獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
316 / 404
第四部

伍長の決断

しおりを挟む
ノーラのことについては、トームと私達の問題です。山羊人やぎじん達は、自分達では面倒見切れないノーラを見捨てた。それを伍長が拾い、そして私達が保護した。

そこでもうノーラの件は決着がついてるんです。だからザフリも何も言わない。トームがノーラとの間で子供まで作って、しかもその子供がこうしてすくすく元気に育っている。トームも幸せそう。だったらこれ以上、何が問題なのですか?

別にノーラを受け入れろとも言っていませんし。無理なら無理だと認めるのも大事です。

でも、今後も似たような事例は出てくるでしょう。だけどその度に、伍長は助けるんでしょうね。

それに今はもう、ノーラはトームがいればだいたい大丈夫です。対処法は私達が伝えました。トームも熱心にそれを学んでくれました。だから私達は少しばかりて手を貸すだけで済んでる。だとしたらまた保護されても、対処できます。

すると、

「おう、帰ったぞ~!」

伍長が帰ってきました。猪人ししじん達の集落に行ってたのに。いつもはもっと遅いのに。

そしたら彼の腕に、赤ん坊の姿。猪人ししじんの赤ん坊でした。

「え? どうしたんですか? その子」

戸惑う私に、彼はこともなげに、

「ああ、こいつな、目が見えないみたいなんだ。で、要らないって言うから俺がもらってきた」

「は…? もらってきたって、ええ……?」

まさか私がその話をしたからってわけでもないでしょうけど、このタイミングでですか?

「目が見えないって……どうするつもりなんですか? 伍長」

ノーラは、知能の発達が遅れているだけでそれ以外は健康でした。知能も、二歳児程度くらいはあったでしょう。だから最低限のことは教えることもできました。だけど目が見えないとなると、手間はその比ではないでしょう。なのに彼は、

「はあ? 何言ってんだビア樽。視力に頼らない生き物なんざいくらでもいるじゃねえか。生きる上で視力なんてのも絶対に必要ってわけじゃねえんだよ。言っとくがお前、俺が戦ってる時に視力に頼ってると思ってたのか? 俺が灯りもねえところで獣蟲じゅうちゅうとやり合ってた時に目で見てたとか思ってんのかよ? んなわけねえだろ。音と空気の流れを読む皮膚感覚を磨きゃそれくらいはできんだ。

でもまあ、猪人ししじんの連中にゃそれを教えんのはできねえだろうから、俺がやる」

「ええ……?」

私も、店の方にいたトームもメイミィも、裏の物置で商品の管理をしていたラレアトも、そしてザフリも、唖然としてしまいます。

でも、彼がそう言うのなら、そうなんでしょう。さらには、

「こいつは俺とクレアの子として育てる。ついては、俺とクレアとこいつのために家を建てる」

平然とそう言ってのけたのでした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

迷宮世界に飛ばされて 〜迷宮から魔物が湧き出す世界で冒険者として生きる〜

おうどん比
ファンタジー
 キャンプ場で紫色の月を見ながら酒を飲み、目が覚めると異世界。偶然助けられた赤髪の男性に、迷宮に潜ったり、魔物なんかと戦う冒険者になることを勧められ、色んな魔法を習得させてもらう。別れ際には当座の資金や色んな物も貰い、街へ向かう。  元の世界には帰れないようだが未練もない、ひとまず冒険者として一旗上げよう。  そんな始まりです。 ーーーー 現れたり消えたりする不思議な迷宮から魔物が湧き出す世界です。 冒険者として魔物を狩ったり、迷宮に潜ります。 元の世界のお菓子や娯楽を広めて、儲けたりもします。 妖精や魔物を仲間にしたりもします。 古い流行りの地の文多めの一人称小説です。 えっちなR18部分はノクターンに一部掲載してます。

ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く

ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。 人里離れた温泉旅館を買い取り。 宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。 世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。 だが主人公はボッチで誰にも告げず。 主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。 宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。 主人公は生き残れるのか。 主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。 タイトルを変更しました

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる

みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」 濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い 「あー、薪があればな」 と思ったら 薪が出てきた。 「はい?……火があればな」 薪に火がついた。 「うわ!?」 どういうことだ? どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。 これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。

処理中です...