あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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騎士の名に懸けて

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尤もこの二人が常識ある会話をしているかというと、
「で、話はついてるものだと思ってたんだけど?」
確認するようにロザリンダに問うレーゼラインに、
「話をする価値もなかったので。それに私がすることに公爵の許可は必要ありません」
と答えるロザリンダ。
「あぁそういうこと。縁切りの準備は済んでる?」
__案外そうでもなかったりするが、そこは人それぞれである。

「書類はこちらに。後は公爵にサインを貰えば完了ですわ、そのままレーゼライン様にお預けすれば早いと思いまして」
ロザリンダが言うなり、サリナがすかさず手にした書類をレーゼラインに差し出す。
「この子が一人だけ貴女が連れて行きたいって手紙に書いてた姉妹みたいに育った子?」
「はい、そうです。サリナと言います。この家で信用できるのは彼女とカエルムだけなのです、恥ずかしながら」
「酷い環境で育ったのねぇ、おまけに婚約者がコレだったなんて」
と軽く鞭にした手を引くと馬鹿その一がぐぇ、とカエルが潰れたような声をあげたが二人ともその事には頓着せずに、
「お陰で縁を切るのに躊躇う必要がなくて楽ですわ」
と会話を続けた。
「思ったより傷は深そうね……」
清清した様子のロザリンダに何を思ったのか(中身が違う人間になったとは流石に思わないので)労りの視線を向けたレーゼラインはしかし、サリナから受け取った書類に目を通すと「法的には問題ないけれどこれ、慰謝料に関する記載がないわね?」と突っ込んだ。

流石にこんなツッコみを受けるとは予想していなかったロザリンダは瞳を丸くして絶句した。
「貴女、自分をこんな目に合わせた奴らから慰謝料も取らないつもりなの?ダメよ、自分を安く見繕っちゃ」

安く見積もったつもりはない。
公爵からは罰金という名目でお金を取っていた。
馬鹿その一からもらったアクセサリーの類は売ってお金に変えておいた。
自分の手持ちの物も小振りな物を幾つか残して殆ど換金済みだ。
修道院まで自力で辿り着く手立てがなかったため、ここまで迎えに来てもらうにあたってロザリンダは高額な寄付金を手紙で約束していたが、それには今ある手持ちだけで事足りる。

「あの、寄付金の事でしたら既に「そうじゃない」、」
「え?」
「貴女の人生の先は長い。寄付金は有り難くいただくけど吊り上げるつもりはないわ。貴女が一人立ちする時、誰かを助けたい時、一番手っ取り早いのはお金よ。多くあって困るものではないわ」
「!」

そこまでは考えていなかった。
確かにそうだ。
いつかサリナがお嫁に行く時に渡そうといくつかの宝石を手元に残しはしたがそれだけだ。
ここから先は自分で冒険者になるなりして稼げば良いと思っていた。
修道院で修行する間の衣食住は保証されているがそれは他の誰かの寄付や稼ぎによって成り立っているものだ。
自分の魔力ならばすぐに外からの依頼を受けて稼いだ報酬を修道院に納められるだろうと高を括っていた。
下を向いて黙ってしまった私に、
「おい……」
と心配そうなステルンから声がかけられるが、
「私の考えが甘かったですわ!申し訳ありません、レーゼライン様!」
ばっと顔をあげて発した言葉に今度はステルンが絶句した。




*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*

真面目な子ほど、開き直ったら怖い。
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