あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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極刑よりも残酷な仕打ち

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こうして、

<王国に弓引く獣人>

にまつわるいざこざは、カシィフスを討ち取れたこともあって、王国としてもまさに<僥倖>という結末に終わった。

後日、改めてキトゥハの下に謝罪に訪れたクヴォルオが、詳細を語る。

そこにイティラとウルイも同席していた。二人の家を探すのは大変なので、

『キトゥハという獣人を知っているか?』

とクヴォルオが問い掛け、二人が頷いたことで丁度いいと、キトゥハの家に集まることになったのである。

「此度のことは、貴君らには本当に申し訳なく思う。王国としては『獣人に謝罪する』という形は取れないので、あくまで私、クヴォルオ・マヌバゾディ個人として私用で訪れたというていとなるが、国王陛下より非公式とはいえ承諾もいただいての謝罪となる」

そうして深々と頭を下げた。

正直、イティラや、キトゥハの娘メィニアや孫リトゥアとしては納得いかない部分も多くあったものの、だからといって事を大きくしてはカシィフスらがやったことと同じになってしまうということで、ウルイやキトゥハが諭してくれている。

「貴君らには本当に関係ない話ではあるものの、『瓢箪から駒』という形ではあってもカシィフスを討ち取れたことで、エンヴェイト殿下としても面子が立ち、何とか穏便に済ますことができた。それもこれも、ウルイ殿とイティラ殿のおかげだ。礼を言うと共に、今回の功を上げることができた功労者のお二人への非礼についても、合わせてお詫びする」

イティラとウルイに向き直り、改めて深々と頭を下げたクヴォルオに、ウルイとしてはもう思うところはなかった。

それからさらにクヴォルオは語る。

「とは言え、隣国との約定により軍を入れぬことに決まっていた地に、殿下の私兵ではあっても事実上の軍を入れたことについては大変な過ちでもあるから、エンヴェイト殿下は、ここよりずっと北の方にある僻地の管理を任されることになった。平たく言えば<左遷>だな。

しかし、さすがに王子と言えど今回のことは下手をすれば極刑もありうる暴挙ゆえ、カシィフスを討ち取れた功があってこその温情とも言える」

が、そこまで語ったところで、イティラやメィニアやリトゥアの明らかに不満しか感じ取れない表情を察し、彼は、

「もっとも、これらの話は、貴君らには何の関心もないことだろうし、まあこのくらいにしておこう」

やや苦笑いを浮かべながら打ち切った。<温情>という単語が出た時に三人が特に険しい表情になったので、王子が相応の報いを受けたとは感じ取れなかったのだとも察していた。

もっとも、実際には、事実上、王国における立場を失ったも同然なので、ある意味では極刑よりも残酷な仕打ちとも言えるのだが、<国>というものを詳しく知らないイティラ達にはまったく実感が得られるものじゃなかったのもまた事実。

そこで話を変えて、

「で、貴君らへの侘びと謝礼として、今日はいろいろ持ってこさせてもらったのだ」

自分の後ろに置いていた包みを手にして、それを広げた。

「キトゥハ殿には、痛みを抑える薬を。キトゥハ殿のご家族には今後の暮らし足しにしていただきたく銀貨を。ウルイ殿には王国随一の腕を持つ鍛冶の手による短刀を。イティラ殿には、これまた王国随一の腕を持つ職人の手による瑪瑙メノウの髪飾りを、それぞれ用意させていただいたので、ご査収いただけないだろうか」

言いながら、クヴォルオはまた改めて恭しく頭を下げた。

そんな彼に、床に臥せたままで聞いていたキトゥハが応える。

「クヴォルオ殿のお立場も、よく分かります。そして、国を差配することの難しさも、私などには到底推し量れるものではないものの、容易なことではないのはお察しします。

私としては、穏便に済ませていただけるのであれば、今回のことはもう恨んではいません。家族にも私が責任を持って分かってもらいます。ですので、これにて双方共に遺恨を残さぬように手を打ちたいと思います……」

決して力強くはないものの、もう声もかすれてしまっているものの、それでも強い意志が込められたその言葉に、イティラもメィニアもリトゥアも、矛を収めるしかなかった。

そしてウルイは、こうして諍いを収めるキトゥハの姿を、改めて胸に刻んだのであった。

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