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第二章 本部編

60 相談

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「ごほん、そろそろ俺の相談に乗って欲しいんだけど」

「!……あぁ、もちろんだよ」

 アルがポカーンとした表情で俺のことを見ていたので、ひとつ咳払いをし甘い雰囲気が漂う室内を元の空気に戻す。このままこの空気が漂い続けると俺の話がずるずると先延ばしにされそうなので、そうはさせまいとすぐに気持ちを切り替える。

 アルは俺の言葉に乱れた服を急いで直している。

 身なりを整えたアルは、俺に椅子に座るよう促してきたので俺も言われた通り来客用の椅子に座った。
 やっぱり話をするのならこっちだよなと、アルに常識がちゃんとあることにホッとする。

「はい、どうぞ」

 俺の目の前にスッとアルがホットミルクの入ったマグカップを差し出してきて、俺の机を挟んだ目の前の席に腰を下ろした。俺はひと口ホットミルクを飲むと、温かいミルクが全身に染み渡り疲れた心を癒してくれる。

「それで私に相談というのは?」

 やっと今日この部屋にきた本来の目的にたどり着いた。随分と寄り道した。
 俺はマグカップを机の上に置くと本題に入る。

「実は……俺にも軍の仕事を手伝わせて欲しいんだ!」

 アルが帰ってきたら絶対に言おうと思ったことを伝えると、少し驚いた顔をした後に気まずい顔をした。

「でも、サタローは兵士じゃないから無理してそんなことしなくてもいいと思うけど……」

「でも、いつもだらだらしてるだけで暇だし、みんなが一生懸命訓練してるのになんだか申し訳なくて……」

「うーん、でも危険なこともあるし」

 俺が軍の仕事をするのをあまり良しとしないようで、どうにも渋っている。
 しかし、転移して右も左もわからない俺を助けてくれて、何不自由ない生活を送らせてもらっていることの恩返しをしたいと思っている。それにほんとに暇なので出来ることがあるのなら手伝いたい。
 
 俺もここは引くわけにはいかないと意地を張る。

「少しでもみんなの役に立ちたいんだ!お願い!」

「ゔーん……」

 手を合わせて必死でお願いする俺だが、アルはなかなか首を縦には振ってくれない。

「頼むよ! アル」

「っ…………はぁ、わかったよ。パスカルと話し合ってみるから」

「本当かっ! ありがとうアル!」

 俺の必死なお願いで、なんとか渋々ながらも俺が軍の仕事を手伝うことを了承してくれた。

 了承してくれたものの気は進まない様子だ。しかし、一度オッケーしたのだからやっぱりダメなんて言わないだろうと、アルを信じることにした俺は、その日はそれで自分の部屋に帰った。



◇◇◇



 次の日、俺はパスカルに部屋に来るよう呼ばれ、朝食を食べてから彼の部屋に向かった。
 ノックをするとパスカルの声が聞こえたので扉を開けると部屋の中にはアルの姿があった。

「あれ、アル!」

「おはようサタロー」

「お、はよ」

 昨日の今日で少し恥ずかしいと思った俺だが、アルは相変わらず爽やかな笑顔を朝から振りまいていた。

「それで、話ってなんだよパスカル?」

「サタローの今後のことについてだ」

「今後?」

「言ってただろ、何かできることがないかって……」

 昨日アルに相談したばかりのことを次の日の朝に返答がくるとは思っていなかった俺は、パスカルの言葉に驚く。
 アルの顔を見るとにっこり笑顔のままだった。あんなに渋ってたのにできる男は仕事が早い……早すぎる気もするが。

「それで、俺なんかに何か手伝いできることあるのかな」

「アルと相談した結果、わしの仕事を手伝ってもらうことになった」

「パスカルの仕事?」

 パスカルは魔法軍で軍医をしている。遠征中に少しだけ手伝いをしたことがあるが、魔法を使って治癒を行っていた。魔法が使えない俺にパスカルの仕事が手伝えるのだろうか。

「俺、魔法使えないけど大丈夫なのか?」

「それなら大丈夫だ、別に魔法軍の全員が魔法を使えるわけではないしな。特に医療班は魔法が使えないものが多い」

「そうなのか……」

 パスカルの言葉に少し安心した。魔法が使えない人がたくさんいるんだったら頑張れば足手まといにはならないはずだ。本部に戻ってからも随分と忙しそうだったけれど軍医って実際何をするのだろうか。

「とりあえず今日から仕事の手伝いをしてもらう」

「う、うん!」

「それじゃあサタロー頑張ってね」

「あぁ、ありがとうアル!」

 それだけ言うとアルはパスカルの部屋から出ていった。






 
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