落ちこぼれ錬金術師と飼い主の犬

ルーナ

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第二話

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 稀代なる天才錬金術師グラディウス・レオンハート。
その偉業は国を境とせず、発明品は独占されず、等しくその恩恵を広めたという。
若くして才能にあふれ、各国では比類すべき者はいなかったそされるほどだと言う。


(ちがう)


 魔法の才能にあふれ、努力を惜しまず、知恵を絞り、過去の賢人を糧に、自己研鑽を続けていた人物。


(違う、僕はそんなできた人じゃない)


 魔力を待たない人々の為に考えられた発明の数々。それらは今日こんにち応用され続け、現代の礎とまで言われている。魔力を持たない者が見下される世の中、魔力を持つ者が魔力を持たない者の為に何かを考えるど、そのような慈悲の心に溢れていた人物だ。

(違う、そんな崇高な目的を持っていた人間じゃない。落ちこぼれだったし、自分自身が魔法を使えなかった。だから自分の為に発明したに過ぎない。第一、。そんな僕が慈悲に溢れているはずがない)

自分の力に過信せず、傲慢に振るわず、常に冷静だったその人は自然と憧れの対象となるのは当然だった。常に他者と対等であれ。今でもその志は人々の中に生きている。


(僕はそんな強い人間じゃなかった。自分さえよければ良かった。だから他人の立場に無頓着であるかのように振る舞っていただけだ。本当は権力を恐れ、魔力がないと罵る同期の目から逃れ、細々と生きていたかっただけだ)


国境を問わず人々は口をそろえてこう言うだろう。偉大なる天才錬金術師、救世の錬金術師レオンと。



(ちがうっ!!! )





 心を埋め尽くす不快感が抑えきれなくなりそうだった時、なにかに揺られるような感覚に目が覚める。

(匂いが違う)

 視覚は今までとは違いはっきりと見ることが出来た。ただ、嗅覚は今まで嗅いだことのない匂いで危機感が高まる。

「お、目が覚めた」

 頭上から声が聞こえ慌てて上を向く。
そこには頼りなさそうな少したれ目で黒髪の少年の顔があった。

(顔でかっ! )

 人だったことに安堵するが、どう見ても巨人。自分の視点から比較しても大きすぎるのではないかと思ったほどだ。慌てて逃げようと暴れるも巨人にかなうわけなく腕は振りほどけなかった。

「元気いっぱいそうだね。見つけたときはどうしようかと思ったけど。よかった」

 ―――何をいっているのだ? 
そう口に出そうとしたけど言葉が出る事はなかった。

(なんで? )

 その疑問はすぐに氷解することになる。

「おうちに帰ったらお風呂に入ってきれいきれいしような。真っ白い毛並みのワンちゃん」

(なん……だって? )

 一瞬で頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

(僕が犬だって? )

「ちょっと血がついてたから心配したけど、こんな毛並みのいい犬見たことないし。少し狼に見えなくもないかもだけど、小さいころから躾ければ大丈夫だよね」

恐る恐る自分の手を見る。
そこには見慣れた人間の五本指は存在せず、真っ白い毛におおわれた小さな腕だった。それは生前見たことがある子犬の足に非常に似ていた。

「安心しておくれよ。ボクは下っ端の錬金術師だけど、キミ一匹くらい養ってあげられる甲斐性くらいはあるつもりだ。安心してほしい。お、どうしたんだい自分の前足を見て」

(そうだ錬金術! これを……これをどうにかできるかもしれない。僕にはやっぱり錬金術しかない! )

「急にそんな可愛い顔で見られるとは。なかなかやるね」

(命の恩人みたいだし、頼りなさそうなだけど家にとりあえず行ってみよう。そして合間を見て実験するしかない)

「そうだ。うちで飼うってなったら名前つけなきゃ」

(飼われるなんて癪だけど、どう見ても子犬の僕には自衛手段がない。まして状況もよくわからない……暫く厄介になるしかない、か……)

「君には、偉大なる錬金術師であり、目標でもある人物。恐れ多いかもしれないけど、そんな人から名前をとってレオン。今日から君はレオン、この錬金術師ハーディー・マイルの子だ。……と言ってもまだ駆け出しなんだけどね」

(道理で頼りなく感じたと思った)

「でも、きっといつか。彼の偉人のように偉業を成し遂げたいと思うんだ。先生にはよく怒られるし、周りにはよく馬鹿にされる。それでも錬金術を続けて人々の為に、力になりたい」

(バカっぽいけど真っ直ぐ……嫌いじゃない。仕方ない、僕にも目的があるけど一人前になるまで一緒に居てもいいもしれない)

「君にはこんな難しい話なんて分からないだろうけど……君がボクの軌跡の証人になる……なんてね。こんなは実力に見合ってない事他の人には言えないけど……」

(一方通行の意思疎通がこんなにも不便と感じるなんて……早急にコミュニケーション手段を考えないといけない。それに僕の寿命についても調べないと。外見がわかれば手がかりになるんだけどな)

「あっ! 」

(びっくりするから急に大声出さないでほしい。犬の聴覚は敏感なんだから)

「カーデウ草採取するの忘れてた! ああ、どうしよう」

 突然立ち止まりマイルはおどおどし始める。


(何か依頼でも受けていたのだろうか? カーデウ草だと一般的なポーションの材料だ。それだとまずいんじゃないかな)

「ま、いっか。起こられたら仕方ない。こんな小さな命に比べたらね」

 さっきまでの不安そうな表情は一転して笑顔になる。
どこか抜けているんだけど、きっと良い人なんだなと思ったレオンだった。




 暫く抱えてもらって歩いていると街が見えてきた。遠くには大きなお城が見える。

(ここはどこの国だろう? 見覚えがない)

 レオンの記憶と照らし合わせても全く見覚えのない場所だった。暫くして国旗が見えるようになるけど、いまいちピンとこない。考え事をしているうちに門に着いたようだった。

「通行証、もしくは身分証明証を」
「お勤めご苦労様」

 そう言ってマイルは懐からカードを取り出す。

(あれは僕が造った個体認証識別装置。使用している媒体で、一ヶ所でも登録変更した場合、他の媒体でもその情報を共有することが出来る装置。ギルドや組合と交渉するの凄い大変だったんだよなー)

 装置にマイルがカードを当てると緑色にひかる。

「どうぞ」
「どうも」

(よく見ると少し違うのかもしれない。だけど僕が造ったやつに似ている)

 門をくぐると街並みはどこか懐かしさを彷彿させるように感じた。

「さて、最初に我が家に案内しよう」

 そう呟くマインの声は、物珍しそうに街を眺めるレオンの耳には入らなかった。
綺麗に整備された街並み、それを横にどんどん進むマイル。次第に街並みは古く寂れているような雰囲気へと変わる。

(駆け出しなのは本当みたいだ。良い家に住めず、ボロ屋に住むしかない。僕も駆け出しのころはそうだった)

 家は後回しで錬金術に使う道具を率先して集めてたっけな。少し感慨深く思う所があったけど、そんなレオンをよそにさらに奥に進む。
そして辿り着いたのは、隙間風が多く入ってきそうなボロ小屋だった。もはや生前のレオンが手作りで作った方がいい家に住めるといっても過言ではないレベル。

(今日からここに住むの? ほんとに? )

「ついた! ここが我が家だよ。ちょっとボロいけど十分住めるから」

(これがちょっとボロいね……)

 マイルはガタガタと引き戸を開けようとするもなかなか開けられそうもない。
仕方なしに抱えていたレオンを下ろし、開けようとする。

「ちょっと待ってて、今開けるから、何処にもいかないように! 」

(やっと下ろしてくれた)

 ここぞとばかり歩く。犬として生きた短い時間と人の記憶はなかなか融合させることは難しい。認識する前はしっかり歩けていたけど、認識してからは体に違和感を覚える。
四足歩行違和感を覚えつつも何とか歩くことは出来そうだった。

(まるで四つ這い移動している気分だ)

 それよりも確実に歩きやすいのだが。
暫く歩いていると後ろから大声が聞こえる。

「ああーーー! もう待っててって言ってるでしょー」

 自称飼い主であるマイルが慌てて走ってくる。

(うるさい人だ。感謝はしているけど、僕は騒がしいのは苦手なんだよ)

 だから街から外れたところに隠れるように住んでいたのに、そう考えながらされるがままに抱え上げられる。

「ほら、うちに入ろっ」

 開けられた引き戸をくぐると外観通り、ボロボロの内観だった。
それでも必要最低限の日用品にベッドがあった。もう一部屋あるようで、そこには少しこぎれいな錬金窯と実験器具があった。

どうやらマイルも外観よりも錬金術を優先させる性格の様だ。少しだけ親近感がわく。

(最低限の錬金道具はある)

これにはレオンも感心せざるをえなかった。

「おなかも空いたけど、まずはレオンをキレイキレイしよう」

 おもむろに大きな桶を取り出し、数枚の布きれを準備する。
マイルは桶に手を向ける。

「水よ」

 そうすると桶に一杯に水が満たされる。

(魔法が使えるんだ。しかも基本的な錬金術において一番大事な水属性。それだけでも十分に食べていけるだろうな)

 魔法について関心しているレオンを抱えあげ、マイルはきれいにすべく水へつける。

「つめたいけど我慢してね」

(つめたっ)

 水に体を浸され汚れを落とされる。思わず冷たさに自然と体が拒否反応のごとく暴れる。

「ほらっ、あばれない」

(こんな冷たいのに入れない。大体子犬は弱いんだから水で洗ったら駄目だろう)

生前のお風呂を早急に開発しなければいけないと思った瞬間だった。

 行水が終わった後は寒さで凍えそうだった。ただ、マイルが「秘密だよ」と言って水に入れてくれた香料のおかげで幾分か気分は良いけど。レオンは寒くて体が勝手に震えていた。
全く持って何に対して秘密なのかもわからない。

「ごめんね、寒かったね」

 と言いながら体を拭いてくれたけど、濡れた体毛のせいでなかなか温まらない。
一応気遣ってくれているらしく、毛布にぐるぐる巻きにされている。マイルも新たに出した水で体を拭いているようだった、申し訳程度のカーテンで曽於から見えないようにしている。

(あ、やばい。寒すぎる……火でもあれば……)

 レオンがそう考えると、突然目の前に浮かぶ火の玉が現れた。

(犬が、魔法を……!? なんで? いや、まさかね……)

 試しに消えろと念じると火は消え。再び念じると火が出てくる。

(生前使えなかった魔法が今頃なんで……? )

 思い当たるのは自分の特性。
魔物、それは動物とは違う生き物とされる。多くに当てはまるのは人を襲うと言うことだろう。そして魔物の中には魔法を使うものもいる。

(火属性の魔物? 犬型だとオルトロス、ケルべロス……は首の数が違うので除外。フレイムドッグは体が火で出来ているから違う……)

 魔物であれば魔法を使える。それは多くの人が知る常識だった。

(ヘルハウンド? 体毛の色は違うけど見た目は一番犬に近く、火属性……)

 何でもいい。
だけど絶対に魔物と知られるわけにはいかない。そう思いながらレオンは今暖をとることを優先し、考える事を放棄した。


 暫く火にあたると毛が渇き、体が温まってくる。その暖かさにつられ再び瞼が重くなる。




 気が付くと抱え上げられていた。

「起きたみたいだね。疲れちゃったのかな? 」

 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
レオンは慣れない手つき? で目をこすり、マイルの方へ向く。
目の前にはご飯らしきスープが置いてあった。寝ている間に作ったんだろうと遅れて美味しそうな匂いが鼻腔を刺激する。

「寝ている間にちょっと歯を見せてもらったんだけど立派だったから僕と一緒のご飯にしたんだ。食べれるといいけど」

 マイルはスープとパン、レオンの前にはスープと干し肉が置かれていた。

(この体になって普通の食事は初めて)

 そう思いながら出された食事をありがたく思い食べることにした。

(スープは美味しい。干し肉は食べなれた懐かしい味がする)

 床に置いてある物を食べるのに不自由はしないが、スープは深皿だったため鼻が汚れるのが難点だなと思いつつレオンは完食した。

「食べてくれてよかった」

 ご飯後には家の中を今度は自分の足で探索する。
錬金術をする部屋が一部屋。それ以外の全部があるもう一部屋。
こんなボロボロの小屋なので泥棒に入られないのだろうかと疑問に思っていたところだったけど。

(錬金術に関しては抜かりはなさそうだね)
 
錬金素材などはしっかりと専用の収納棚へ入れてあり、魔石の力で鍵をかけられものだった。貴重品や食材もここに管理しているみたいで、防犯対策はしているみたいだった。

 錬金道具をみると懐かしさが込み上げる。

 ふとレオンは考える。
この体に生まれ変わってそんなに長い時間は経っていない。なのに、こうも懐かしいと思うのだろうか。
いったい、自分が死んでからどれくらい年月がたったのだろうか?

(死んでから……?僕はどうやって死んだのだろう)

 若くして多くの発明品を世にだし、俗世に関わりたくなかったレオンは、隠居生活を謳歌していた。気の向くままに錬金術に必要な道具を採りに行き、錬金術に没頭していた。進んで隠居したわけではなかったけど、存外気に入っていたのは確かだった。

(何かを必死に創ろうとしていたのだけど、それも思い出せない)

 自分が死んだ理由、それと錬金術をひたすら追求した理由。ひどく大切だったのに思い出せない。生まれ変わりもどうやら完全に記憶を引き継ぐわけではないようだ。
貴重な経験をした、そんな少しずれた感想を抱きながら幼い体に引っ張られるように眠ったのだった。

「こんなところで寝ちゃって。しかたないなー」

 明日から躾を頑張らないと! ついでに依頼の品を作らいないといけないなーと、やはりこちらも少しずれた考えをしながら、いつもより寒くない布団へとマイルはもぐるのだった。その顔は幼さの残る少女の様な笑顔だった。







――――



レオン「偉大な尊敬する錬金術師の名前を犬に付けるのってどうなの? 」
マイル「おっしゃるとおりでした、すいません」
レオン「まぁ、名付けられたと思ってないし、元々の名前だからいいけど、変な名前だったら絶対振りむかなかったんだから」
マイル「偉大なる人の名前でよかった」
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