上 下
78 / 125
5巻

5-2

しおりを挟む
 スライムちゃんは持ち帰りについてはもちろんだが、ショーケースの中ですら長持ちしない。そのため一日に作る量は限られていて、売り切れ次第その日は終了という販売スタイルにしている。
 ご家族へのお土産みやげにしたかったのだろうか?
 そういえば以前来店した時、次回は奥さんと息子さんを連れてくるって言っていたけど……今日はスライムちゃんを食べに急いで一人でやってきたのかな?

「そうか。フルーツ好きの妻にも是非食べさせてあげたかったな……期間限定とのことだけど、これはいつまでやっているのかな?」
「本日から半月ほどの予定です。一日の数にも限りがありますので、お早めにご来店していただければと思います」
「そうか……おお! 申し訳ないが会計をしてくれるかな」

 カシアンさんが焦ったように財布を出す。どうやら仕事の合間に抜け出してきたようだ。早く戻らないとまた怒られると言い、急いでお金を支払うと席を立った。

「ありがとうございました」
「うんうん。また来るから」

 ビビアンさんが慌ただしく出ていくカシアンさんを見ながら尋ねる。

「お急ぎだったのかしらね?」
「はい。どうやら仕事を抜け出してご来店されたみたいです」
「ふふ。あの方の変わった変装はなんでしょうかね? 見ていて飽きない方ですよね」

 ビビアンさんが優しい目でカシアンさんが出ていったドアのほうをながめて言う。
 カシアンさんは実は凄くモテるのかもしれない。
 あの母性本能をくすぐるちょっと天然なところに、カワウソのような愛らしさ、子供に対する分け隔てない温厚な対応――やるな、カシアンさん。
 それに奥さんに一途って感じなのも私の中では好感度が高い。カシアンさんの奥さんは、ロイさんのお姉さんだ。ミカエルさんが言うには、オーシャ商会の経営手腕は奥さんによるものらしいから、しっかり者とちょっと天然者の二人はお似合いなのかもしれない。
 それにしても、カシアンさんのお菓子に関しては妥協しないってところには、私と同じ匂いを感じる。
 オーシャ商会の菓子店レシア、一度行ってみたいな。
 でも、一人では行けなそう。ミカエルさんはオーシャ商会にも顔を知られているから誘えない……。うーん。
 厨房にいるルーカスさんを凝視すると、気づいたルーカスさんがすぐにこちらへとやってきて小声で尋ねる。

「何か問題でも?」
「ううん。今度、私とデートに行かないかなって思って」

 こっそりと耳打ちすれば、ルーカスさんが声を押し殺しながら言う。

「ちょ、お、おい! 何を言い出すん――言いだすのですか」
「オーシャ商会のお菓子、気になりませんか?」
「あぁ。そういうことですか……驚いてしまいました」
「あ、本当のデートが良かったですか?」
「冗談でもやめてください。ジョーさんに殺されてしまう」

 結局、菓子店レシアには、スライムちゃんの販売期間が終わった後にルーカスさんと一緒に行くことになった。
 せっかくなので、ルーカスさんの家族も招待することにした。そのほうが家族連れの子供の一人として溶け込めるだろう。きっとカシアンさんの変装よりは誤魔化ごまかせると思う。
 その後、忙しく働いていたら七の鐘が鳴るのが聞こえた。午後六時、リサの閉店の時間だ。
 いつもなら私はすでに帰っている時間だけど、今日はルーカスさんが他の従業員にエッグセパレーターと泡立て器を披露するというので、この時間まで残っていた。
 ジョーたちやミカエルさんには今日は遅くなると承諾をとっている。あとでミカエルさんが迎えに来てくれる予定だ。
 掃除を終えたビビアンさんに声をかける。

「お疲れ様です」
「ジェームズ君もお疲れ様ね。今日は迎えが遅いのね」

 ビビアンさんが心配そうに尋ねる。中央街の治安は比較的良いが、昼と夜ではまるで雰囲気が違っていて別の街になる。

「大丈夫です。今日は後でミカエルさんが迎えに来ます」
「そうなの? 分かったわ。私はもう帰るけど気をつけてね」

 ビビアンさんと他の接客相当の従業員が店を後にする。
 店内の灯が消え、暗く静かになった店内……それがなんとなく寂しく感じた。
 窓から見える正面の本屋の前には、数台の馬車が停まっている。
 数日後には新学期が始まるので、学園関係のお客さんで忙しく、この時期が本屋にとっての繁忙期だと、この前ミカエルさんに聞いた。
 昼間は書籍の保護のために窓を閉め切っているので中に入ったことはないけど、その影響でリサも学生の客層が増えたとビビアンさんが言っていた。
 地方の新入生は、学園が始まる数か月前から王都入りしているらしい。在学生も新学期の準備のため、二週間前からすでに寮や別邸で準備をしているということだ。
 厨房にいたルーカスさんが扉から顔を出す。

「ジェームズ、厨房に来てくれるか? これからみんなに説明をする」
「はい。今、行きます」

 厨房には、ルーカスさんに集められた料理人が揃っていた。副料理長のレイラさんたちをはじめ、新たに雇った料理人たちと見習いのベンジャミン、それにフィンもいる。彼らの後ろには主に雑用をこなす下働きの静かな女の子もいた。彼女の名前はルーというらしい。とても素敵な名前だ。カレーが食べたくなる。

「みんな、集まったか? 休みだった奴は呼び出してすまんな」
「二階から降りてくるだけだから、大したことはない」

 料理人の一人が答えると、みんなが笑い出した。

「確かにそうだな。ま、夕食も準備したから食べていけ。今日、みんなを呼んだのはこの調理器具の使い方を説明するためだ」

 ルーカスさんが準備していた泡立て器とエッグセパレーターを披露する。

「これは、泡立て器と……穴の空いた皿のほうは何に使うのでしょうか?」

 レイラさんが不思議そうにエッグセパレーターを持ち上げると、後ろにいたフィンが目を見開いた。

「あ!」
「え? フィン、どうしたの? 急に大声を出して」

 フィンの目がテーブルに準備されていた卵に移る。
 どうやらフィンはエッグセパレーターの用途に気がついたようだ。さすが卵の黄身と白身を分ける作業をたくさんしているだけある。

「これは、もしかしたら卵を分けるための調理器具ですか?」
「そうだ。よく分かったな、フィン。これはエッグセパレーターという、オーナーからいただいた調理器具だ。今はこの店にしかないものだから皆、他言無用たごんむようで頼む」

 ルーカスさんが秘密にするように釘を刺すと、全員が頷きながら『はい』と声を合わせた。
 エッグセパレーターをフィンが最初に試すことになった。卵をスプーン型のエッグセパレーターの上で割り、綺麗に黄身と白身に分かれると厨房から歓声が上がった。
 業務用に作ってもらった七個分のエッグセパレーターも問題なく使用することができた。

「これは凄い。俺、卵を分けるのにすげぇ時間がかかっていたから」
「フィン、これで俺たち別のことも練習できるぜ」

 ベンジャミンとフィンはエッグセパレーターから落ちる白身を嬉しそうに見ながら言う。

「よし、次は泡立て器を試してみてくれ。レイラ、頼む」
「はい。それでは、いきます」

 レイラさんがルーカスさんから渡された泡立て器を使い、短時間でメレンゲを作り上げると、料理人全員が目を見開いた。
 レイラさんの泡立て技術はきっとこの店で一番だけど、今まではこんなに早くメレンゲを作ることはできなかった。
 レイラさんがルーカスさんに詰め寄りながら尋ねる。

「こ、この泡立て器はどこで売ってますか?」
「レイラ、近い近い」

 泡立て器へのこの反応は、どの料理人でもほぼ一致するのが面白い。
 ジョーなんて泡立て器を使いたいがために、最近マヨネーズを大量生産したせいで、ここ数日、毎日マヨネーズを使った料理が出ている。今日の朝食もポテトサラダ、ハムと野菜のマヨサンド、たまごサンド、それから山盛り野菜と共にテーブルには大きなマヨネーズの瓶が置いてあった。
 おかげでジョーはもうマヨラーの一歩手前だ。その内、マヨネーズ料理を極めそう。
 ああ、マヨネーズのことを考えていたら、ケチャップとマヨネーズを混ぜたオーロラソースを付けたエビが食べたくなってきた。ジュルリと出たヨダレを急いで隠す。
 料理人全員が交代で泡立て器を使い始める。

「こんなに簡単に泡立つのか?」
「あんなに時間をかけて習得したのに……」
「これは楽しい」

 全員が従来の泡立て器より断然使いやすいと評価してくれる。良かった。
 今までの泡立て器も決して使えない道具ではなかった。
 ただ、あのほうきみたいな形のものでメレンゲを綺麗に泡立てるのには、それなりにテクニックと時間が必要だった。そのせいで素材が無駄になることもあったという。
 できるだけ無駄を省き、料理人たちが少しでも楽ができるようにこれからもいろいろと作りたいと思う。

(実際に作るのはジェイさんだけど……)

 新しい調理器具の披露後、ルーカスさんの作ったグリルした鶏と煮豆をみんなで食べる。鶏はハーブと酸味の調和がよく取れていて美味おいしかった。お代わりをしようと思ったけど、きっとジョーが夕食を作って待っているだろうからやめる。
 お皿の後片付けをしていると、ミカエルさんが裏口から顔を出す。

「ジェームズ、迎えに来ましたよ」
「ミカエルさん! 今、出ます」

 従業員たちと別れ、ミカエルさんと馬車に乗る。

「ミリー様、新しい調理器具を拝見しました。私は料理人ではないので分かりませんが、商業ギルドの器具開発者も絶賛しておりました」
「そうなんですか! それは嬉しいです」
「今は非公開とのこと、売り時が来たら是非お声がけをお願いいたします」
「もちろんです!」

 調理器具に関しては、簡単なものは低価格や無料で公開する予定だとは……ミカエルさんたちにはまだ伝えないでおこう。今日は安全に帰りたいしね。
 無事に猫亭ねこていへ帰宅、今日はいつもよりだいぶ遅くなったので裏口からこっそりと帰る。
 ディナーの忙しい時間が過ぎ、この時間は飲みの時間だ。食堂に昼とは違う雰囲気が漂っているが、顔見知りもちらほらいた。

(あ、ザックさんがまた別の女の子といる)

 一応、帰ってきたことを伝えるために厨房を覗くとジョーと目が合う。

「ミリー、帰ったか」
「遅くなったけど、ちゃんとミカエルさんに送ってもらったよ!」
「夕食あるぞ。食うか?」
「うん。今日は何?」
「野菜とハムのマヨネーズ炒めと、グラタンのマヨネーズ掛けオーブン焼きだ」
「……わーい」

 マヨネーズ祭りだぁ……


  ◆


 二回目の夕食を終え、よろよろしながら四階へと上がる。

(今日は完全に食べすぎた)

 二回も夕食を食べたのは失敗だった。お腹がいっぱいで苦しい。
 魔法を使用すればお腹が減るので、夜の魔力消費を頑張ろう。
 関係性は詳しくは分からないけど、これだけ食べているのにもかかわらず、ふくよか幼女にはなっていない。やはり魔力を使うと同時にエネルギーも使っているのだろうか?
 部屋に戻るとマリッサが奥から顔を出す。

「ミリー、帰ったのね。思っていたより遅くて心配したわよ」
「下で夕食を食べていたら遅くなっちゃった。ジークは?」
「これから寝かしつけるところよ」
「私が寝かしつけるね!」

 風呂上がりのジークをベッドへ寝かせ、プラネタリウムを点けてポンポンと背中を優しく叩く。すぐに寝息が聞こえてくる。プラネタリウム、本当に優秀だ。

「おやすみ。ジーク」

 寝室のドアをゆっくりと閉め、いまだに満腹のお腹をさすりながら自分の部屋へ向かう。
 気のせいか息がマヨネーズ臭い……ジョーのマヨラー化を阻止しなければ。家族のためにも最重要案件だ。こういう時はいつもならマリッサがストッパーになるんだけど、マリッサもマヨラーだった……
 マヨネーズはほぼ油だ。ジョーが作るマヨネーズの油はオリーブオイルではあるが――

「打倒。マヨネーズ!」

 私だってマヨネーズは好きだ。でも、いくら好きでも何日も連続で食べると……
 マヨネーズを変化させることはできる。タルタルソースとか、ハニーマスタードとか、オーロラソースとか……でも結局どれもマヨネーズなのだ! 
 毎日ではなく、たまに食べるから美味おいしいと感じる。砂糖は……別腹です!
 少し前まではなかった贅沢な悩みだ。
 マヨネーズは衛生面を考慮して、猫亭ねこていで使う以外、まだ世間には出していなかったけど……こちらの人はマヨネーズの味が好きなのかもしれない。確かに刺激臭もなく色も禍々まがまがしくない。味は美味おいしく、ほぼなんにでも合う。考えれば最強の調味料だ。
 この国では、みんなよく働き動くのでふくよかな人は少ない。貴族だと平民ほど肉体労働はしないのかもしれないけど、やっぱりふくよかな人は見かけない。魔力でエネルギーを消費しているのだと思う。以前遭遇した意地悪貴族のフィット男爵は例外だから、魔力が低くて大食いなのか……それとも、消費が追いつかないくらい食べているのか? 体質ってこともあるだろうが、巨体のせいで馬車に乗るのも大変そうだった。
 ジョーが最近よくマヨネーズを作っているのは、新しい泡立て器を使いたいからだ。
 少ししたら飽きて、マヨネーズ祭りも終了すると思っていたけど……まさか、エブリデーマヨ地獄に陥るとは思っていなかった。
 泡立て器が使える別の食材……生クリーム? それとも、アイスクリームか? でも、デブ食にデブ食をぶつけて意味はあるのだろうか? 
 普通にアイスクリームを食べたい……
 すでに魔法の話を二人にした今なら、氷魔法でアイスクリームを作ることができる。エブリデーアイスのほうがエブリデーマヨネーズよりはマシだよね……?
 よし! 明日はアイスクリーム日和びよりだ。

「アイ・スクリーム・フォー・アイスクリーム!」

 拳を上げ、一人叫ぶ。
 そうと決まれば、今日の魔力消費のお題はアイスクリーム対マヨネーズにしよう。プレーンアイスとマヨネーズは同じ色になってしまうけど……どうせ土魔法から出てくるものは結局どれも土色なんだよね。
 とりあえず、人の大きさほどあるチューブ型マヨネーズを土魔法で出してみる。手足を生やし……あれ、バランスが悪い。こうしてああして――

「わぁ……妖怪ができた」

 想像力の欠如なのか? チューブ型まではちゃんとマヨネーズだったんだけどなぁ。
 歩けるように手足を生やしたところでいびつな形になりすぎた。最初に生やした二本の足ではきちんと立たなかったので三本目の足を加え、手を床につくまで伸ばした。それでもバランスが上手く取れず、次に大きな車輪を付けた。
 上手く動かすことができずに前後に揺れるマヨネーズをながめる。

「これじゃまるで水のみ鳥の置物……」

 土魔法で作ったマヨネーズの容器の中には、粘りのある水を水魔法で入れたんだけど……マヨネーズを歩かせようとする度に、バランスを崩して上の部分から粘り気のある水が飛び出す。
 これは、ポップコーンウーマンとマシュマロマン以来の謎の大作かもしれない。
 マヨネーズ一人では可哀想なので、ケチャップとソースを今度はパウチ型で出す。これならこのまま動きそうだ。マヨラー、ケチャラー……ソースラー? が揃ったところで、次はアイスクリームの番だ。
 まずはコーンに入ったアイスとカップアイスを土魔法で作ってみる。地味な見た目だけど、綺麗にできた。次にソフトクリームを作ってみたのだけど……色が土色なのでビジュアルが悪い。すぐにソフトクリームは消す。代わりに中に板チョコが入ったモナカアイスを土魔法で出してみる。

「おお。ちゃんとチョコレートに見える!」

 チョコレートか……私のチョコレートへの切符は王太子であるレオさんのみが握っている。金持ちニートだと思っていたのに……王族ってことでなんだかハードルが上がったけれど、次回は必ずレオさんからチョコレートの情報を聞き出したい。
 さて、マヨネーズにモナカアイスと、戦いの選手も揃ったので、部屋の中央に試合会場を設置する。観客は夏祭りにも使った盆踊りのネズミと同じものをたくさん土魔法で出す。
 ライトでスポットライトを作り、自分に向けながら中央のステージに上がると、場外には部屋を埋め尽くすほどのネズミがいた。あれ、いつもより多く出たのかな? とにかく、ネズミで埋め尽くされた観客席に向かって手を上げる。

「右コーナー! マヨネーズ。左コーナー! モナカアイス。はじめ!」

 土魔法で作ったゴングを鳴らす。
 最初の攻撃はマヨネーズだ。マヨネーズ搾り攻撃だ。一気にマヨネーズの中身がモナカにかかり、チョコレートの隙間を埋めていく。身体が重たくなったモナカアイスはバランスを崩し、リングの上に片膝を突く。
 勝負は決まったかのように見えたが……マヨネーズも全身の水分が抜け、バランスを崩してひっくり返った。これは、引き分けだな。
 いろいろと汚れたリングと床を無言でながめる……

「うん、寝るかな」

 全ての魔法を消して、白魔法を連発してベッドへと倒れ込み気絶する。

「むにゃ……アイスクリーム~」



  アイスクリーム


 気絶から目覚め背伸びをしながら部屋を出ると、すでにテーブルには朝食が並べられていた。もちろん、ここのところ毎日登場しているマヨ様も並んでいる。
 ジョーがジークを膝に乗せている。マリッサが野菜にマヨをつけてパクパク食べながら挨拶をする。

「おはよう、ミリー」
「お母さん、おはよう。いい匂いだね」

 席に座り、野菜にマヨをつけ食べる。あ! これは、ニンニクマヨだ! ジョー、さすがだね。ジョーの料理の進化が凄い。

「むー」

 ジークはニンニクの匂いが嫌いなようで、ニンニク臭がするエプロンを着けたジョーはジークに全身で拒否される。

「臭かったか? ジークにニンニクの香りはまだ早いのか?」 
「ジークはマヨネーズ自体、あまり好きではなさそうだね」
「ああ、そうなのか。ガレルの奴もマヨネーズは苦手みたいだしな」

 確かに酸味があるしね。マヨネーズが苦手な人もいるだろうね。ガレルさんの場合、毎日味見をさせられて嫌になったのかもしれないけど……
 今日は、昨日の夢にも出てきたアイスクリームを作りたい。

「お父さん。今日は作りたいものがあるのだけど」
「なんだ? 菓子か?」
「うん。泡立て器を使えるよ」
「おお! そうか、いいな!」

 ジョーが嬉しそうに返事をすると二人で厨房へと向かう。今日は、ケイトがお休みの日なので猫亭ねこていのお手伝いをする予定だ。ケイトは休みを使って三階の部屋を掃除するそうだ。
 今日のランチはポテトサラダについたハンバーグと、コールスローについた唐揚げ……メインと付け合わせの量が完全に逆になっている。お客さんは気にせず、みんな美味おいしそうに食べているので問題はなさそうだけど……
 ランチの最後のお客さんが帰ると、笑顔のジョーがドスンとバケツコールスローを目の前に置く。

「みんな、おつかれ。昼食だ」
「マヨネーズ……」

 バケツを見るガレルさんの顔色が悪い。
 コールスローの中身は、キャベツ、ニンジン、コーンとシンプルなものだ。レシピはジョーのオリジナル。そしてたぶん、マヨネーズマシマシだ。これはこれで美味おいしいんだけどね。

「ミリー、こっちもあるぞ」
「わーい、唐揚げだ!」

 しかも、揚げたてだ! 
 昼食をお腹いっぱいに食べ、厨房へと向かうと、泡立て器とボウルを持ったジョーが不思議そうに尋ねてくる。

「ミリー、卵がないんだが……何か知らないか?」

 ジョーにそう尋ねられ無言の笑顔を向ける。卵は少し前に別の場所へとさっさと隠した。アイスクリームにも必要だけど、不必要なマヨネーズをさらに量産されそうなので一旦隠したのだ。

「お父さん、今日は別のものを作ろう!」
「おう……そうだったな。それで、どんな菓子を作りたいんだ?」
「えーと。冷たいお菓子、アイスクリームだよ!」
「あいすくりーむ……?」

 ジョーはアイスクリームの想像がつかないようで、クリーム系の冷たいスープかと尋ねてくる。

「スープとは違うけど……冷たくて甘い――雪のようなお菓子だよ」
「雪か……まぁ、とにかく作ってみるか」

 ジョーが見ていない間に下の棚に隠していた卵を取り出し、手渡した。

「ミリー。卵はどこから出したんだ?」
「え? 普通にここにあったよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

お姉ちゃん今回も我慢してくれる?

あんころもちです
恋愛
「マリィはお姉ちゃんだろ! 妹のリリィにそのおもちゃ譲りなさい!」 「マリィ君は双子の姉なんだろ? 妹のリリィが困っているなら手伝ってやれよ」 「マリィ? いやいや無理だよ。妹のリリィの方が断然可愛いから結婚するならリリィだろ〜」 私が欲しいものをお姉ちゃんが持っていたら全部貰っていた。 代わりにいらないものは全部押し付けて、お姉ちゃんにプレゼントしてあげていた。 お姉ちゃんの婚約者様も貰ったけど、お姉ちゃんは更に位の高い公爵様との婚約が決まったらしい。 ねぇねぇお姉ちゃん公爵様も私にちょうだい? お姉ちゃんなんだから何でも譲ってくれるよね?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。