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そんな彼女のためになら
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そんな、<傀儡のような者>に比べれば、ヒャクは潤いに溢れていた。
中身が満たされているから、心に余裕がある。
家族を全て喪い生贄に貶められ打ちひしがれてもなお、彼女を満たしていたものは尽きなかった。だから僕を気遣う余裕も生まれる。
相手を気遣えるから、相手からも気遣ってもらえる。自分ばかりを気遣ってもらおうとすれば疎まれる。
多くの人間達は、僕を敬っているフリをしながら、その実、一方的に僕がもたらす恩恵に与ろうとしていただけだ。
僕への敬意を示すための<作法>さえ、
『こうしておけば敬っていることになるに違いない』
という勝手な思い込みでしかなかった。しかもそれを盲目的に信じるだけで僕が本当にそれを求めているのかを知ろうともしなかった。
そんなものが、<相手を敬う態度>だとでも言うのか?
はっきりと言ってやる。
『そんなものは、己を慰めるための独りよがりだ!』
とな。
<巫女>と呼ばれる者に<神託>という形で僕が本当に求めているものを託したりもしたというのに、それを口にした巫女を、人間達は、
『悪神に憑かれた!!』
と言って首を刎ねたりさえした。
自分達が思っているものを忖度した言葉でなければ認めないんだ。
人間達は、本心では僕を敬ってなんかいないんだよ。
ここにきた時のヒャクも、それは同じだった。自分が言い聞かされてきたものをただ盲信しているだけで、僕のことを見ていなかった。
けれど、今は違う。僕が<竜神>であるとかどうとかいう前に、僕自身を見てくれているのが分かる。伝わってくる。
それがいい。それでいいんだ。
『相手を見ない』
というのは、蔑ろにしているのと同じだ。それで『敬っている』などと、どの口が言う?
ヒャクは僕を見ている。僕を見て、僕の言葉に耳を傾けて、僕の意図を知ろうとしている。分かろうとしている。
これこそが、
『相手を敬う』
ということだ。
相手が自分と違っているという<理>と向き合う姿だ。
僕とヒャクは違う。<竜神>と<人間>という違いを脇に置いたとしても、<別の存在>なんだ。彼女はそれを分かっている。
それは、彼女の祖父母や両親が、彼女を、
<自分とは別の存在>
として認めていたからだろうな。祖父母や両親がしていたことを彼女は真似ているだけに過ぎない。
それが僕には心地好い。
僕をただいいように利用してやろうという下心が彼女にはない。
僕の背中を撫でる手からもそれが伝わってくる。ただただ僕を労ってくれているだけだ。
そんな彼女のためになら、雨の一つや二つくらいは、降らせてもいい。
素直にそう思えるんだ。
中身が満たされているから、心に余裕がある。
家族を全て喪い生贄に貶められ打ちひしがれてもなお、彼女を満たしていたものは尽きなかった。だから僕を気遣う余裕も生まれる。
相手を気遣えるから、相手からも気遣ってもらえる。自分ばかりを気遣ってもらおうとすれば疎まれる。
多くの人間達は、僕を敬っているフリをしながら、その実、一方的に僕がもたらす恩恵に与ろうとしていただけだ。
僕への敬意を示すための<作法>さえ、
『こうしておけば敬っていることになるに違いない』
という勝手な思い込みでしかなかった。しかもそれを盲目的に信じるだけで僕が本当にそれを求めているのかを知ろうともしなかった。
そんなものが、<相手を敬う態度>だとでも言うのか?
はっきりと言ってやる。
『そんなものは、己を慰めるための独りよがりだ!』
とな。
<巫女>と呼ばれる者に<神託>という形で僕が本当に求めているものを託したりもしたというのに、それを口にした巫女を、人間達は、
『悪神に憑かれた!!』
と言って首を刎ねたりさえした。
自分達が思っているものを忖度した言葉でなければ認めないんだ。
人間達は、本心では僕を敬ってなんかいないんだよ。
ここにきた時のヒャクも、それは同じだった。自分が言い聞かされてきたものをただ盲信しているだけで、僕のことを見ていなかった。
けれど、今は違う。僕が<竜神>であるとかどうとかいう前に、僕自身を見てくれているのが分かる。伝わってくる。
それがいい。それでいいんだ。
『相手を見ない』
というのは、蔑ろにしているのと同じだ。それで『敬っている』などと、どの口が言う?
ヒャクは僕を見ている。僕を見て、僕の言葉に耳を傾けて、僕の意図を知ろうとしている。分かろうとしている。
これこそが、
『相手を敬う』
ということだ。
相手が自分と違っているという<理>と向き合う姿だ。
僕とヒャクは違う。<竜神>と<人間>という違いを脇に置いたとしても、<別の存在>なんだ。彼女はそれを分かっている。
それは、彼女の祖父母や両親が、彼女を、
<自分とは別の存在>
として認めていたからだろうな。祖父母や両親がしていたことを彼女は真似ているだけに過ぎない。
それが僕には心地好い。
僕をただいいように利用してやろうという下心が彼女にはない。
僕の背中を撫でる手からもそれが伝わってくる。ただただ僕を労ってくれているだけだ。
そんな彼女のためになら、雨の一つや二つくらいは、降らせてもいい。
素直にそう思えるんだ。
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