オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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他の群れ

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そうだ。いろいろとありはしたが、ジョーカーはそれでも<ボスとしての役目>は果たしていた。この程度の殺傷など、オオカミ竜オオカミの生涯の中ではさほど特別なものでもなかった。自分の生みの親が相手だろうと、兄弟姉妹が相手だろうと、幼い子供が相手だろうと、<敵>と見做せば容赦なく殺し、その肉を貪る。

ただ少々、ジョーカーやクイーンは<タガ>が外れているというだけのことだ。

だから、普通に暮らしていれば問題はなかった。なかったのだが……



その日、ジョーカーは、生まれて初めて<他の群れ>というものを見た。彼が縄張りを奪った群れは、本来なら彼が属しているはずの群れだったので、実を言うと厳密には<他の群れ>とは言い難かっただろう。だからこの時に見たのが厳密な意味での<他の群れ>だった。

しかし彼はそれを見た瞬間、自身の奥底で何かが爆発するかのように膨れ上がるのを感じた。<攻撃衝動>だ。それは彼の攻撃衝動を激しく揺さぶったのだ。

風が運んでくる匂い。そこにまぎれもなく彼が憎悪するものが含まれていた。

自身と血を分けた存在の匂い。

向こうもこちらに気付いていて、強い警戒と同時に戸惑いを含んだ目でじっとこちらを見ていた。

ジャックだ。この日、ジョーカーは、ジャックの群れと遭遇してしまったのである。

ただ、別に、『獲物が獲れなくて困っている』とか、『群れをもっと大きくしたい』とか、そんな理由では全くなかった。

そう、言ってしまえば、

『間が悪かった』

だけなのだ。ジャックの群れの中に、ジョーカーの並外れた凶暴性のスイッチを入れてしまう存在がいたというだけに過ぎないのである。

何という<運命の悪戯>か。

「ガアアアアアーッッ!!」

それを察した瞬間にジョーカーのタガは外れ、まるで弾丸のようにジャック達目掛けて走り出した。するとその衝動にてられたのか、クイーンも駆け出した。さらには、仲間達も。

「ガアッ!?」

ジャックは驚いたが、それは一瞬のことだった。自分達に敵意を向ける者が猛然と駆けてくるのだ。迎え撃たなければいけない。幼体こども達は下がらせ、その上で雄も雌もなく、戦える者は前に出た。ジャックを先頭に。

ジャックもその恵まれた体躯に力を漲らせ、訳も分からずに自分達に敵意を向ける余所者を睨み付けた。

が、先頭を切って突っ込んできた<そいつ>は、一番前にいたジャックには脇目も振らず、彼の脇にいた雄に襲い掛かった。

「ガッッ!?」

まさかの事態に驚いたその雄も、ジャックの群れで鍛え上げられた主力の一角である。食らい付いてきた<そいつ>の一撃を躱し、その横っ面に頭突きをかましたのだった。

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