さで目が覚める。
冷たい何かからはい出るように外へ出る。聞こえていた小さな心音は今は聞こえない。どうやら周囲には何もないようだった。
ただ風の音、揺れる木々、そして生臭い匂いが充満している事は分かった。


(早くこの場を離れないと)


 目はさっきまでよりかは幾分かましになったけど、まだはっきり見えるわけではない。
だけど、なんとなく何処に何があるかがわかる。


 そして暖かそうな感じがする方へひたすら歩く。危険は去ったようだけど、さっきの場所に居続けてはいけない。そう感じたのだ。ただ、進め度自分を助けてくれる存在はない。
喉は乾き、空腹に襲われ、体にこびりついたものが動きを阻害する。
疲労は積み重なり、限界が訪れる。


(僕はここで死ぬのだろうか)


 まだ何もわかっていない。状況も周囲の事も、そして自分のことですら何一つわかっていない。


(そこに気になるものがあったら調べたい。そうやって生きていたはずだった……? )


 足りない栄養、足りない水分、足りない休養。
死は着実に自分に近づいている。わかっている。


(だけど、ここで死ぬわけにはいかない)


 意識が朦朧として、足元がふらつく。


(そうだ、ぼくは……僕はアルケミストだ……錬金術師アルケミスト……レオン……)


 自分の前世の名前を取り戻した瞬間、体に違和感が駆け巡る。


(力が入らない)


 重なる疲労にそのまま崩れ落ちる。引きずられるように意識は落ちていく。

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