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第四部
一度に何もかも根こそぎ変えてしまおうなんて
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そうです。人はすぐ、目先のことだけで物事を考えてしまう。気に入らない者、不愉快な者、自分にとって都合の悪い者がいると、それを攻撃する。
でも、自分が、気に入らない、不快、都合が悪いと感じている相手のことを大切に思っている人間だっていたりするんです。ノーラにとってのトームのように。
確かに、共倒れになるのは好ましくありませんし、その必要もありません。十分なリソースがないのなら排除するしかなかったでしょう。けれど、排除しなくても何とかなるリソースがあるのに排除しようとするなら、それは話が違ってきます。
人間は自分にとっての大切な者を奪われることを厭う生き物です。そういう感性は獣人達にもある。ゴヘノヘが襲来した際、逃げるだけの力を持たない者はその場に残していったりもしつつ、でもそれによる犠牲を悼み悔やむ感性は持ってるんです。だからこそゴヘノヘと戦った。<戦う力>が、<戦う方法>があるなら、家族を、友人を、置き去りにはしたくなかった。
そういう感性があるからこそ、戦うんです。戦えたんです。あの時、山羊人の長には、
『自分達も戦える』
という実感がなかった。その実感もなく、村の者達を危険に曝すことはできなかった。ゆえに従来通りに避難することを選択した。
それだけの話でしかありません。
ザフリがノーラの味方をしないのも、結局は同じ理由です。
ノーラがいるとトームまで共倒れになってしまうかもしれないから。どちらも無事に生き延びられるという確信がなかったから。決して悪意からのことではなかった。
となれば私達は、山羊人達がノーラを迫害したこと自体、責める必要も感じないんです。きちんと、
『ノーラがいてもトームも幸せになれる』
というのを実際に示す段階なだけですから。それを示さずに、
『見捨てていい命なんてない!』
なんて声高に叫んだところで、何の根拠があるんですか? 『見捨てていい命なんてない!』と主張するためには、自身の主張を裏付ける根拠を自ら提示する必要があるじゃないですか。
それでも、人間は自身の価値観や感性というものを簡単に翻ることができないですからね。ザフリが今もノーラに対してあまりいい印象を持っていないのは、当然でしょう。
その上で、ザフリは、敢えてノーラのことには触れないようにしてくれています。攻撃的に対応するんじゃなくて、<無視>を決め込んでくれています。
今の時点では、それで十分なんです。一度に何もかも根こそぎ変えてしまおうなんて、それはただの<暴虐>です。
でも、自分が、気に入らない、不快、都合が悪いと感じている相手のことを大切に思っている人間だっていたりするんです。ノーラにとってのトームのように。
確かに、共倒れになるのは好ましくありませんし、その必要もありません。十分なリソースがないのなら排除するしかなかったでしょう。けれど、排除しなくても何とかなるリソースがあるのに排除しようとするなら、それは話が違ってきます。
人間は自分にとっての大切な者を奪われることを厭う生き物です。そういう感性は獣人達にもある。ゴヘノヘが襲来した際、逃げるだけの力を持たない者はその場に残していったりもしつつ、でもそれによる犠牲を悼み悔やむ感性は持ってるんです。だからこそゴヘノヘと戦った。<戦う力>が、<戦う方法>があるなら、家族を、友人を、置き去りにはしたくなかった。
そういう感性があるからこそ、戦うんです。戦えたんです。あの時、山羊人の長には、
『自分達も戦える』
という実感がなかった。その実感もなく、村の者達を危険に曝すことはできなかった。ゆえに従来通りに避難することを選択した。
それだけの話でしかありません。
ザフリがノーラの味方をしないのも、結局は同じ理由です。
ノーラがいるとトームまで共倒れになってしまうかもしれないから。どちらも無事に生き延びられるという確信がなかったから。決して悪意からのことではなかった。
となれば私達は、山羊人達がノーラを迫害したこと自体、責める必要も感じないんです。きちんと、
『ノーラがいてもトームも幸せになれる』
というのを実際に示す段階なだけですから。それを示さずに、
『見捨てていい命なんてない!』
なんて声高に叫んだところで、何の根拠があるんですか? 『見捨てていい命なんてない!』と主張するためには、自身の主張を裏付ける根拠を自ら提示する必要があるじゃないですか。
それでも、人間は自身の価値観や感性というものを簡単に翻ることができないですからね。ザフリが今もノーラに対してあまりいい印象を持っていないのは、当然でしょう。
その上で、ザフリは、敢えてノーラのことには触れないようにしてくれています。攻撃的に対応するんじゃなくて、<無視>を決め込んでくれています。
今の時点では、それで十分なんです。一度に何もかも根こそぎ変えてしまおうなんて、それはただの<暴虐>です。
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