獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
315 / 404
第四部

一度に何もかも根こそぎ変えてしまおうなんて

しおりを挟む
そうです。人はすぐ、目先のことだけで物事を考えてしまう。気に入らない者、不愉快な者、自分にとって都合の悪い者がいると、それを攻撃する。

でも、自分が、気に入らない、不快、都合が悪いと感じている相手のことを大切に思っている人間だっていたりするんです。ノーラにとってのトームのように。

確かに、共倒れになるのは好ましくありませんし、その必要もありません。十分なリソースがないのなら排除するしかなかったでしょう。けれど、排除しなくても何とかなるリソースがあるのに排除しようとするなら、それは話が違ってきます。

人間は自分にとっての大切な者を奪われることを厭う生き物です。そういう感性は獣人達にもある。ゴヘノヘが襲来した際、逃げるだけの力を持たない者はその場に残していったりもしつつ、でもそれによる犠牲を悼み悔やむ感性は持ってるんです。だからこそゴヘノヘと戦った。<戦う力>が、<戦う方法>があるなら、家族を、友人を、置き去りにはしたくなかった。

そういう感性があるからこそ、戦うんです。戦えたんです。あの時、山羊人やぎじんおさには、

『自分達も戦える』

という実感がなかった。その実感もなく、村の者達を危険に曝すことはできなかった。ゆえに従来通りに避難することを選択した。

それだけの話でしかありません。

ザフリがノーラの味方をしないのも、結局は同じ理由です。

ノーラがいるとトームまで共倒れになってしまうかもしれないから。どちらも無事に生き延びられるという確信がなかったから。決して悪意からのことではなかった。

となれば私達は、山羊人やぎじん達がノーラを迫害したこと自体、責める必要も感じないんです。きちんと、

『ノーラがいてもトームも幸せになれる』

というのを実際に示す段階なだけですから。それを示さずに、

『見捨てていい命なんてない!』

なんて声高に叫んだところで、何の根拠があるんですか? 『見捨てていい命なんてない!』と主張するためには、自身の主張を裏付ける根拠を自ら提示する必要があるじゃないですか。

それでも、人間は自身の価値観や感性というものを簡単に翻ることができないですからね。ザフリが今もノーラに対してあまりいい印象を持っていないのは、当然でしょう。

その上で、ザフリは、敢えてノーラのことには触れないようにしてくれています。攻撃的に対応するんじゃなくて、<無視>を決め込んでくれています。

今の時点では、それで十分なんです。一度に何もかも根こそぎ変えてしまおうなんて、それはただの<暴虐>です。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

Red
ファンタジー
ユウ:人助け?何それ美味しいの?それより面倒だから破壊しよ? エル:ダメに決まってるでしょっ!いい加減常識を覚えてよっ! その気になれば世界を破滅させることも出来る力を持つ少女ユウ。 色々と訳があって冒険者をめざしているエルは、ふとしたことから知り合った、常識知らずの破壊魔のユウに振り回される毎日。 ずっと封印されていた旧世代の生き残りの少女と訳アリ冒険者見習の少女が出会ったところから物語は始まる。

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

ただ好きだと言いたかった

有箱
恋愛
ただ、好きだと伝えたかっただけなのに。 気付いたら、透明人間になっていました。

料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ
ファンタジー
 遥か未来の地球。地球型惑星の植民地化が進む中、地球外知的生命体が見つかるには至らなかった。 しかしある日突然、一人の科学者が知的生命体の住む惑星を見つけて地球に衝撃が走る。  惑星は発見した科学者の名をとって惑星ヒジリと名付けられた。知的生命体の文明レベルは低く、剣や魔法のファンタジー世界。  未知の食材を見つけたい料理人の卵、道 帯雄(ミチ オビオ)は運良く(運悪く?)惑星ヒジリへと飛ばされ、相棒のポンコツ女騎士と共に戦いと料理の旅が始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

処理中です...