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第四世代

凛編 社会と装置

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以前にも言ったと思うが、

『すべての人間が一つの目的に向かって何一つ間違えることなく自分の役目を果たせる』

なんてのは、<社会>とは言わない。それは<装置>だ。

ロボット達を見ても分かるだろう? ロボットを構成している部品が全て正確に確実にそれぞれの役割を果たさないとまともに機能しない。

ホビットMk-Ⅱによるシミュレーションで<社会>を再現していたりもしたが、あれも別に、それぞれのホビットMk-Ⅱに個体差があったわけじゃなくて、そういう役割を与えて、その通りに振る舞ってただけだしな。<個々の考え>はそこにはない。意識も人格もない。与えられた役目を確実にこなすための機能があるだけだ。

だからこそあれはシミュレーションとして成立していた。トラブルが起こっているように見えても、あれは敢えてそういうことが起こるように仕向けられていただけでしかないんだよ。本当に偶発的に起こったものじゃない。

だが、人間社会では、個々人がそれぞれに自我を有していて、その時その時の状況や環境に影響されつつも自らの考えで行動しているんだ。与えられたプログラムに沿って動いているわけじゃない。<部品>が各々勝手に判断して行動なんてしてたら、ロボットは機能さえしないし、あれはシミュレーションとして成立しないだろう。

確かに、<社会実験>と言われるタイプのシミュレーションなんかだと、実際に人間を用いて行われるが、そっちはあくまで、

『身勝手な人間が実際にどう振る舞うのか?』

を見るためのシミュレーションだからな。ホビットサンク村でのそれとは意味合いが違う。あっちは、

『これまでに蓄積された<人間の身勝手さ>を数値化してチャートにしたもののどれが選ばれるか?』

という形のものでしかない。実際の<人間の身勝手さ>とは別なんだ。

だからそもそも画一的に決められたとおりには振る舞えないんだよ。人間は。

もし、<全知なるもの>が本当に存在するならすべての人間がどのように振る舞うのかもあらかじめ分かるはずだから、『すべてを想定』どころか結果そのものが事前に分かっていなきゃおかしいだろう。なのにそれを示す事象は一切確認されていないそうだ。

だから<全知なるもの>は存在しないし、そんな存在を表現できる人間も存在しない。

後になって、

『すべて分かっていた』

とか言ったところで、本当に分かっていたのかどうかを証明する方法もない。

当然、俺も、ここで今後何が起こるのかなんて分かるはずもない。分かるはずもないからこそ備えるんだ。

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