BL「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

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116話「⑨」

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――シエル・サイド――



「「光の盾リヒト・シルトっっ!!」」

何度目になるか分からない光の盾リヒト・シルトの詠唱。

かれこれ一時間以上、悪竜オードラッへの攻撃を受け続けている。

光の盾リヒト・シルトの効果は持って10分、効果が切れる前に上書きしなければいけない。

いくらエメラルドの杖が消費する魔法力を半分にしてくれるといっても、限界がある。

悪竜オードラッへは疲れなど微塵も感じていないようで、吹雪や氷の刃、水の弾丸を吐き続けている。時折放たれる真空波も厄介だ。

光の盾リヒト・シルトの範囲外の地面は真空波によってえぐれ、城の壁には亀裂が入り、庭の噴水は悪竜オードラッへの吐いた吹雪により凍っていた。

悪竜オードラッへが俺たちを集中的に狙ってくる理由は分からない、だけど悪竜オードラッへが俺たちを攻撃している間は、他の地域は安全だ。

悪竜オードラッへが俺たちを攻撃している間に、アインス公爵と私兵たちが街の人を安全なところに逃してくれるはずだ。

俺の肩には庭にいる大勢の人たちの命だけでなく、王都に住む大勢の人の命がかかってる、絶対に倒れるわけにはいかない!

「辛いか?」

ノヴァさんが心配そうな顔で声をかけてくれた。疲労が顔に出ていたのかな、かっこ悪いところ見せちゃったな。

「ノヴァさんが側にいてくれるから平気です」

俺の腰に添えられた腕からノヴァさんの体温が伝わってくる。ノヴァさんが隣にいてくれなかったらとっくに心が折れてる。

ノヴァさんが一緒なら、どんな攻撃にも耐えられる。

それに……この子のことも守らないとな、俺はちらりと自身の腹に視線を向けた。ノヴァさんとこの子と三人で幸せな家庭を築くんだ!

それにしても防戦一方ってのはまずいな、ヌーヴェル・リュンヌが来る気配もないし、なんとか悪竜オードラッへのすきをついて攻撃に出ないと魔法力が減っていく一方だ……。

その時耳慣れない音が聞こえた。



ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!
 


なんだ今の音は? 悪竜オードラッへの方から聞こえたけど、鳴き声とは違うような?

「ノヴァさん、今の音って……?」

「おそらく、悪竜オードラッへの腹の音のようだ」

そうか今日は復活祭、本当なら300人の生贄が悪竜オードラッへに捧げられるはずだった。生贄に捧げられるはずだった人たちを俺たちが救出してしまったから、悪竜オードラッへはお預けをくらってお腹を空かせている。

もしかして悪竜オードラッへが狙ってたのって俺じゃなくて、俺の後ろにいる生贄に捧げられるはずだった人たち?

善良な村の人たちを誰一人として、悪竜オードラッへに食べさせる訳にはいかない! 俺がこの人たちを守るんだ! 俺は杖を握る手に力を込めた。

「民を生贄に捧げるのだーー! 皆オードラッへの生贄になれーー!!」

国王がバルコニーから怒号をとばしている。

悪竜オードラッへの注意が国王に向いた、どうやらオードラッへは国王の放った「生贄」という言葉に反応したらしい。

悪竜オードラッへは溶け落ちてない方の目で、ギロリと国王をに睨みつけた。

バルコニーにいた国王は悪竜オードラッへの視線に気づき、顔を真っ青にして後退りを始めた。

「な、なんだその目は……! そ、そんな目で余を見るな……!」

国王は悪竜オードラッへに完全に食べ物としてロックオンされていた。

「国王、逃げろ!」

俺が叫んだときには、悪竜オードラッへは国王に向かって滑空していた。

「ひっ! 止めろ! 来るな! 生贄とは言ったが、余のことではない! 余が食べろと言ったのは民のことだ!!」

国王が側に落ちていた瓦礫の破片を悪竜オードラッへに投げつける、しかしそんな攻撃では悪竜オードラッへはびくともしない。

悪竜オードラッへが大きく口を開ける。

「シエル、見るな!」

ノヴァさんが俺の顔に手を添え、自身の胸に押し付けた。

バキバキバキバキッッ!!

という音が聞こえた、おそらく悪竜オードラッへにバルコニーが砕かれだ音だ。

「ぐぎゃああああああああ!!」

今のは国王の断末魔だろう……。

民衆から「キャーーーー!!」とか「うわぁっ!」という悲鳴が上がる。

聞こえてきた情報を整理すると、国王が悪竜オードラッへにバルコニーごと食われた……。

守れなかった……! 悪党だけど国王を死なせてしまった……!!

「気にするな、シエルのせいではない」

ノヴァさんが俺の気持ちを察してくれたようで、やさしく頭をなでてくれた。

「シエルは休んでいろ、後は私が一人で光の盾リヒト・シルトを唱える」

ノヴァさんはやさしい、でもノヴァさんに頼ってばかりはいられない。

これは俺の祖国の問題だ、アインス公爵も、アモルドさんも、アインス公爵の私兵も、衛兵も、みんな俺より力がないのに戦ってくれてる。

俺だけが逃げる訳にはいかない……!

「ノヴァさん心配してくれてありがとうございます、でも俺もまだ戦えます!」

俺は顔を上げて、ノヴァさんに言った。

「守りたいんです、この国の人たちを!」

「シエルは強情だな」

ノヴァさんが困ったように眉をしかめた。

「知らなかったんですか、母親は強いんですよ」

待てよ、俺は男だから母親ではなく父親になるのかな?

「ん? 母親とは……?」

ノヴァさんが不思議そうな顔で首を傾げた。

しまった! ノヴァさんにはまだ内緒だった!

「この戦いが終わったらノヴァさんにお話しします」

「ああ、そうしてくれると助かる」

「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」

悪竜オードラッへが咆哮を上げ、溶け落ちてない方の目でこちらを睨んできた。

これ以上あいつに人を殺させるわけにはいけない! 光の盾リヒト・シルトで守りに徹するだけじゃだめだ! 反撃に出ないと……!



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