99 / 535
普通にのどかな田舎の光景が広がってるだけだった
しおりを挟む
ベルトマクタの家を出てしばらく進むと、待ち構えていたように若い男性が一人、クレフリータの傍に歩み寄って来た。
それが何やらクレフリータと目配せをして、私達の馬車に乗ってくる。
「ここから先の案内人のセルラネルトよ」
「……」
セルラネルトと紹介されたその男性は黙って私に頭を下げた。パッと見の印象だと若そうにも見えたけど、よく見ると肌の感じとか割と年齢がいってるようにも感じられて、やっぱり年齢不詳だった。無口で陰気そうにも思えるその第一印象も、もしかすると<演技>かもしれない。
ムッフクボルド共和国内であれこれするのに役に立つモノと案内人を手に入れて、私達はいよいよ、共和国側に足を踏み入れる。
こちら側は、使い古された槍を組み合わせて作った柵が見渡す限り続いてた。関を通る時には兵士に<袖の下>を渡すことになるらしいのはネセルグルスク王国と同じでありつつ、それはセルラネルトが行った。よほど顔馴染みなのか、やけに目付きの悪い兵士と言葉を交わすこともなく小さな袋を渡すと、兵士の方も中身さえ確認せずに顎で『通っていいぞ』みたいに指し示した。
雰囲気悪いなあ。
とは言え、関を越えて共和国側に入るとそこは、普通にのどかな田舎の光景が広がってるだけだった。何となくイメージで荒涼とした荒れ地でも広がってるのかなと思ったりもしてたけど、正直、拍子抜けしたって感じ。
ただ、馬車を進ませて畑の近くを通りがかった時に見ると、作物の生育状態は必ずしもいいとは言えない気がした。手入れもきちんとされていない印象がある。
もっともそれも、敢えて必要以上に手を掛けずに作物を強く育てるっていう農法もあるので、パッと見の印象だけで判断することはできないけどね。
「ちょっと話を聞いてもいいかな」
進行方向に、農民らしい人影が見えて、私はクレフリータにそう尋ねてみた。すると彼女は、
「そうね、そう言い出すと思ってたし構わないわ」
と、いかにもな<普通のお嬢さん>口調ながら意外なほどあっさりと許可してくれた。まあこの辺は、本当に普通の一般人を相手にする分にはそれほど気にしなくていいということなのかもしれない。
「こんにちは。精が出ますね」
私は馬車を降りて、農民らしき中年女性に近付いて行った。その私の隣に、ルイスベントが付き従う。万が一の時の為の警護として。
しかしその中年女性は、普通に、
「はい、ありがとうございます。あなたは?」
と笑顔で返してくれた。いかにも真面目そうな農民って感じだった。
「私は旅の行商人で、ノーラカリンと言います。この畑では何を作ってるんですか?」
それが何やらクレフリータと目配せをして、私達の馬車に乗ってくる。
「ここから先の案内人のセルラネルトよ」
「……」
セルラネルトと紹介されたその男性は黙って私に頭を下げた。パッと見の印象だと若そうにも見えたけど、よく見ると肌の感じとか割と年齢がいってるようにも感じられて、やっぱり年齢不詳だった。無口で陰気そうにも思えるその第一印象も、もしかすると<演技>かもしれない。
ムッフクボルド共和国内であれこれするのに役に立つモノと案内人を手に入れて、私達はいよいよ、共和国側に足を踏み入れる。
こちら側は、使い古された槍を組み合わせて作った柵が見渡す限り続いてた。関を通る時には兵士に<袖の下>を渡すことになるらしいのはネセルグルスク王国と同じでありつつ、それはセルラネルトが行った。よほど顔馴染みなのか、やけに目付きの悪い兵士と言葉を交わすこともなく小さな袋を渡すと、兵士の方も中身さえ確認せずに顎で『通っていいぞ』みたいに指し示した。
雰囲気悪いなあ。
とは言え、関を越えて共和国側に入るとそこは、普通にのどかな田舎の光景が広がってるだけだった。何となくイメージで荒涼とした荒れ地でも広がってるのかなと思ったりもしてたけど、正直、拍子抜けしたって感じ。
ただ、馬車を進ませて畑の近くを通りがかった時に見ると、作物の生育状態は必ずしもいいとは言えない気がした。手入れもきちんとされていない印象がある。
もっともそれも、敢えて必要以上に手を掛けずに作物を強く育てるっていう農法もあるので、パッと見の印象だけで判断することはできないけどね。
「ちょっと話を聞いてもいいかな」
進行方向に、農民らしい人影が見えて、私はクレフリータにそう尋ねてみた。すると彼女は、
「そうね、そう言い出すと思ってたし構わないわ」
と、いかにもな<普通のお嬢さん>口調ながら意外なほどあっさりと許可してくれた。まあこの辺は、本当に普通の一般人を相手にする分にはそれほど気にしなくていいということなのかもしれない。
「こんにちは。精が出ますね」
私は馬車を降りて、農民らしき中年女性に近付いて行った。その私の隣に、ルイスベントが付き従う。万が一の時の為の警護として。
しかしその中年女性は、普通に、
「はい、ありがとうございます。あなたは?」
と笑顔で返してくれた。いかにも真面目そうな農民って感じだった。
「私は旅の行商人で、ノーラカリンと言います。この畑では何を作ってるんですか?」
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる