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こうなってしまった以上は泣き言並べてもなにも解決しない

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「本当にそれでいいんですか?」

事情を聞いたバンクハンマは、声を潜めて囁くように言ってきた。他人に聞かれたら、国王陛下を批判してるとも受け取られないからだ。

だけどそんな彼に、私はただ笑って応えた。

「しかたないよ。私は元々、余所者なんだから」

この時には既に、割り切ってしまえていたからね。

だけどバンクハンマは、

「しかたないって、そんな……!」

と、納得できないって感じで唇を噛みしめてた。

しかも、

「こんな、カリンさんが大変だって時に、レンチのやつ……!」

とまで。とんだとばっちりだな。

「こらこら。そこはレンチは関係ないよ」

って諫めさせてもらう。実際、レンチが一緒に帰ってきてたとしても、他の部下達と同じで別のところに赴任させられていた可能性もある。実はそれも、私のことを快く思ってない貴族達の差し金だったらしいけど。私達をそのままにしておいたら危険だってことで。

勘繰り過ぎだけどね。私達にはそんなつもりはこれっぽっちもなかったから。

ただまあ、こうなってしまった以上は泣き言並べてもなにも解決しない。取り敢えずすることがあるんなら、私はそれをするだけだ。

「すんません。せめて俺が付いていけたらいいんだけど…!」

悔しそうにバンクハンマがそう言ってくれただけで、私はなんだか救われた気がした。

「その気持ちだけで十分だよ。家族を大事にしてあげて。あなたは元々、この世界の人なんだからさ」

「カリンさん……!」

涙まで浮かべて私を見る彼から、「せめてこれを持っていってください」と渡された米と、様々な作物の種を手に、私は一人、馬車に乗って出かけた。そんな私を、少し離れたところから、見ないふりをして見てる人の姿に気付きながら。

私がちゃんとファルトバウゼン王国を出ていくのを確認しようってことなんだろう。

ま、これも当然っちゃ当然か。

気にしても仕方ないと無視して、馬車を進め、二日後、国境を超えた。陛下から渡された通行手形があれば、友好国ならどこでもすんなり通過できる筈だった。

その、今回、<支援する国>というのは、実はムッフクボルド共和国と一部国境を接してる国だった。しかも、ムッフクボルド共和国を通り抜ければ早いんだけど、今は、下手に入国しない方がいいと思って、敢えて大きく迂回して、ファルトバウゼン王国と友好関係にある国を通って、目的の国、<ガルフフラブラ王国>へと向かう。

ただ、ファルトバウゼン陛下からの通達があったらしく、それぞれの国で護衛の兵士が国境まで同行してくれたのはせめてものことだったかな。

さすがに女の一人旅は、危険だったからね。

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