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中身の空ろな傀儡

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クレイの姿をした僕の背中を流すヒャクの手にも、敬いと慈しみが込められているのが分かった。それができる彼女がどれだけヒアカやクレイに愛されていたのかも分かる。

両親や祖父母にしてもらったことを彼女はしているだけなんだ。

親に愛されたことのない生贄は、他人との関わり方を知らなかった。親に愛されていた者でも下手なやつは下手だったけれど、一度打ち解ければ後は本当の家族のように振る舞えた。でも、愛されたことのないやつは、『打ち解ける』ということができなかった。親しげに話していてもその態度は上滑りしていて、相手への<敬い>が乗っていなかった。

だから相手からも本心では打ち解けてもらえない。上っ面の言葉だけを交わし、そこに潤いはなかった。だから魂が乾いていく。風に舞う砂のような時を過ごし、周りに同じ生贄達がいてもその心は孤独だった。

かと思えば、他の者からの慈しみをただ欲し、それを向けてもらえたとなれば、

「もっと! もっと……!」

と幼子のようにねだるばかりで相手には何も与えず、ゆえに疎まれ、見捨てられたりもしていたな。

そして中には、疎まれたことを逆恨みして、刃物を手に襲い掛かった者もいた。

でも僕は、この洞の中でそんな死に方をするのは許さない。

ーっっ!!」

僕が気勢を打ち付けると、襲いかかろうとした者ははくを叩きのめされて気を失い、その場に崩れ落ちる。

その後、他の者と一緒にしておけないことを悟った僕は、かの者をさらに洞の奥に置いて、僕の話をただ聞くだけの役目を与えたりもした。

「お前は相手から奪うばかりで何も与えようとしない。そんな者をいつまでも相手にしていられるほど人間というものは強くない。お前が他の者から疎まれたのは結局はそれだ。

だが、お前が相手に何も与えられないのも分かる。お前はこれまで何も与えてもらえなかったからな。余人に与えるべきものがお前の中にないのだ。だから僕がお前に与えてやる。お前の命がある限りな」

そうやって僕は、本当ならばその者の親が語るべきだったことを延々と言い聞かせたりもした。

他に何をすることも許さず、命の火が燃え尽きるまで何十回と季節が巡る時を過ごしたんだ。

僕は<罰>のつもりだったんだけど、最後は、乳をたっぷりと飲んだ赤子のように満ち足りたかおで眠ったよ。

その者は、つまるところ、構ってもらいたかったんだろうな。自分が満足いくまで。

人間の親は、自分ばかりを先にして子を己の下僕のように使う者も多いが、そのようなことをしているから、この者のように余人に与えられるものを持たぬ、中身のうつろな傀儡くぐつが出来上がってしまうんだ。

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