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ケツの毛までむしられないように気を付けるんだな

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『まさか、麻薬とかその類……?』

なんだか互いに符丁を使ってやり取りしてる感じで、しかも小さな袋に入る程度のものが上金貨十三枚っていうのを見て、ついそんなことを考えて背筋が冷たくなるのを感じた。

でもその時、ベルトマクタは改めて私を見て、

「見ての通り、この女は本当にいけ好かない抜け目のない奴だぜ。精々、ケツの毛までむしられないように気を付けるんだな」

と、意味深な笑みを浮かべながら言い放った。

それに対してもクレフリータは、

「あなたにだけは言われたくないわね」

って、ニヤリと笑って見せる。彼女が将来、どういう活躍を見せるのかっていうのを改めて垣間見せられた気がした。こうやって世界の裏側で、清濁併せ呑んで暗躍するんだろうな。ファルトバウゼン王国の為に。

<国>っていうものが安定して存在する為には、彼女のような人間も欠かせないんだろう。それは分かってるつもりだけど、この一見、十代前半くらいにしか見えない<女の子>にそういう役目をやらせることについては、なんだか腑に落ちないものを感じないでもなかった。だけど、そういう見た目だからこそ、他人を欺き見えないところであれこれするのには向いているというのもあるのかもしれない。

「私達はこれから共和国側に入るから、よろしく伝えておいて」

ベルトマクタの部屋を出る時、クレフリータは満面の笑みでそう言った。彼が私達についての情報をムッフクボルド共和国側に売ることを承知した上で言ってるんだってことが分かった。

「何のことか分からねえが、まあ心掛けておくよ」

右手をひらひらと振って私達を追い払おうとするかのようなベルトマクタの家から出て、私は気になっていたことをクレフリータに尋ねた。

「さっき受け取ったあれは……?」

それに対して彼女は、何気ない感じで袋を取り出し、私の前で巾着状になったそれの口を広げて中を見せた。

「金湯香と呼ばれる香が取れる植物の種だ。貴族の奥方連中の大好物でな。普通に買えばこの一袋で上金貨五十枚くらいの価値はある」

「上金貨五十…っ!?」

思わず大きな声が出そうになるのを慌てて飲み込む。地球の貨幣価値に換算してみるとざっと五億円くらいかな。

ちなみに上金貨は、普通の金貨の十枚分の価値がある。だから普通の金貨一枚で百万円、上金貨一枚で一千万ってとこか。ちなみに実際に純金度も上金貨の方がはるかに上で大きさも倍くらい違う。駄菓子に金メダル型のチョコレートがあった気がするけど、あれよりは少し小さいかなくらいの大きさかな。

「それなりの地位以上の人間には、下手な袖の下よりこれの方がよっぽど効果的なのだ。軽いし価値を知らん人間にとっては何の変哲もないただの種にしか見えん。金貨を無駄に持ち歩くより安全かつ効率的だ」

「はあ……」

つくづく、彼女の抜け目なさを実感させられる。

何となく事情を察していたルイスベント(キラカレブレン卿)は苦笑いを浮かべ、その辺りの事情を知らないバンクレンチ達はただ感心してるだけなのだった。

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