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五話「精霊の神子」
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ヴォルフリック視点
◇◇◇◇◇
私の体から弟が離れていく。私はとっさに手を伸ばし弟の体を支えていた。
弟のプラチナブロンドの髪は、灰色がかった茶色に変わっていた。
弟を支える腕から伝わってくる温度がとても低い。まるで魔力が全て抜けたように。
さらりと肩に落ちてきた自身の髪に目をやれば、銀色に輝いていた。
「バカな……」
なぜ私の髪は銀に戻った?
灰茶色に変わった弟の髪、同時に銀に戻った私の髪、魔力を消失した弟の体。
そこから導き出される答えは一つ、弟が私に光の魔力を渡した……?
私を助けるために自分の魔力を全て使ったというのか?
だがそうでなければこの現象に説明がつかない。
「なぜだ」
なぜ自分の命の危機にさらしてまで、私を助けた。
「いたぞ! ここだ!」
「死ね! 黒髪!」
「闇の力を持つ悪魔め!」
民衆が牢に乗り込んできた。
手に鍬(くわ)や鋤(すき)を手にし殺気立っている。
先ほどまでの私なら、奴らに殺されても構わないとやけになっていた。
だが今はそんな気はしない。
私が死ねばこの場にいる弟も一緒に袋叩きにされるだろう。
弟を死なせる訳にはいかない!
ゆっくりと立ち上がり、突き刺すような視線で相手を射すくめる。
「どけ!」
殺気を込め一喝すれば相手が一瞬怯んだ。
「だ、だ…まれ! 黒髪!」
「そ、そうだ! 貴様のせいで雨が降らんのだ!」
「死ね!」
どうやら実力行使するしかないようだな。
「どけと言っている!」
威圧感を込め咆哮(ほうこう)する。
相手の顔に恐怖の色が宿る。だが構えた武器を下ろす気はないようだ。
どうやら殺すしかないようだな。
「いや、待て! 奴の髪の色は!」
初老の男が松明(たいまつ)を手に私の髪を照らす。
「これは……!」
「銀色の髪……紫の瞳! まさか精霊の……!」
「精霊様の神子がなぜこのようなところに!」
周囲がざわつく。私の髪がなんだと言うのだ。
「精霊様の神子よ! どうか雨を降らせたまえ!」
初老の男が床に膝をつく。
「「「「「精霊様の神子よ! どうか雨を降らせたまえ!」」」」」
一人が膝をつくと、他のものも競うように床に膝をついた。
黒檀の髪であれば悪魔とそしり、銀の髪であれば精霊の神子とあがめ助けてくれと乞うのか。
本当につくづくくだらない奴らだ。
「ならばそこをどけ!」
こんな愚にもつかない連中に構っている暇はない。
弟を救わねばならない。
「皆のもの精霊の神子様がお通りになる! 道を開けよっ!!」
初老の男が言えば、民衆が一斉に避け道ができた。
「神子様!」
「精霊様どうか雨を……!!」
「恵みの雨を!」
すがる連中を無視し、弟を抱きかかえ階段をのぼる。
民衆は牢のある建物の周囲を取り囲んでいて、外に出れない。
「くっ、邪魔だ!」
私の銀色の髪を見た民衆が「精霊の神子だ!」「精霊様のお使いだ!」と騒ぎ立てる。
目障りな連中だ。
「どうか雨を……!」
「雨を降らせてください!」
「お願いします! 雨を!」
口々に雨を降らせと迫ってくる。
雨か、それが降れば道を開けるのだな。
「雨よ降れ……!」
適当に言う。いかに精霊の血を引こうと半分は人間である私に天候を自由にする力などない。
これでどかぬなら実力行使だ。
「雨だっっ!」
「雨が降ったぞーー!」
「恵みの雨だぁぁ!!」
「精霊様の神子様が雨を降らせた!」
偶然に落ちてきた雨粒に、人々が空を見上げ狂喜乱舞する。
バカバカしい、雨など放(ほう)っておいてもいずれ降ったのだ。それがたまたま今だっただけの話だ。
「神子様!」
「精霊の神子様!」
「雨は降った、そこをどけ!」
押し寄せる民衆を一喝すれば、人々が避け道ができた。
こんな奴らにかまってる場合ではない。
弟の体がどんどん冷えていっている、早くなんとかしなければ。
人が避けてできた道を通る。雨が弟の身体を濡らす。
白地の服が濡れ、肌が透けて見えた。
よく見れば弟は寝巻姿だった。寝巻でここまで走って来たのか?
雨が体温を奪っていくはずなのに、なぜだか少し心が熱くなった。
「なぜあいつが外に! あいつは悪魔の使い! いや魔族だ!!」
声のした方に目をやれば、見知った顔が視界に入る。
濃い茶色の髪、黄色の瞳。牢番をしていた男だ。そうかやつが私の存在を教え、民衆をここまで誘導したのか。
「精霊の神子様に何を言う!!」
「あの方のおかげで雨が降ったのだぞ!」
「貴様、気でも狂ったかっ!」
牢番の男は民衆に押し倒され、袋叩きにされていた。
あのような者に構っている場合ではない。
一刻も早く弟を医者に見せねばならない。
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
私の体から弟が離れていく。私はとっさに手を伸ばし弟の体を支えていた。
弟のプラチナブロンドの髪は、灰色がかった茶色に変わっていた。
弟を支える腕から伝わってくる温度がとても低い。まるで魔力が全て抜けたように。
さらりと肩に落ちてきた自身の髪に目をやれば、銀色に輝いていた。
「バカな……」
なぜ私の髪は銀に戻った?
灰茶色に変わった弟の髪、同時に銀に戻った私の髪、魔力を消失した弟の体。
そこから導き出される答えは一つ、弟が私に光の魔力を渡した……?
私を助けるために自分の魔力を全て使ったというのか?
だがそうでなければこの現象に説明がつかない。
「なぜだ」
なぜ自分の命の危機にさらしてまで、私を助けた。
「いたぞ! ここだ!」
「死ね! 黒髪!」
「闇の力を持つ悪魔め!」
民衆が牢に乗り込んできた。
手に鍬(くわ)や鋤(すき)を手にし殺気立っている。
先ほどまでの私なら、奴らに殺されても構わないとやけになっていた。
だが今はそんな気はしない。
私が死ねばこの場にいる弟も一緒に袋叩きにされるだろう。
弟を死なせる訳にはいかない!
ゆっくりと立ち上がり、突き刺すような視線で相手を射すくめる。
「どけ!」
殺気を込め一喝すれば相手が一瞬怯んだ。
「だ、だ…まれ! 黒髪!」
「そ、そうだ! 貴様のせいで雨が降らんのだ!」
「死ね!」
どうやら実力行使するしかないようだな。
「どけと言っている!」
威圧感を込め咆哮(ほうこう)する。
相手の顔に恐怖の色が宿る。だが構えた武器を下ろす気はないようだ。
どうやら殺すしかないようだな。
「いや、待て! 奴の髪の色は!」
初老の男が松明(たいまつ)を手に私の髪を照らす。
「これは……!」
「銀色の髪……紫の瞳! まさか精霊の……!」
「精霊様の神子がなぜこのようなところに!」
周囲がざわつく。私の髪がなんだと言うのだ。
「精霊様の神子よ! どうか雨を降らせたまえ!」
初老の男が床に膝をつく。
「「「「「精霊様の神子よ! どうか雨を降らせたまえ!」」」」」
一人が膝をつくと、他のものも競うように床に膝をついた。
黒檀の髪であれば悪魔とそしり、銀の髪であれば精霊の神子とあがめ助けてくれと乞うのか。
本当につくづくくだらない奴らだ。
「ならばそこをどけ!」
こんな愚にもつかない連中に構っている暇はない。
弟を救わねばならない。
「皆のもの精霊の神子様がお通りになる! 道を開けよっ!!」
初老の男が言えば、民衆が一斉に避け道ができた。
「神子様!」
「精霊様どうか雨を……!!」
「恵みの雨を!」
すがる連中を無視し、弟を抱きかかえ階段をのぼる。
民衆は牢のある建物の周囲を取り囲んでいて、外に出れない。
「くっ、邪魔だ!」
私の銀色の髪を見た民衆が「精霊の神子だ!」「精霊様のお使いだ!」と騒ぎ立てる。
目障りな連中だ。
「どうか雨を……!」
「雨を降らせてください!」
「お願いします! 雨を!」
口々に雨を降らせと迫ってくる。
雨か、それが降れば道を開けるのだな。
「雨よ降れ……!」
適当に言う。いかに精霊の血を引こうと半分は人間である私に天候を自由にする力などない。
これでどかぬなら実力行使だ。
「雨だっっ!」
「雨が降ったぞーー!」
「恵みの雨だぁぁ!!」
「精霊様の神子様が雨を降らせた!」
偶然に落ちてきた雨粒に、人々が空を見上げ狂喜乱舞する。
バカバカしい、雨など放(ほう)っておいてもいずれ降ったのだ。それがたまたま今だっただけの話だ。
「神子様!」
「精霊の神子様!」
「雨は降った、そこをどけ!」
押し寄せる民衆を一喝すれば、人々が避け道ができた。
こんな奴らにかまってる場合ではない。
弟の体がどんどん冷えていっている、早くなんとかしなければ。
人が避けてできた道を通る。雨が弟の身体を濡らす。
白地の服が濡れ、肌が透けて見えた。
よく見れば弟は寝巻姿だった。寝巻でここまで走って来たのか?
雨が体温を奪っていくはずなのに、なぜだか少し心が熱くなった。
「なぜあいつが外に! あいつは悪魔の使い! いや魔族だ!!」
声のした方に目をやれば、見知った顔が視界に入る。
濃い茶色の髪、黄色の瞳。牢番をしていた男だ。そうかやつが私の存在を教え、民衆をここまで誘導したのか。
「精霊の神子様に何を言う!!」
「あの方のおかげで雨が降ったのだぞ!」
「貴様、気でも狂ったかっ!」
牢番の男は民衆に押し倒され、袋叩きにされていた。
あのような者に構っている場合ではない。
一刻も早く弟を医者に見せねばならない。
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