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普通にのどかな田舎の光景が広がってるだけだった

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ベルトマクタの家を出てしばらく進むと、待ち構えていたように若い男性が一人、クレフリータの傍に歩み寄って来た。

それが何やらクレフリータと目配せをして、私達の馬車に乗ってくる。

「ここから先の案内人のセルラネルトよ」

「……」

セルラネルトと紹介されたその男性は黙って私に頭を下げた。パッと見の印象だと若そうにも見えたけど、よく見ると肌の感じとか割と年齢がいってるようにも感じられて、やっぱり年齢不詳だった。無口で陰気そうにも思えるその第一印象も、もしかすると<演技>かもしれない。

ムッフクボルド共和国内であれこれするのに役に立つモノと案内人を手に入れて、私達はいよいよ、共和国側に足を踏み入れる。

こちら側は、使い古された槍を組み合わせて作った柵が見渡す限り続いてた。関を通る時には兵士に<袖の下>を渡すことになるらしいのはネセルグルスク王国と同じでありつつ、それはセルラネルトが行った。よほど顔馴染みなのか、やけに目付きの悪い兵士と言葉を交わすこともなく小さな袋を渡すと、兵士の方も中身さえ確認せずに顎で『通っていいぞ』みたいに指し示した。

雰囲気悪いなあ。

とは言え、関を越えて共和国側に入るとそこは、普通にのどかな田舎の光景が広がってるだけだった。何となくイメージで荒涼とした荒れ地でも広がってるのかなと思ったりもしてたけど、正直、拍子抜けしたって感じ。

ただ、馬車を進ませて畑の近くを通りがかった時に見ると、作物の生育状態は必ずしもいいとは言えない気がした。手入れもきちんとされていない印象がある。

もっともそれも、敢えて必要以上に手を掛けずに作物を強く育てるっていう農法もあるので、パッと見の印象だけで判断することはできないけどね。

「ちょっと話を聞いてもいいかな」

進行方向に、農民らしい人影が見えて、私はクレフリータにそう尋ねてみた。すると彼女は、

「そうね、そう言い出すと思ってたし構わないわ」

と、いかにもな<普通のお嬢さん>口調ながら意外なほどあっさりと許可してくれた。まあこの辺は、本当に普通の一般人を相手にする分にはそれほど気にしなくていいということなのかもしれない。

「こんにちは。精が出ますね」

私は馬車を降りて、農民らしき中年女性に近付いて行った。その私の隣に、ルイスベントが付き従う。万が一の時の為の警護として。

しかしその中年女性は、普通に、

「はい、ありがとうございます。あなたは?」

と笑顔で返してくれた。いかにも真面目そうな農民って感じだった。

「私は旅の行商人で、ノーラカリンと言います。この畑では何を作ってるんですか?」

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